第286話 ホテル
練習試合が解禁され、初戦の日大産戦を15対0で勝った湘東学園は、選抜甲子園が始まるまでの期間の練習試合で全て10点差以上の快勝を続け、甲子園の地に赴く。これで2年生組は通算3回目の甲子園だから、流石に慣れて来たね。
選抜甲子園に出場する高校の部員達は、滞在費が渡される。去年の春の甲子園は部員数が少なかったから満額まで貰えなかったけど、去年の夏からはベンチ枠が埋まって満額支給されるようになった。今回滞在するホテルは去年の選抜の時と同じなので、少し懐かしい気分になった。
「梅田の駅近はやっぱり良いね。しかも今回は、統光学園が別のホテルだし息苦しく無いよ」
「去年の春は、神奈川県勢3校が同じホテルだったわね。それにしても、綺麗に分かれたわね」
「神奈川県同士が決勝まで当たらないように、配慮していたからね。ただ、向こうの山は大阪桐正が勝ち上がって来るんじゃないかな」
「私達の山は、準決勝で宝徳学園と当たるわよ。……何度見ても、一回戦は神宮大会優勝校の北海大谷ね」
組み合わせ抽選会を2年生組で囲って見ていると、真凡ちゃんは優勝候補4校が綺麗に分かれたこと、1回戦の相手が神宮大会で優勝した北海大谷であることに触れる。エースの鎌也さんは、冬の間にどれだけの力を蓄えたんだろう？
絶対に当たる相手だから御影監督や矢城コーチも真剣に分析しているけど、私達が1番警戒しないといけないのは準決勝で当たりそうな宝徳学園だね。宝徳学園の入った山は他にも智伝和歌山や習志野、福智山星美などがひしめき合っている、死のブロックになっている。
一方で湘東学園は、1回戦こそ神宮大会で優勝した北海大谷だけど、総合力はそれほど高く見えないし、2回戦の相手候補もそんなに強くない。……今年は21世紀枠同士の1回戦があるから、必ず21世紀枠が1回戦を突破することになるね。潰し合いという形になるけど、こっちの方が勝ち上がり率は高いんじゃないかな。
甲子園で練習できる時間帯も決まり、ホテル近辺の高校のグラウンドを借りて練習も出来るけど、ほとんどの選手は近くの公園で軽く素振りしたり、観光がてらに走る程度に留めている。まあ、中には全力で筋トレしている子もいるけどね。高谷さんとか水江さんとか。
「大阪桐正と統光学園と宝徳学園は、必ず勝ち上がって来るよ。と言いたいところだけど、宝徳学園の1回戦は咲進学園かぁ……」
「死のブロックですねぇ……。大阪桐正が準決勝まで勝ち上がって来るのは間違いありませんが、統光学園の方は兵庫の明石工科や高知の土佐商業が強いですよ」
「土佐商業は、今年の夏の2回戦に統光学園と戦って12対6だね。ここも因縁の対決かな」
やぐらを見て、あーだこーだ言うのは楽しい。久美ちゃんが統光学園のブロックの方も触れるけど、統光学園の負けるイメージが湧かない。そして断言はしない久美ちゃんでも、大阪桐正は勝ち上がると見るぐらいには大阪桐正のブロックに甲子園強豪校が居ない。
毎年、くじ運だけは悪いと言われていた大阪桐正だけど、今年のキャプテンはくじ運が良いってことだね。……根岸さん、実力だけじゃなくて運もあるのか。というか、どちらかといえば去年までのキャプテンの、運が悪すぎたのかな。今年の夏とか、1回戦から決勝までひたすら強い高校と当たり続けていたし。
まあとにかく、1回戦の北海大谷戦に向けて準備をするだけだね。日程は大会初日の第2試合だから、開会式の後、第1試合の埼玉代表の埼玉農大三対広島代表の呉港の試合を見届けてから試合に入る。
この第1試合の勝者とは2回戦で当たるし、出来れば生で観戦したいけど、開会式は超満員になるし、スケジュール的にも難しいかな。64校もいた今年の夏の甲子園のことを思うと、32校しかいなくて1日3試合の選抜は余裕のあるスケジュールだ。
「1回戦が初日、2回戦が6日目、3回戦が9日目だから日数的な余裕もあるね」
「1回戦と3回戦が、私の登板になるかな？」
「うん。たぶん、その2つが優紀ちゃんの先発になるね。2回戦は久美ちゃんと宮守さんでリレーする感じになるかな」
投手陣が多い上に、この日程だから投手が尽きる心配は無さそう。島谷さんも怪我の完治後、130キロはマークしているし、何処かでロングリリーフも任せられるかな。
……準決勝や決勝の相手の事も考えて、逆算してローテーションを組むとしたら3回戦で島谷さんの先発もあり得るかな。出来れば決勝で当たりそうな大阪桐正に、優紀ちゃんをぶつけたいんだよね。となると準決勝は久美ちゃんになるから……やっぱり、3回戦は島谷さんが先発かも。
投げ過ぎは良くないことだけど、試合間隔が空き過ぎるのも調整が難しい。まあでもその辺を考えるのは、1回戦を勝ってからで良いかな。北海大谷は軽く見られている神宮大会と言えども、その優勝校だし、北海道地区の出場枠を一枠増やした。
私にとって、最後の選抜甲子園が始まる。昨年の雪辱を晴らすためにも、途中で負けるわけにはいかないね。
