第1149話 オーランド滞在⑥調停
わたしの中でオーランドの好感度だだ下がりだ。
でもそれも明日までの我慢。
あとは寝るだけなんだから……と思っていた。
宴から帰ってきて、こちらはサウナみたいのがお風呂の代わりのようなので、用意してもらった桶とお湯、タオルで体を清めてから眠った。
明け方だと思う。
もふさまが顔をあげたので、わたしも目が覚めた。
赤ちゃんたちも何かを察して鳴き声を上げた。
ノックされて、出ると兄さまだ。
「どうしたの?」
わたしたちに用意されたのは、廊下から入る客間がありその客間に4つドアがあって続き部屋がある。廊下のドアのところで騎士さんたちが見張りをし、わたしの部屋のドアの前でガーシとシモーネが交代で見張りをしてくれていた。
ちょうどシモーネが見張りをしていた時だ。
廊下からのドアがかちゃりと開いた。そして小さな少女が恐る恐るという感じで入ってきた。客間で立っていたシモーネに驚き慌てて出ていったところを捕まえた。
ドア前の騎士は眠っていた。あとからお香みたいので眠らされたのがわかる。
そのドタバタでみんな起きて灯りをつけた。
客間には少女を拘束したシモーネがいたというわけだ。
少女は「ごめんなさい、許してください」を繰り返していた。
何をしに来たのかという問いかけにはパーニエを返してもらいに来たということだった。
こんな時間にか?というと黙り込み、廊下の見張りを眠らせてか?というと唇を噛み締め下を向いた。
「キュアさんと言ったかしら? パーニエは着替えてすぐにお返ししましたよ?」
そう告げれば驚いたように顔を上げた。
民族衣装を贈るというからくれるんだと思っていたので、引き取りに来ましたと言われて、ちょっと驚いた。着替えて一式をすぐに返却した。
彼女の様子から見て、パーニエを返してもらいに来たのではないのだろうけど、そう言えば体裁は整うはずと思っていたんだと思えた。返却されたことを知らされていなかった、ということになる。
「キュアさん、何を持ってくるように言われたの?」
そう尋ねれば、アダムたちはわたしをチラリと見た。
「誰が、とは聞かないわ。何を持ってくるように言われたの?」
モジモジした彼女はわたしを上目遣いに見た。
エリンたちより小さいとは思っていたけれど、実際はもっともっと幼いのかもしれない。
「パーニエにつけていたブローチ」
ああ、なるほど、ね。
わたしが部屋に引き返すと兄さまたちに名前を呼ばれた。
テーブルの上に置いたままにしていたブローチを手に取る。録画の魔具だとわからなければ使いようがないしね。
あ、そっか……。
客間に戻り、少女の手にブローチを持たせる。
「これはあなたが盗んだんじゃないわ。わたしがあなたにあげるのよ」
「な、なんで?」
ぶあっと少女の目から涙が出てくる。
「あなたはこんなことしたくないのよね? でも立場から断れない。わたしは奴隷制度をよく思っていないの。でも、この国のことだからわたしにはどうすることもできない。そのお詫びね」
少女はわたしの手を取って額につけ泣きながら「感謝します」と何度も言った。
少女を見送ってから、心を落ち着けるために温かいお茶を飲んだ。
「よかったのか?」
イザークに聞かれる。
「あの子が鞭で叩かれるよりはいい」
「君もよくやるよ」
アダムはそう言うけど。
「でも、あの子が奴隷ということは変わらないからな」
と兄さまが真実を言った。
「そうなんだよね。
ただあたりが強いのは……この国はわたしたちが揃って若いから、馬鹿にされたと思ったみたい」
「……もしかしてレオたちを忍ばせたのか?」
アダムが驚いている。
「失礼ね。そんなことしてない。みんなベッドにいるよ」
今は赤ちゃんたちを宥めてくれている。
じゃあどうやってと聞かれたので、トイレに行った時に、外でみんなが話していたと告白する。
獣憑きと思われていることも報告すると、皆の目つきが悪くなった。
体の温まったところで、もうひと眠りすることにした。
お香で眠ちゃった世界議会から遣わされた騎士さんのことは、世界議会に報告させていただきますっ!
朝食は部屋で取ることができたのでよかった。
これで最後に世界議会の調印者の見守る中、謁見して、アダムと王さまが握手したら、第六大陸に友好を示せたことになる。
ドレスの着付けを婚約者に手伝わせ、使節団のトップに髪を編み込んでもらう。
さて、騎士さんの案内で、再び謁見の間へ。
世界議会からの見届け人・調停者はカードさんだった。もうユオブリア担当になってるんじゃない?ってぐらいカードさん率が高い。
アダムがここ2日のもてなしを感謝して、王さまは「ドラゴンの赤ちゃんなんて珍しいものを見せてもらい和んだ」など適当なことを言って、二人は握手した。
ふぅ。これで使節団の役割は果たしたね。
カードさんはみんなに挨拶してから、わたしにも挨拶をしてくれた。
「お久しぶりです、リディア嬢。ドラゴンと仲良くなれるなんて、そうそう誰でもできることではありませんよ?」
「ありがとうございます。仲良くなれたのがわたしの何かなら、嬉しい限りです」
「シュタイン嬢は世界議会の方とも親しいのですか?」
「……何度かお世話になったことがあります」
第五王子にもニコッと笑ってみせる。使節団の一員だからね、わたし。っていうか、ドラゴンと仲良くなった当事者だし。
「第六大陸にはドラゴンの巣があります」
「銀龍の巣ですね」
銀龍ちゃんが自分が呼ばれたと思ってフォーフォーと鳴く。
「どうぞ、第六大陸にもっといらしてください。銀龍も子供と会いたいでしょうし」
「ありがとうございます」
「お兄さま、獣と人は相容れないものですわ。ドラゴンになんて今まで興味なかったではありませんか」
「セイラは相変わらずおつむが弱いね。シュタイン嬢と出会ったからドラゴンにも興味を持てたんじゃないか」
この王子さま自分の思いを隠すのが上手いのね。腹黒いのかもしれない。
純粋にドラゴンに興味を持ったお子さまかと思っていたけど、そうじゃないみたいだ。まぁ、ここを立ってしまえば、今後会うこともないだろうからいいけど。
もちろん第六大陸には来させてもらう。でも秘密裏にだ。




