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TS転生したから野球で無双する  作者: インスタント脳味噌汁大好き


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第42話 打撃戦

6回裏、同点のツーアウトランナー1塁3塁の場面で緊張をしないバッターはいないだろう。特に智賀ちゃんは今日3三振で、チームに迷惑をかけているという思いの方が強い。


「だ、大丈夫です、ふぁいじょうぶですから……」

「いや、そう言う人が1番大丈夫じゃないから。落ち着いて深呼吸をして、話をゆっくり聞いてね」

「すーはー、すーはー。

は、はい!もう大丈夫です」

「うん、あまり深呼吸に時間は取れないから、打席に立つ前にもう一度、ゆっくり深呼吸をしてね」


緊張というか、今まではあまり気負って無かったせいでいつものにこやかな智賀ちゃんは何処かへ出張してしまっている。三振は気にしないでって言っているけど、この打席で三振したら後に引きそうだし、石川さんが相手なら打てそうなので打ち方を伝えておく。


「変化球は気にせず、思いっきり振っても良いよ。あと、スクリューが来たら間違いなく外角低めに決まるから、真ん中に緩い球が来たと思ったらいつものように外角低めを意識して振って」

「スクリューですか。真ん中から、外角低めへ……」

「そう。たぶん、1球は必ず来ると思うよ」


石川さんの変化球は3球種あるけど、スライダーとシュートはさほど変化をしない。ビデオで見る限りだと、バッターの手元で変化をして、芯を外すような変化球だと感じた。だから芯を多少外しても飛ばす力がある智賀ちゃんは、スライダーとシュートを意識しなくても良い。


智賀ちゃんがストレートに絞っていることは今までの打席でバレバレだろうから、持ち味のスイングスピードを維持して、スクリューをかっ飛ばすことにする。新田さんの配球的に、右打者に対してはスクリューを1球は投げるし、それを決め球にすることも多い。


右打者にとって、石川さんのスクリューは真ん中から逃げるような球だから捉えることは厳しいけど、智賀ちゃんならやってくれると信じる。体格の良さは、手足の長さにも繋がっている。腕を伸ばして、いつも通り外角低めの球を飛ばす意識でスイングをすれば、良い当たりは出ると考えた。


そして智賀ちゃんに対して2球目、カウント1-0からストライクを取りに来たスクリューを、智賀ちゃんは初見で捉えた。本当に私を信じて、愚直に外角低めの球を捉えるスイングだった。


打球はセンターの頭上を越え、長打コースとなる。湘東学園のベンチからは智賀ちゃんに対する歓声が沸いたし、東洋大相模のベンチからは悲痛な叫びが聞こえた。


3塁ランナーの私はホームに帰り、1塁ランナーの小山先輩も3塁を回ってホームへ。判定はセーフで、湘東学園は2点を追加する。


これで4対6と勝ち越しに成功し、スタンドのどよめきも大きくなった。本格的に東洋大相模が、負けそうになって来たからだろう。それと同時に、東洋大相模の応援団が一層大きな声で応援を始める。ベンチにも入れなかった3年生が、あそこには何人いるんだろう。


続く久美ちゃんもツーアウトランナー2塁のチャンスだったけど、残念ながらファーストフライに倒れてしまった。何だかんだ50球近くは投げていたし、高校初の実戦ということで疲れていたのもあるけど、石川さんの立ち直りが早かったかな。


試合は最終回の攻防に入る。あとアウト3つだけど、これが遠いのは私自身、よく知っている。だからこそ、私はマウンドでの守備が下手な演技もした。


東洋大相模は8番バッターに対して、代打を出す。背番号は12番で、3年生の控え捕手かな。この回に追い付かないと守備機会も無くなるから、控えのキャッチャーでも打撃が良ければ代打で出る。決して、思い出代打では無いだろう。東洋大相模は控えの選手もレベルが高いし、練習試合の経験は豊富だ。


でも、今までずっとベンチメンバーだったのは間違いない。東洋大相模の正捕手新田は、有名な選手だった。万が一のための存在が、この場面で考えて打てるわけがない。そのことは、私自身がよく知っている。


……打席に立った背番号12番の人は、一礼した後に吠える。だいぶ、余裕が無いように見える。きっと、昔の私もあんな感じで打席に立っていたんだろうな。


1点差の9回裏、ワンナウトランナー無しの状況での代打。忘れられるものでは無いし、一生忘れない公式戦初打席。


このバッターだけは、私が組み立てた方が良いかな。初球にボール球を要求する詩野ちゃんに対して首を振って、右手を胸に当てる。ノーサインの合図だ。


初球で終わりたくないから、間違いなく初球は見て来る。東洋大相模のベンチからは、初球から振っていけ、なんて言葉をかけている。だけど初球から振れる精神力なら、彼女はレギュラーにだってなっているはずだ。


初球はストレートを甘いところに投げる。この1球で、バッターには打てるというイメージが湧くはずだ。次は振って来ると予測し、高めの釣り球を投げる。全力でバックスピンをかけて、可能な限りスイングを誘った結果、見事に振ってくれたのでツーストライクと追い込んだ。


……ノーサインだから詩野ちゃんは少し慌てた感じだったけど、ちゃんと高めの速球を捕れている辺り、本当に優秀なキャッチャーだ。遊び球は無しで、最後はツーシームを低めいっぱいに投げ込む。雨のせいか、いつも以上に落ちるツーシームに、代打で出て来た娘は空振り。三振でワンナウトだ。


これで、あと2人。東洋大相模は続く石川さんにも代打を出す。この代打の人は、さっきの人とは違って随分と落ち着いている。東洋大相模の最後の切り札だろうし、抑えるのは難しそうだ。だけどランナーを出したまま、東洋大相模の上位打線は迎えたくないな。

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