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TS転生したから野球で無双する  作者: インスタント脳味噌汁大好き


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第57話 副キャプテン

「あづい……死ぬ」

「後2ケース分、打ちますよ」

「カノンのノックの単位がおかしいんですけど……」


合宿初日。午前中はマシン打撃やトスバッティングなどの打撃練習に費やして、午後は二手に分かれて守備練習を行なう。久美ちゃんと智賀ちゃんと真凡ちゃんは外野組で、矢城監督がノッカーを務めている。


私がノックを担当するのは本城先輩、奈織先輩、美織先輩の内野組だ。優紀ちゃんと詩野ちゃんは走り込みに行った。


特に本城さんは、ファーストも不慣れなのでノックの回数を増やす。肩を痛めないようにするため、全てファーストまで踏みに行かせている。捕球する度にダッシュするのは、かなりきついはず。


奈織先輩や美織先輩の送球はちゃんと捕れるから、最低限は出来そうだけど。ファーストが守備の穴にならないよう、本城さんの守備練習は増やす予定だ。


練習に参加するのはほぼ1年ぶりで、暑そうにしている本城さんは、それでもしっかりと打球を捕球出来ている。流石に元強豪校で扱かれていただけあって、私の速い打球も怖くないようだ。


二遊間の連携は不安要素じゃないので、美織先輩と奈織先輩には守備範囲ギリギリに打って少しでも一歩目を早く踏み出せるように経験を積ませる。これは矢城監督の方が得意なのだけど、矢城監督は2人いないので仕方ない。


そろそろ矢城監督じゃなくて、矢城コーチになるそうだと聞いたけど、どんな人が監督になるのだろう?ちなみに、県大会ベスト4のご褒美でナイター照明設備が設置されるとのこと。工事は、2学期中に行なうそうだ。


1番暑い時間帯にノックを行なった後は、これまた二手に分かれて今度は総合練習。片方は優紀ちゃんが投げる変化球を、智賀ちゃんが打つ。真凡ちゃんがキャッチャーをしているけど、優紀ちゃんの変化球もちゃんと捕れるようになっているのでいざという時の捕手は大丈夫そうかな。


部員数が9人なのにいざという時を考えても仕方のないことだけど、真凡ちゃんがキャッチャーを出来そうだということは素直にありがたい。目が良いから、ちゃんと変化球を見切って捕球している。まあ、優紀ちゃんの変化球はあまり曲がらないけど。


「優紀ちゃんは、ひたすら実戦形式で変化球を投げて貰うよ。投げる順番は、把握しているよね?」

「内角にスライダー、外角にカーブ、内角にフォーク、外角にチェンジアップ、内角にシュートで一巡でしょ?

その後は外角にスライダー、内角にカーブ……って順番で良いの?」

「うん。その順番で問題無いよ。智賀ちゃんの変化球打ちの練習も兼ねているけど、優紀ちゃんの練習でもあるからね。……5種類の変化球をちゃんと内外に投げ分けられるようになれば、今まで以上に失点は減るはずだよ。

じゃ、智賀ちゃんにこの5球種の打ち方を教えてくるからちょっと待ってて」

「うぃうぃ」


優紀ちゃんに変化球の投げ込みをさせるのは、優紀ちゃんが試合でストレートをほとんど使わない投手だからだ。今までの試合で、優紀ちゃんは結構打たれている。それは、変化球の投げ込み不足だと私も詩野ちゃんも判断した。


詩野ちゃんが優紀ちゃんをエースにしたい理由は、変化球がどれも決め球と呼ぶには相応しく無い、という理由もある。変化球投手で、変化球にこだわりが無いのはある意味で良いことだとも言っていた。


……要するに、決め球が無いからこそ意識的に投げる球種が無いということだ。もしも優紀ちゃんのスライダーが決め球だったら、打者も捕手も投手もスライダーを意識する。リードには、必ず影響する。それが無いからこそ、詩野ちゃんは優紀ちゃんをエースに推した。


もう片方のグループでは、グラウンドのマウンドに久美ちゃんが立つ。キャッチャーが詩野ちゃんで、ファーストには本城さん。私がランナー役で、本城さんは久美ちゃんや詩野ちゃんからの牽制球を受け取ったり、ランナーを挟む訓練もしておく。


内野陣だけで色んな状況を想定するけど、人数が少ないので工夫はしないといけない。この後は、久美ちゃんと詩野ちゃんのバッテリーを相手に、私が何度か盗塁勝負をした。1塁への牽制球で刺される場面も多かったけど、久美ちゃんの牽制は上手いので良い練習になる。


「……マネージャー希望の子、募集してみる?ランナー役やボールの回収なら、手伝ってくれるかもしれないし」

「募集してなかったっけ?一応、2学期になったら張り出してみようか」


守備練習が終われば、今度はロングティや打撃投手を智賀ちゃんや私が務めるフリー打撃に入る。暗くなって来たらボールを回収して、重りを持ったランニングを行なう。2キロずつの重りを両手に持ちながらグラウンドを20周したら、またベースランニングを50本走り切る。


「意外と、久美ちゃんもランメニューで苦しむね」

「……たぶん、走り込んでないんじゃない?中学時代は、それでも問題無かっただろうし。

あと、カノンの設定した量は普通に多いから」


まだ若干ぶっきらぼうではあるけど、詩野ちゃんの口数が増えて来たことも合宿の成果かな。練習内容を考える時に、結構意見は出してくれたし、役職に応じて喋る量を増やすタイプなのかもしれない。そうだとしたら、副キャプテンに指名して正解だったかな。


夜はお勉強タイムだけど、まだ初日のお陰か全員がちゃんと勉強に向き合っていた。優紀ちゃんの勉強には詩野ちゃんと久美ちゃんが対応してくれるので、私は本城さんの勉強を見る。鳥本姉妹はまだ平均点レベルだから良いとして、本城さんは優紀ちゃんと同じく赤点ギリギリという成績だから、何とかしないといけない。


「三角関数が全く分からないのだけど、カノンは分かるの?」

「分かりますよ。問題見せて下さい」

「……あれ?もしかして僕、1年生より頭悪いの?」

「私がちょっとおかしいだけなので気にしないで下さい。

あ、三角関数は円で考えた方が分かりやすいので図を書きますね」


ちょっと落ち込んでいる本城さんに対して、数学を中心に色々と教えていく。元々そこまで頭が良く無かった私なら、同じような感じで理解が出来ていない人に対して、理解できるように説明することは出来る。幸い、本城さんが躓いていたポイントは私と同じだったので、何とかなりそうかな。

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