第71話 外国人部隊
2回表。2対0のツーアウト満塁という場面で、三村さんは私と勝負を選んだ。まあ、ここで敬遠しても次がヒットを打っている本城さんだから、私と勝負するという選択肢は決して間違っていない。
初球は、ツーシームを外側に、ボール球を投げて来た。恐らく、あの球威を保ちながらなるべくコースに集めて、打ち損じに期待しているのだと思う。実際、私が打ち損じることはたまにある。
ガールズの最後の大会、私の成績は96打席74打数66安打で、本塁打は16本、四死球は22だった。8打席分、打ち損じているわけだ。夏の大会も10割じゃなかったし、完璧には程遠い。
だけど、詰まらせようとしていることが分かっているのに打てない私じゃない。私が打ち損じる時は、完璧に意表を突かれた時と、三振を取りに来た球に何とかして合わせようとした時だけだ。2球目、インコースのひざ元に放り込んで来たストレートをジャストミートし、右中間に流す。
……インパクトの瞬間、ホームランにはならないと思った。そこで身体の回転を抑えて、右中間に打球を引っ張るイメージで振り切る。センター後方のフェンスに当たった打球は守備側の意表を突くような跳ね返り方をしたため、走者一掃のタイムリースリーベースとなった。
ここで、相手の監督は背番号1番のエースに代える。昨日、クイックが下手で炎上していたのに、よく投げさせようと思ったな。三村さんの方が良い投手なのに、1番を与えない理由も分からない。性格的な問題や、学年的な問題はあるだろうけど。
続く本城さんもセンター前へヒットを打って、私はホームに帰る。智賀ちゃんがホームで待っていてくれたのでハイタッチ。
「このピッチャーなら、アウトコースを待って打てばホームランになるよ」
「わかりました!」
6対0から、智賀ちゃんが容赦なくツーランホームランを打ったので2回表終了時点で8対0と圧倒的な差を付けることに成功した。その後は打線に繋がりを欠いたけど、優紀ちゃんが変化球中心のピッチングで凡打の山を築き、11対1で5回コールド勝ちとなった。
優紀ちゃんは4回に長打と犠牲フライで1点を失った以外、本当に完璧なピッチングだった。5回は、相手も何とかして1点を取って試合を続けようとしたけど、その1点を許さなかった。スライダーとフォークの変化量がようやく上がった感じもするし、変化球で空振りを取れる場面も増えて来た。
何はともあれ、初戦は無事突破だ。次の3回戦の相手は、大方の予想通り統光学園になった。
統光学園の試合は先発の友理さんが5回を完封。打線も13点を取って、統光学園は13対0の5回コールド勝ちをしている。早くも、今大会の山場になるかな。
2回戦終了後、学校に戻ってミーティングを行なう。2回戦から3回戦の間は、日曜日から土曜日まで、中5日だ。その間に、どれだけあのスライダーに対応できるようになるかが勝負の鍵になる。もっとも、別の投手が投げる可能性もあるからほどほどにしないといけないけど。
「統光学園ちゅうところは、神奈川県人が少ない学校でな。エースの伊東以外は、ほとんどが県外出身者や」
「勝つために、県外から選手を集めているのよね?いわゆる、外国人部隊?」
「そういうこと。まあ、私も久美ちゃんも神奈川出身じゃないから、湘東学園にも外国人部隊がいるとは言えるけどね」
高校野球で、度々話題となる外国人部隊。神奈川でもそのような高校は存在する。神奈川の3強である横浜高校と、統光学園だ。逆に神奈川県出身が多く集まるのは、東洋大相模という感じ。
……まあ私自身が県外出身者だし、この話題はあまり触れたくないかな。御影監督がやたらと胡散臭い解説で1人1人の弱点まで教えてくれるけど、信じて大丈夫なのだろうか?いや話し方が胡散臭いだけで、指摘している内容自体はまともだ。
「秋からエース番号を付けた伊東に関しては、カノンの方が詳しいやろ。カノンが解説するか?」
「私も、1試合対戦しただけですよ。
えっと、映像の通り右投げのサイドスローで、普段はこんなスライダーを投げています」
ビデオで撮れている映像で投げられているスライダーは、右打者に当たるような角度から外角のストライクゾーンに決まっている。
これだけならまだ、曲がり始めが早いから対応は難しくない。問題は、決め球の高速スライダーだ。
「こっちの高速スライダーは、見て分かる通り気持ち悪い投げ方から気持ち悪い速度で、気持ち悪い角度で曲がるよ。本当に、バットを当てようとしても当たらない球だから、決め打ちでバットをしっかりと振り抜くしかない」
「肘が、ぐにゃんと曲がって無い?」
「うん。そんな感じに見えるね。腕全体がしなっているし、サイドスローであの投げ方は、かなり肘に負担がかかるはずだよ。だから、高速スライダーを連投はして来ないと思う」
ストレートとほぼ同じ速さで、右バッターにとっては内角のボール球から外角のボール球まで変化する。しかも曲がり始めが遅いから、本当にかなりの角度で曲がっている。
ただ、真凡ちゃんの指摘通り肘に負担がかかりそうな投げ方をしているので、連投はして来ないはず。私に対して、3球続けて投げて来たのは忘れないけど。基本的に強打者に対して、高速スライダーは1打席に1球あるかないかぐらい。
この友理さんを打ち崩すために、マシン打撃をするのは逆効果かもしれない。マシンでは投げられない、異質な球だし、人が投げる方が良い。
また、統光学園の控えの投手も良い投手が沢山いる。それに合わせた練習も、しないといけない。軟式だけど、去年の全中覇者がベンチ入りしている。
確か、中学時代に125キロをマークして騒がれたはず。今ではもっと、速くなっているのかな。




