第1141話 ダメージの話(前編)
「今日はチーム戦にしようぜ」
ブライが元気に言った。
それも面白そうと思ったのか、レオたちは即座にOKする。
戦力を分けるので、一度クリアした階である111階に決めた。
111階は天候の階。魔物に苦戦するというより状況が悪い。
雨のエリア、吹雪のエリア、日照りのエリア、嵐のエリア。戦闘しにくい天候の詰め合わせの階となっている。
魔物はわりと強いけど、大物で数が他の階より少なめ。ドロップ品が高価なものが出てくる。
先週、地下135階に到達した。その前の133階と134階は食料品が多かったな。
みんな家にドロップ品を持ち帰り、かなり喜ばれたらしい。希少価値のあまり出回らないものとかが大量だったから。最初はおいしいお肉に感動してたけど、あまりに続くとねぇ。
111階と聞いて、わたしはげんなりする。得意じゃないのよね。だけど、終焉のことを考えると、尻込みしている場合じゃないと思える。どんなことも糧になるから。
ダンジョン攻略、最初はドラゴンちゃんたちを心配した。赤ちゃんの時に亡くなることも多いって聞いたし。でもこの子たちは少しぐらいの雨じゃ、いいや、吹雪ぐらいなんてことない。防水加工されているかのような鱗は雨を弾く。嵐みたいにすごい風が加わると、まだ小さく軽いから風に飛ばされそうにはなるけど。風邪をひいて体調を崩しそうになったのはわたしで、赤ちゃんたちはケロッとしていた。
そして赤ちゃんたちも戦う。
小手始めに、一世代コッコとダンジョン好きのコッコを誘って、低層階に挑んだ。コッコは面倒見がよく、今までも自分たちの子供に戦い方を教えてきたから、安心して任せられる。赤ちゃんたちは問題なく戦えた。
コッコたちレベルはクリアしたということで、もふもふ軍団に見てもらいながら、もうちょっとレベルの上の階層に行ったところ、そこも問題なかった。銀龍ちゃんだけは怖がりだけど、ただ怖がりってだけで能力的には問題ない。
仲間たちみんなのレベルは地下100階越えからで問題ないと思ったものの、一応、
83階と95階を挑んで問題なかったので105階、111階、125階ときて、130階から初の階層をみんなでクリアしていった。
ドラゴンの赤ちゃんたちはそこでも躊躇うことなく、魔物にも挑んでいた。
さすがに100階を超えると、赤ちゃんたちのブレスが敵にそこまで効かなかったりするので、みんなでフォローしている。ふにっとしているのに頑丈なようで、吹っ飛ばされてどこかに当たっても、びっくりしたよーと泣いて報告に来はするけど、そこまでダメージになっていないのはさすがって感じだ。
みんなに赤ちゃんたちの名前をつけないのかって聞かれたけど、半年で乳離れしたら、種族の元に返そうと思っているので、種族名で呼んでいる。もう情はたっぷりうつっちゃっているけど、名前までつけていたら、それこそ離れがたくなりそうだから。名前をつけないことで、自分に言い聞かせている。
4チームに分かれた。わたしとひとグループにされるのは、赤ちゃんドラゴンともふさま。なのであとはルシオとノエルとアオが追加された。
エリンはわたしと同じ班になれなくて悔しがったけど、ダニエルにうまいこと言われて、チーム戦で勝ってわたしに褒めてもらおうとすることで納得したようだ。
わたしたちは雨エリアで挑むことにした。嵐だと赤ちゃんたちは吹っ飛んじゃうからね。
戦っていてあることに気づいた。
「ルシオって神力と聖力、どちらも使えるんだね」
「一応、神官だから……」
ルシオは眉を下げて申し訳なさそうに言った。
「その使い分けって、どういうふうに分けているの?」
「え?」
『リディア、前から来るぞ!』
言われて前をみると、木のお化けみたいな背の高い何かが光のブーメランみたいのをわたしにぶっ放したところだった。
まずっ、間に合わない!
と思った時にはノエルに抱きかかえられ、軌道のずれたところに〝転移〟していた。その木のお化けには赤ちゃんたち、ルシオ、もふさまが総攻撃をかけていて、雨の中で煙を上げる真っ黒焦げになっていた。
「ごめん、ありがとう!」
『気を抜くでない!』
もふさまには怒られたけど、赤ちゃんたちは褒めて褒めてとひっついてくる。
着ているレインコートの上にひっついてゆすられると、中に雨が入ってくる。じわーっと内側が濡れてきて、寒くなりくしゃみが出た。
「大丈夫?」
ルシオに気にかけてもらって、頷く。
「それより、聖力はどんな時に使っているの?」
「僕はアダムや殿下ほど魔法の攻撃力はない」
そういうけど、次いでぐらいには破壊力があるよね?
「一回で倒せない時に気づいたんだ」
わたしはルシオを見上げた。
「最初に聖力を広い範囲で展開する。その後に神力を使えばダメージが大きくなるって」
普通の攻撃、1回で難しい時、先に聖力をふっかけておいて、その後に神力で攻撃するとダメージが大きくなるってこと?
「すごい発見だね」
「え?」
ルシオは首を傾げる。
「僕が感じているだけだから、実際はどうなのかわからないけどね」
ルシオは謙遜するけど、それ、当たりじゃないかな?
聖力と神力、聖なる方に属する力と、神に属する力。
聖歌は別だけど、聖力を使うと魔力が減るから魔力を使って発現できるもの、なんだと思う。
もふさまは言った。
『神獣は破壊、聖獣は再生を役割とする。あの時、空の守護者が罰を下したなら、空の護り手も姿を現し〝再生〟を施しただろう』
それでいくと、神力は破壊、聖力は再生を司るはずだ。
ルシオは再生をかけて、破壊した。一見真逆な攻撃の組み合わせに思えるけど……もしかして先に再生をしておくと、再生を促されたまま破壊を上乗せできるのでは?
わたしは提案する。エリア展開で聖力で攻撃をしてみるから、その後神力で攻撃してほしいとお願いした。
ノエルも得意ではないけれど、メテオというスキルがある。隕石を呼び寄せてそれを敵にぶつける。魔力消耗が激しいし、少し時間がかかるので、あんまり使わないと言っていた。天由来の神力の攻撃だ。
前からやってきた、象レベルの鹿のような魔物に聖力で攻撃。
これは保護膜のカーテンのイメージで、上からそのカーテンを被せる感じ。聖力だけれど、これに敵意を乗せる。
終わったところにルシオとノエルに合図を送った。




