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TS転生したから野球で無双する  作者: インスタント脳味噌汁大好き


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第34話 野球人

「小鳥遊さんの球、どんな感じだった?」

「ぐわーって、凄いスピンで曲がってった」

「あー、打ち上げたのはスライダーかな。マシンの球と比べてどうだった?」

「角度が真横に近いし、マシンの球より変化量も鋭さも上だよ。カノンちゃん以外、まともに打つのも難しそう」


優紀ちゃんがファーストへのフライという結果に終わったとはいえ、小鳥遊さんの球を打ったので、打った感触を聞いてみる。球質は凄く重かったようで、思っていた以上に飛ばなかったとのこと。


続く7番の真凡ちゃんは、幸運にも完全に勢いが死んだ打球をサードに飛ばして内野安打となる。サードの頭を超える打球を、打とうとした結果かな?流し打ちで完全に詰まった当たりが、ぬかるんだ地面で転がらなくなったのか。ほとんどバントヒットと変わらない結果だ。


それでも、初回に続いてランナーが出た。ワンナウトランナー1塁という状況で、大野先輩に監督が出したサインは送りバント。続く9番の詩野ちゃんに賭ける気だろう。


「えっと、実松さんも大野さんも何か勘違いをしていると思いますが、交代するのは西野さんですよ?」

「ええっ!?私が変わるの!?」


何故か大野先輩の覚悟の決まった表情を見て勘違いしていたけど、交代するのは優紀ちゃんとのこと。優紀ちゃんの打順に、久美ちゃんが入るようだ。


よく考えてみれば、優紀ちゃんより大野先輩の方が打てるし、バントなどの小技もできる。優紀ちゃんがサードで小山先輩がファーストをするより、小山先輩がサードで大野先輩がファーストをする方が良い。


……でもせめて、前日のミーティングでそういうことはちゃんと伝えておいて欲しかったです。というか2回表の攻撃を抑えた後に、矢城監督が大野先輩に向かって「大野さん、次の回で交代です」と言ったのが誤解の原因かな。


大野先輩は三塁線に転がして、送りバントを決める。小鳥遊さんもバントをさせまいと速球で押して来たし、打球の勢いは強くなってしまったけど、その勢いが途中から止まった。三塁線は、早くも水が溜まっているみたいだ。


大野先輩のバントを嫌がったということは、詩野ちゃんの情報を向こうは掴んでいるみたい。今日の試合は守備に集中できるようにと9番に据えられたけど、詩野ちゃんは調子次第で強豪校のエースに押し負けないバッティングが出来る。


ツーアウト2塁という状況で、打席に立たせたくはないバッターだっただろう。おまけに次は私だから、敬遠も難しい。小鳥遊さんと詩野ちゃんの勝負はどうなるのかなと思いつつ、私もネクストバッターズサークルへと向かう。




(9番梅村、ね。何で湘東学園に実松と梅村がいるのか知らないけど、来年を見据えた打順なのかしら。

……本当に、不快ね)


マウンドに立つ小鳥遊は、左バッターボックスに立った梅村を見下ろす。1年生にしても背の低い梅村へ投げることに、小鳥遊は若干の投げ辛さを感じていた。


(7番の子もそうだけど、小さいのが多いわね。1年生の時から試合に出られて、羨ましい限りよ。私達なんて、2年の秋からしか試合に出られなかったのだから)


初球、低めにストレートを外す。それを目だけで見送った梅村を見て、小鳥遊は昨日のミーティングを思い出した。



「チームの中心選手であるカノンを警戒するのは当然として、今大会でホームランを放っている4番と5番も一発を警戒する必要はあります。そして厄介なのは、梅村の存在でしょう」

「その娘も、1年だよね?そんなにバッティングが良いの?」

「今大会の1回戦は2打数2安打で犠牲フライも打っています。2回戦は2打数1安打でフォアボールが1つ。ガールズでも仕事はしていくタイプでしたし、一度波に乗れば止まらない選手です」

「先発は柏原さんだよね?私に言っても意味無くない?」

「いえ、私は高確率で小鳥遊さんが投げる展開になると思っていますよ」



(結局、美濃(みのう)さんの言った通りになったわね。……あなた達は、引退する3年生も少ないんでしょ?それなら、道を譲ってくれないかしら!)


2球目、気持ちの入った低めのスライダーを梅村は当てに行き、ファールとなる。すました顔でカットをする1年生に、小鳥遊は妙な感覚を覚えた。


(練習試合で初見のスライダーを合わせられたこと、今まであったかしら?今日は雨だけど、いつも以上の速度とキレは出ているはず。それなのに、あっさりと合わせられる1年生……)


3球目は内角の高めにストレートを外し、カウントは2-1となる。バッティングカウントとなり、小鳥遊が4球目に投げたのは得意のカーブだった。


(ふざけるなっ!!)


3年間、小鳥遊は自身の長所である速球を活かすためのカーブに磨きをかけ続けた。昨年、先輩達が県大会準決勝で散ってしまった時の姿をベンチから見ていたし、今年の春も甲子園で悔しい思いをした。


様々な想いを背負い、マウンドに立っている小鳥遊は外角低めのストライクゾーンへ決まる、変化の大きいカーブを投げる。普通のバッターなら、初見だとまず手が出ない球だ。


しかし空気を壊すことに定評のある梅村は、外角に決まるカーブを流し打つ。打球はサードの頭を越え、3塁線に沿うように飛んだ。

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