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TS転生したから野球で無双する  作者: インスタント脳味噌汁大好き


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第23話 イップス

1回戦の試合日前日。明日へ向けてのミーティングが終わった後に、久美ちゃんと会話をする。ミーティングでは、1回戦で勝った場合の大会中の特殊な練習スケジュールも組まれた。


最後まで勝つことが出来れば、甲子園に行ける。甲子園でも勝ち上がれば、小山先輩や大野先輩と、より長く野球を続けられる。


でも、このままだと勝ち上がるビジョンは見えて来ない。だから私は、久美ちゃんに頼る。


「久美ちゃんは、自分で試合に出られると思う?」

「分かりません。結局、練習試合では一試合も投げていませんから」

「投げるチャンス自体は幾らでもあったでしょ。

……私が、打席に立つよ。打席に人がいれば、コントロールが乱れるのなら、その状況で投げ続けるしかない」


今までずっと、久美ちゃんはマウンドで打者のいる方向に投げられなかった。どうしてもコントロールが、上手くいかなくなる。それを解消するには、成功体験で過去を超えるしかない。


……あとはショック療法もイップスに対しては有効だと思うのだけど、何かあるだろうか?マウンドが久美ちゃんにとって怖い場所じゃ無くなれば、解消するとは思っているけど、難しいなぁ。


「……行きます!」


久美ちゃんの姓が春谷じゃなくて堤だった中学時代、武器だったのはノビのあるストレートと正確なコントロールだった。芯を外すカットボールと、落差のあるドロップカーブやフォークを持っていて、間違いなく全国大会で通用するピッチングをしていた。


だから、2年生でもチームの中心だった。我が儘も、多少は聞いて貰えたのだろう。全国大会まで久美ちゃんのチームを引っ張って来たのは間違いなく久美ちゃんの力だったし、私との対戦も久美ちゃんが望んだから実現したことだ。


……結果的に、その勝負のせいで負けたことは事実だ。その後のピッチャーライナーが故意か偶然かは分からない。ただ、ガールズの3年生の引退試合で起こってしまった悲劇は、確実に久美ちゃんへトラウマを植え付けた。


「……ストレートがワンバウンド、か。

やっぱり、ストライクゾーンに入れるのが怖いんだ」

「……ごめんなさい。ボールをリリースする時、どうしていたのか分からなくなるんです」

「謝る必要は無いよ。

んー、とりあえずバッターがいなければストライクを投げれるまでには回復しているよね?」


今の久美ちゃんは、バッターがいるとコントロールがまず無くなる。ストレートにもノビが無くなっているし、表情も苦しそうだ。


心理的な病は、専門家でもきっちりと治療するのは難しい。そもそも個人個人で最適解も違う。だから私は、あくまでも私なりの解決策で久美ちゃんのイップスを克服させようと思う。


「久美ちゃんが、幸せを感じられる時っていつ?」

「えっ?し、しあわせですか。えーと、ケーキを食べている時だと思います?」

「なにケーキ?」

「モンブランです!」


不幸があったことを、幸福で塗り替える方法。たぶん、解決できるならこれが一番早い。そして久美ちゃんに一番幸福感を感じる瞬間を聞いて、返って来た答えはモンブランだった。久美ちゃんは、甘い食べ物が好きなのかな。女の子は基本的に甘いもの好きだけど、モンブランという回答はちょっと意外だった。


ということで早速モンブランをマウンド上で食べさせようかと思ったけど、その姿を思い浮かべたのか久美ちゃんに断られてしまった。私もちょっとこれは無いかな、と思ったので他の方法を模索する。


「成功体験よりは、幸福感の方が手軽だと思うけど……何か、して欲しいこととかある?」

「…………抱き着いて下さい」

「えっ」

「思いっきり、抱き締めて下さい」


すると、抱き締めて欲しいと久美ちゃんから要望があった。薄々感付いてはいたけど、久美ちゃんは私のファンというより、私を好意の対象として、想いを寄せているのだろうか?


……出来ることなら協力するって合宿の夜に言ってしまったし、抱き締めてあげようか。マウンド上で、久美ちゃんを抱き締める。そのまま、私の胸で久美ちゃんの頭を抱き抱えた。本当、練習中に何をしているんだろう。


「すぅーはぁー」

「……汗の臭いしかしないと思うけど、深呼吸して大丈夫?」

「良い匂いなので大丈夫です」


私の胸の谷間で、完全に蕩け切った顔をする久美ちゃん。スポーツブラとユニフォームの上からだから、あまり密着はしていない。深呼吸をして恍惚な表情をされるのはちょっと怖いけど、久美ちゃん側からもしっかりと抱き着かれているので引き離すことも出来ない。


たっぷり数分間、私の谷間を堪能した久美ちゃんは、陶酔した表情で投球を開始する。打席には、先程までのやり取りを冷ややかな目で見ていた梅村さんが打席に立っていた。


しかし久美ちゃんは、軽やかなフォームでボールを投げ切った。力こそ入って無いものの、ストライクゾーンにストレートを投げ入れることが出来た。


「……多幸感でトラウマを蘇らせなかった、という感じ?」

「たぶん、そうだと思う。

久美ちゃん、復活おめでとう」

「ふぇ?

……今、ストライクを投げていましたか?」

「投げてたよ。魂が抜けたような顔で、綺麗なストレートを投げてたよ」


これで一歩、前進した気はする。今はまだ元の投げ方じゃないけど、文字通り私が一肌脱げば、完全復活すらしそうだ。トラウマが物欲、というか肉欲で払拭出来るなら、喜んで協力はしよう。

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