第1152話 D組でよかった
オーランドからフォルガードへの転移。そしてフォルガードからユオブリアへ。
使節団の役目を果たしたことを、議会に報告し開放された。
お城からは王都の家へと馬車で送ってもらう。
アダム、兄さま、キュアと一緒だ。イザークは方向が違うので別の馬車。お城で別れた。
王都の家で着替えなどもしないまま、客間のソファーに腰を下ろす。
キュアにはゆっくりさせてあげたかったけれど、わたしは次の日から学園なので、そうも言ってられなかったのだ。
まず、キュアに好きなように生きてほしいと思っていて、そうできるよう協力をすることを伝えた。
第二大陸ツワイシプ&ユオブリアの共用語はユオブリア語だ。世界共用語やフォルガード語を話せる人ももちろんいるけれど、全員ではない。
フォルガードにもツテはあるから、フォルガード語で話せるところがよければそうすることができる。
身分は平民となる。
彼女はひとつひとつに驚き、理解が追いつかないようだった。
ユオブリアでは子供の奴隷を認めていないこともあるし、オーランドの奴隷ではなくなったのだから、手続きを踏めばユオブリアの平民となり、どこの国へ行っても平民として暮らすことができる。
まずはどの言葉の国で暮らすかを、しばらくはここにいて考えてと言ったんだけど、考えるまでもなくユオブリア語を覚えて、ユオブリアに居たいと言った。
ユオブリア語を覚えてからとなるけれど、何をしたいか、どう生きていきたいか、相談しながらみつけていこうと話した。
わたしは学生なので明日から学園に行き平日は寮で過ごす。また1週間後に話そうねと言った。アダムも兄さまもアルノルトもいるから、なんでも言っていいからと安心させた。
連絡したい友達や知り合いはいるかと尋ねると、キュアは首を横に振る。
わたしを上目遣いにチラチラ見ながら、自分は獣憑きなんだと、口にした。
その見目も見苦しいものだそうで、具合が悪くなったり弱るとその姿になってしまうそうだ。
普通の家に生まれ、突然変異の獣憑きとわかり、家族から奴隷に売られたという。
最初につけられた首輪は古いタイプのもので、変化した姿に対応する大きさに変わるものではなかった。大体はそれでも首輪としての機能が役立つのだけど、キュアはとても小さくなるので首輪が外れたそうだ。弱った時に変化し、首輪がハズレ逃げ出す。それでいっとき自由になったそうだけど、人知れず暮らしていた場所で魔力を検知され、再び連れ去られて奴隷になったそうだ。
女の子だったことから、王宮の下働きへと売られた。
質素であろうと食事をもらえるのでいい職場だった。
けれど、1年ほど前から第二王女つきの侍女になり、王女から「使えない」と鞭で打たれることが増えたという。それがとても辛かったんだって。痛みもだけど、キュアの紡がれる言葉から想像できたのは、尊厳っていうか自分が自分ではなくなるような感覚になっていったのかなと。物になったような。そして物でさえ大切にされるというのに、それにも値しない、そんな存在と思えたのかな、と。
いつまで続き、耐え抜いた先に何かあるのか、もうわからなくなっていたそうだ。
聞いているうちに、とても重たい気持ちになった。
キュアはとても痩せているから、ご飯をいっぱい食べて、まずは言葉を覚えてもらうことにして。メイドのヘリに彼女のお風呂と着替えと食事を任せた。今日はそのまま休んでもらう。
わたしはアダムと兄さまに、奴隷に見えた子供たちは変化のスキルがあるのかもしれないというと、二人は少し考えてそうかもしれないなと言った。
とりあえず平日わたしは学園に行くので、後のことをふたりに頼んだ。
学園でも気をつけて過ごすよう言われる。
もちろんとわたしは頷いた。
上級生の制服は少しお姉さん仕様だ。
執事見習いだったデルが卒業し、御者に雇ったのがビト。元冒険者で体格のいいおじさんだ。胸の病気を患って冒険者を引退して仕事を探していた。激しい運動をしなければ大丈夫なそうなので、王都の家の御者&雑用要員として働いてもらうことになった。
ビトが馬車からおりるのをエスコートしてくれた。
『リディア、警戒しろ』
もふさまの声で身をこわばらせると、ビトがわたしの前に出る。
「アネスト語:へー本当にドラゴンを侍らせてる」
「セイン語:なんだそれなりに可愛いじゃないか。これくらいなら……」
タボさんはお願いしていた通り、ユオブリア語でない言語にはアナウンスを入れてくれる。共用語じゃないから、わからないふりをした方がいいね。
「初めまして、ドラゴンを従えるレディー。今日から留学生で世話になるジョルジョ・ロッシ・アネリストだ。本来なら5年生だけどユオブリア語はまだうまくないから4年生で、君と同じ。よろしくね」
さっきはアネスト語を話した人が、ユオブリア語で挨拶をしてきた。深緑の髪に濃い茶色の瞳。髪は長くひとつの三つ編みにしている。
ビトにうなずき、感謝してから前に出る。
「初めまして。リディア・シュタインです」
とカーテシー。
鑑定をかけるとアネリスト国、第四王子だ。
鑑定がなかったら知り得ないはずなので、何も言わないでおく。
第四大陸の国なんか全部知らないし。
「僕はルドルフ・オス。14歳で、君と同じ4年生です」
セイン語だった方の人は、茶色の髪に、榛いろの瞳。優しそうな印象だ。
鑑定をかけるとセイン国の公爵家の第三子のようだ。
セイン国からの留学生をよく許したな。あ、表立ってセインのしたことと言えないから認めない理由にはならないのか。
第六夫人がセイン国の王女だったことは、公式発表されてないからね。言ったところで、本人がいない以上、言いがかりとしか言わないだろうし。
同じようにカーテシーをして、挨拶だけする。
「殿下に公子。こちらにいらっしゃいましたか」
ヒンデルマン先生だ。ホッとする。
わたしはビトにお礼を言って、家に戻るように指示した。
ドラゴンちゃんたちはわたしに群がり、時々飛んでもふさまにひっついたりする。
「教室にご案内します」
「それには及びません。令嬢と同じ教室でしょう?」
「殿下たちはA組ですから、彼女とはクラスが違います」
二人はバッとわたしを見る。
「B組ですか?」
貴族女子だもん、ま、そう思われるよね。
「いいえ、D組ですの」
その時のふたりの顔ったら!
完全に当てが外れた顔をして。それからコイツ馬鹿なのかと侮蔑の表情が浮かぶ。
よかった、わたしD組で!




