第27話 2回戦
期末考査に向けた勉強漬けの生活が始まった西野さんだけど、試合日を迎える今日はしっかりと寝られたようだ。今日の先発は西野さんで、打者一巡を投げ切って貰う予定だと矢城監督は言っていた。
西野さんは変化球が多彩だけど変化量が少ないし、簡単に見破られるから2巡目以降は通じにくい。そもそも、ストレートに力が無いから簡単に打たれてしまう。というか1巡目でもよく打たれる。だけど、1巡目ならまだ被打率は低い。
だから1巡だけ、変化球中心で投げて出鼻を挫かせようという魂胆だ。西野さんが投げ切った後は、大野先輩の出番となる。
湘東学園 スターティングメンバー
1番 中堅手 実松奏音
2番 遊撃手 鳥本美織
3番 二塁手 鳥本奈織
4番 三塁手 小山悠帆
5番 右翼手 江渕智賀
6番 一塁手 大野球己
7番 捕手 梅村詩野
8番 投手 西野優紀
9番 左翼手 伊藤真凡
打順は1回戦から少し変わり、ポジションはキャプテンと大野先輩と西野さんがローテーションした形になる。智賀ちゃんは昨日、ホームランを打っているから、相手が変に意識をしたら面白そう。
まあ、智賀ちゃんはホームランを打った後、3打席連続で空振り三振だったけど。本当に、1か100しかないバッターになりそうだ。本当はもっと、ツーベースヒットを量産するようなバッターになって欲しかったのだけど……これはこれでありな気がする。
2回戦は、平塚高校の攻撃から始まる。どうやら向こうがジャンケンで勝って先攻を取ったらしい。基本的に後攻が有利な野球で、先攻をわざわざ取ったのだから何か思惑はありそうだけど、向こうのキャプテンの気分、という可能性もあるから何とも言えない。
……実際、気分で先攻を選ぶキャプテンとかいたし。前世のことだけどさ。
さて。西野さんが変化球中心で投げるということは、今日はゴロが量産されそうだ。湘東学園の要の選手として、梅村さんの存在は大きい。というか、守備面で一番貢献しているのは梅村さんだと思う。
彼女のリードは間違いなく相手の得点の減少に繋がっているし、野球脳が高いというか、裏を突くことが大好きな性格の人間だ。大人しいし、口数は少ないのに、腹黒い一面もある。
そして内野陣は、守備が一番改善された。監督のノックが上手かったのもあるけど、エラーをしないようになったことが最大の強化だろう。4月の練習試合と、6月の練習試合ではエラーの数が3割以下に減っている。一気に中堅校~強豪クラスまでエラーが減ったことは、練習の成果の表れだ。
守備に関しては私が入部したての頃に少しだけ送球のアドバイスをしたけど、そのお陰か内野陣の送球ミスはほとんど無くなっている。センターラインの鳥本姉妹が、綺麗に打球を捌けるようになったのも大きい。私も含めてセンターラインの守備が上手いと、自然と失点は減る。
あとは、意識の問題になる。強豪校ばかりと戦えたために、1回戦や2回戦で当たる相手の動きを見ると『勝てそう』だと思える。この意識は非常に重要だし『勝って当たり前だな』と思えるようになると実際に勝てるようになるのはよくあることだ。それで足を掬われることも、多々あるけど。
と言っても、今回は相手も強いから地力の差が出るはず。どちらの総合力が上なのか、ちょっと判断が難しい。向こうの投手にうちの打撃陣が通用するかは、微妙かな。7回までを西野さん、大野先輩、私の継投で極力失点を抑えることが、勝利への条件になる。
1回表の西野さんは1番をショートゴロで打ち取るも、続く2番3番に連打を浴びて、4番とワンナウトランナー1塁2塁の状況で勝負になった。2連続で引っ張り方向のレフト前ヒットだから、やっぱり西野さんの球は遅い。速くなったとは言っても、MAXで112キロだからなぁ……。
そして相手の4番バッターが、左打席に立つ。この人は両打ちみたいだけど、右投げの投手を相手にセオリー通り、左打席に立っただけだ。
西野さんはカウント1-0から2球目をストライクゾーンに入れて、それを相手の4番は捉える。強烈なライナー性の打球になって、センター方向に飛んで来た。セカンドランナーは、3塁を蹴ってホームへと向かう。
……当然センターを守る私はホームへ全力で投げて、ホームはアウト。その間に2塁に向かった4番打者は、梅村さんに刺されてスリーアウト。打者4人に対して被安打3でスリーアウトという結果になった西野さんは、複雑な顔しながらガッツポーズをしていた。
「ナイピッチ!次は下位だし、何とかなるよ」
「あはは、ありがと。
……カノンちゃんがいなかったら、1点取られてまだ攻撃が続いていたんだよね」
「いや、智賀ちゃんや真凡ちゃんでも今のは刺せてたと思うよ。完全に向こうが、こっちを舐めてた走塁だったね。よっぽど先取点が欲しかったのかな。
とりあえずあと一回、全力投球して来なよ」
「うん!その前に、点を取って来てね」
声をかけると、それほど気落ちはしてない模様。これからこちらの攻撃が始まるし、何とかして援護したいな。
それにしても2回戦で大槻さんクラスのエースと当たることになるとは、思わなかった。角田さんは大槻さんよりか速球に脅威は感じ無いけど、大きな変化量を持つ縦スライダーは脅威だ。
ファールで粘って集中力を切らすという手も残っているけど、あまり露骨にし過ぎると注意されるし、1回戦で偵察はされているだろうから、気持ちが切れる前にさっさと敬遠するだろうな。そう思って打席に立ったら、勝負をしてくれるようだ。
……1点を取るだけなら、ホームランで良い。だけど次に繋げやすいのは、ランナー3塁の状況だ。スライダーを、キャッチャーが完璧に捕れていない。それなら、3塁にランナーのいる状況の方がプレッシャーをかけられる。
カウント3-0から4球目、敬遠気味に投げられた内角の縦に落ちるスライダーを、ジャストミートする。ボール球をすくい上げるようにして打った打球は狙い通り右中間に飛び、フェンス際で止まった。




