第1110話 Mother⑩映像
何にってそりゃ赤ちゃんたちの可愛さに。
そりゃちっこいぬいぐるみが動いているようなもんだもんね。悶える。メロメロにもなるよ。
他の種族の小さい子を見ることもないようだし。
それが5匹のずんぐりむっくり、よちよち歩きちゃんたちが歩く様子や、おしくらまんじゅうしてうたた寝しているところとか。ピッタリくっついてきて、鳴いてるところとか。どうしてくれようかっていうぐらい可愛い(いや、どうもしないんだけど)。
『人族の娘よ、こ、これはなんなのだ?』
長が気持ち震えている。
「ええと、昨日の赤ちゃんたちの姿です」
『なぜここにいないのに、いや、昨日と言ったな? 過去の姿が、なぜ今見えるのだ?』
「ああ、ええと。これは魔道具の一つで。録画と言って、ええと」
言葉に詰まってわたしは兄さまを見上げた。
「実演して見せたらどうだ?」
わたしの言葉だけで推測したのだろう、アダムからアドバイス。
その言葉にうんと頷き、兄さまに手伝ってもらう。
「見ていただいた方が早いので実演します。今から、兄さまが録画します」
兄さまはわたしから受け取ったネックレスを上に掲げて、右から左へと銀龍さまたちを映していき、そしてまた折り返した。
そして最後にわたしと赤ちゃんを撮ってくれた。
大型スクリーンにしたプレイヤーの魔具を渡すと、兄さまは映像を撮ったチップをそちらに嵌め直した。
兄さまが岩壁をスクリーンに見立て、映像を再生する。
ズラリと並んだ銀龍たちを映し出していく。そして最後にわたしと赤ちゃんが映る。
息をのんでいる。大きく屈強な銀龍たちが。
『なんと!』
『これは!』
『これは人族しか扱えないのか?』
あれ、これは使いたい感じかな?
「爪で押せます?」
大きな体で器用に〝ボタン〟を押すことはできた。けれど、チップを入れ替えるのは難しいだろう。
レオたちも小さくなって何度も挑戦してできるようになったことだし。
「これは人族用の魔道具としてやりやすいようにしたものですが、皆さま用に改良したものを贈りましょう」
ざわざわしてる。自分も欲しいという声が。
『人族は硬貨というものでやりとりしていると聞く。我らはそれを持たない』
「あ、いいですよ、贈り物にします。あ、でももしできたら、稲妻ドラゴンの巣の場所を教えていただけませんか?」
『それは元々伝えるつもりだった』
それはありがたい。ただそこで赤ちゃん銀龍が飽きちゃって、むずがりだしてしまったので、明日また出直すことにした。
赤ちゃんたちの映像は、ボタンを押せばいつでも再生するように改良して、お母さんドラゴンに渡した。
いつでも来てくださいと言って、わたしたちが第二大陸から来たというと驚いている。映像を撮ったのは昨日と言ってなかったか?と言われ、転移のようなものでこの大陸まで来ているんだと濁していうと、そうかとうなずいてくれた。
簡単に聞いたところ、稲妻ドラゴンは空に雲のような何かを作り出してそこで暮らしているんだって。それ、人族忍び込むの無理じゃない?って思う。
そして他のブラック、グロウィング、クリスタルドラゴンは人族が行けないところに巣があるっていうから、それは全くどこだ?と思ってしまう。
その日からわたしは赤ちゃんたちに、ことあるごとに皆には本当のお父さんとお母さんがいるんだよ。みんなが生まれてくるのを楽しみにずっと待ってたドラゴンだよと言ってみた。
帰ってから報告がてら新情報を求めると、レオがさっきまで来ていたイザークから聞いたと教えてくれた。
ブライがセレクタ商会と接触したようだ。セレクタ商会は倒産したタールバッハ商会の従業員たちが共同経営している商会だ。設立してからまだ日が浅い。特に王都での進出はポッと出の新顔には厳しいという。そこでブライの家のような長く騎士団長を輩出している家と繋がりたいということだった。
ブライは自分はまだ学生だし、次男だから自分へのアプローチは間違っていると直接的に言ったそうだ。
セレクタ商会の人はそんなブライの歯に絹を着せぬ、率直なところがますます気に入ったと言ったそうだ。それからこの繋がりは未来の投資であるのだと。自分たちはブライがソードマスターになると確信していると言った。
ソードマスターって何?って聞くと、剣の使い手の誰もが目指すところで、その頂点だそうだ。魔力とは違う〝オーラ〟と呼ぶものを剣に乗せることができるとソードマスター候補者の資格を得られるんだって。
ルシオが言うにはその〝オーラ〟というのは、〝神力〟や〝聖力〟をそう呼んでいるのではないかと推測しているという。イザークは色でオーラが見える人。ルシオのその説明を聞いた時に、自分は〝神力〟や〝聖力〟の混ざり具合を色で視覚的に捉えていたのかもしれないと思い、魔力とはまた違うオーラというものが、その説明でピタッと嵌ったように感じたという。
神力ならロサもアダムも使えるから、ソードマスターになれるんじゃと思ってしまった。実際、ふたりは強いけど、ソードマスターとは相容れないと思っているらしい。どこら辺が違うのか、それはわたしにはわからない。
第六大陸で銀龍たちに囲まれていたときは、怖がりむずがっていた赤ちゃん銀龍は、秘密基地で他の赤ちゃんと一緒にいれば、機嫌よくしている。
わたしたちが長く話をしていても、他の赤ちゃんたちもむずがることはなかった。




