第302話 対面式
豪華な昼食を食べ終わり、上級生側が自己紹介をした後、1人ずつ新入生達が自己紹介を始めるのを眺める。
「101号室、1年1組の北条文乃です。神戸ガールズ出身で、右投右打の内野手です。基本、ショートを任されてました。趣味は音楽鑑賞とアロマですね。これからよろしくお願いします」
「北条さんは、来週の土曜日に試合に出すからそのつもりでいてね」
トップバッターの北条さんが自己紹介をした後、北条さんに今週の土曜日の試合に出す予定を伝える。まあ遅かれ早かれ全員に伝わることだし、今年入って来た1年生の中で現状1番の実力者だから問題ない。嫉妬とかもあるだろうけど、そういうの躱すの得意そうだし。
「さっきの会話を聞いている人は知ってると思うけど、春の県大会の枠は北条さんを除いてあと1枠空いているからアピール頑張ってね。じゃあ、次!」
「はい。102号室。1年1組、塩野谷夢未です。ポジションはキャッチャーで、好きな食べ物はカロリーメイト。ここにいる全員の名前は頭に入っているので、ここにいる全員、私の名前ぐらいは憶えて貰えると嬉しいです。これからよろしくお願いします」
「103号室、1年1組、園城寺美姫ですわ。ポジションは投手で、さっきの夢未と同じ中学、ガールズ出身ですの。カノン先輩から誘われてここに入りましたわ。今後とも、どうぞよしなに」
推薦組の3人は私が声をかけたから知っているけど、私の二つ下ともなると断られるケースも多くて選手の確保には苦労した。今年は夏に大阪桐正に負けて甲子園ベスト8という結果だったから、強い選手がたくさん来てくれるかなと思っていたら、去年よりも釣れなかった感じ。
まあ今年の夏の大会までしか一緒に野球は出来ないし、湘東学園が今後ともずっと強豪校であり続ける保証はどこにもないからね。それでも湘東学園に入りたいという人はある程度残っていたのは幸い。私に釣られたというよりも、私に釣られて入って来た現2年生世代が目的の子も多そう。
「104号室、1年6組、番匠留佳だ。ここに入った目的は、甲子園で活躍できるから。ここでエースになって、プロになるのが目標だ。今後ともよろしく」
「105号室、1年4組の小橋愛です。ポジションは外野手で、走ることには自信があります!よろしくお願いします!」
「……106号室。1年2組。織部真理愛。希望はピッチャーです。よろしく」
番匠さんは異次元の才能を持っているけど、態度が大きすぎて扱いに困りそう。ただ私の言うことは聞いてくれるみたいなので、ちゃんと言えば分かってくれるかな。同室の優紀ちゃんとの相性は悪くないみたい。何だかんだで優紀ちゃん、握力は結構強いしね。
真凡ちゃんと高谷さんと同室の小橋さんは、歓迎試合に出ていた子だね。傾向的には高谷さんと似たような感じだから、同室で良かったかな。智賀ちゃん、なかやんという大砲と大砲候補と同室になった織部さんは、歓迎試合に出場していない。
同室だった智賀ちゃんによると中学時代は漫画部だったらしく、野球経験はほぼ皆無。そんな子が今の湘東学園の野球部に入ってきて、入寮も希望したというのは度胸があるね。なんかグデーとしているし、入寮日の午前中のランニングテストでは幸先よく3周目で脱落したらしいけど。
希望は投手だから投球練習はさせていくけど、体力の無さは地道な練習を積み重ねるしかない。もしかしたら凄い才能の持ち主かもしれないし、智賀ちゃんや真凡ちゃんみたいに化けるかもしれない。やる気があるのなら、湘東学園野球部は誰だって受け入れるところだよ。
その後も自己紹介は続いて行き、今年は44人の入部希望者がいたことを伝えられる。2年生になって一部の子が辞めたから、寮生は制限ギリギリいっぱいの98人という状態。来年までには増築しないといけないけど、来年の入部希望者数が不明だから増築に踏み切るかは不明。ただ、6人以上はいるだろうからこのままだと定員をオーバーすることは明らか。
まあ来年のことは学園長の伯母が考えているだろうし、御影監督や矢城コーチも下級生達だけで甲子園を制覇する道筋を描いている。私達が今するべきことは、夏の甲子園制覇に向けて、夏の神奈川県大会までに出来ることをするだけだね。
「これで全員自己紹介は終わったかな。1年生達はこれから3年間、高校野球生活を悔いのないように送ってね。
午後は普通の練習をするけどその前に連絡。U-18W杯の代表候補に入っている優紀ちゃんと智賀ちゃん、ひじりんは後で監督室に集まってね」
自己紹介が終わったら、今年のU-18W杯代表候補に選ばれた優紀ちゃん、智賀ちゃん、ひじりんを招集。ちなみに私と真凡ちゃんは既に内定済みです。前年度以前に代表に選ばれた人間は、既に内定済みとして、各高校3人縛りとは別枠で日本代表になることが確定したっぽい。
これは単純に大阪桐正から3人までしか選べなかったから戦力が不足した去年の反省点を、解消するために導入されたとのこと。3人までって、結構少ないような気がするしね。それでとりあえず今年は私と真凡ちゃんと裕香ちゃんを別枠にしたかったのだと思う。これで湘東学園からは5人まで、宝徳学園からは4人まで代表を選べる。
ひじりんが今年の秋の県大会の序盤でいないのは不安要素だけど、まあ何とかなるかな。今年の夏の甲子園は去年みたいに試合数が多くないから、甲子園の決勝からU-18W杯開始までかなり余裕がある。昨年度U-18W杯優勝枠で参加できるしね。
連覇もかかっているし、投手のタイプを色々と揃えたいだろうから優紀ちゃんはまず選ばれるんじゃないかな。あと、智賀ちゃんをあの大砲大好き岡沢監督が外すとは思えない。問題はひじりんだけど、セカンドは今年競合が少なそうだから2年生でも選出は十分にあり得る。
……大砲大好きだから詩野ちゃんは選ばれなかったんだと思うけど。あと久美ちゃんが選ばれないのはちょっと不満かな。まあでも各高校3人縛りがある以上、私と真凡ちゃんを除いた湘東学園から3人を選ぶとしたら私も優紀ちゃんと智賀ちゃんとひじりんかな。
監督室では代表候補合宿についての説明を受けたようで、3人とも気合いが入っていた。私と真凡ちゃんは行かないので、各高校の強い選手のデータ収集と、データを取られないようにアピールするよう伝えておく。あと優紀ちゃんは、代表に選ばれたいなら国際球の感触に慣れるのも必要かな。
今年のU-18W杯は、日本の優勝だろうと言われている。まあ真凡ちゃんと私と裕香ちゃんという昨年のレギュラーが3人も残っているし、最大の難敵のアメリカは谷間の世代とか言われているから優勝はそう難しくはないと思いたい。




