第21話 ユニフォーム
しばらくすると、小山先輩がくじを引くことになったので、あまり期待せずに小山先輩がくじを引くのを眺める。結果は、3番。Aブロックの、上の方だ。3回戦で、Aシードの東洋大学付属相模高校と当たることになる。
その前の1,2回戦で負けなければ、テレビに映ることは出来そうだな。まあ、わりと悲惨な引きをキャプテンは見せてくれた。2回戦で、そこそこに強いと噂の平塚高校と当たるようだし、最悪と言っても良い。
初戦の相手は、川崎総合高校。去年の夏は、3回戦進出だからうちと一緒か。部員数には、大きな違いがありそうだけど。何でこっちは10人しかいないのに、向こうには64人もいるんだ。
このくじ結果をみんなに伝えると、わりと残念そうな顔をしていたけど、どうせ優勝候補とはいずれ戦わないといけないのだし、早いか遅いかの違いだけだ。
抽選会の翌日。雨だったので智賀ちゃん、真凡ちゃんと筋トレに励んでいたら、小山先輩から集合の合図があった。何だろう、と思ってると、試合用ユニホームの配布が始まる。
背番号は大野先輩が1番、梅村さんが2番、小山先輩が3番、奈織先輩が4番、西野さんが5番、美織先輩が6番と続き、真凡ちゃんが7番、私が8番、智賀ちゃんが9番となった。ベンチ入りの枠が空いているし、緊急時には試合に出て貰う約束もしているので、久美ちゃんには10番が渡された。
背番号は刺繍で、生地はメッシュだ。こうして試合用ユニホームを受け取ると、胸にグッとこみ上げて来るものがある。デザインはシンプルに、両胸に『湘東』と藍色で書かれている。インナータイツも藍色だから、藍色で統一している感じだ。
筋トレと真凡ちゃんのフォームチェックを終わらせて、早速ユニホームを着ようとしたら西野さん、梅村さん、久美ちゃんが先にユニホームを着ていた。抜け駆けされた、と急いでユニホームに着替えていると、奈織先輩と美織先輩も自主トレが終わったのか部室に来たので、一二年生全員でユニホーム姿になる。そしてその姿を写真に収めることになったので、久美ちゃんがカメラを構えた。
後日、その写真が3年生の先輩達に見つかり、先輩達も含めて改めて写真を撮ることになる。
開会式が間近に迫った週の水曜日。『月刊高校野球 神奈川大会完全ガイド』という野球雑誌の増刊号神奈川県版を真凡ちゃんが持って来ていたので、1年生全員で一緒に読む。
「あ、私達も載ってる!」
「半分はカノンさんの記事ですけどね……この前、取材に来たんですか?」
「うん。ちゃんと全国制覇しますって言って来たよ」
週間ペナント増刊号では高校の紹介もされていて、西野さんは湘東学園の紹介が1ページ丸々使われていることに興奮する。他の普通の高校とかは大体半ページで済まされているから、期待度が若干高いのかな?写真は、この前のユニフォーム姿での集合写真が掲載されており、その下には注目選手という枠で私の詳細記事が載っていた。
「こうして経歴見ると……カノンちゃんって本当に何でうちに来たの?」
「いや、野球部がここまで酷いとは思って無かっただけだよ。
……んー、まあ、進路に関してはかなり無頓着だったかな?」
西野さんが唐突に私の入学理由を聞いてきたので、理由を話す。
「ほら、強豪校に入って1年の時からスタメンで活躍するの、あまり面白そうじゃないし」
「強豪校でも1年からスタメンって、どれだけ自信があるのよ」
「あはは、その点は、自信しか無いよ。
それとね、私の力でどこまでいけるかなって、試してみたくなっちゃって。野球は1人じゃ出来ないっていうのは知ってるんだけどね。
わりと、博打的な生き方が好きなんだ。それが志望動機かな?立派なものじゃ無くてごめんね」
「いやいや、制服の可愛さだけで選んだ私に比べたら比べるのが失礼なほど立派だよ」
西野さんの志望動機が制服の可愛さ、だったので特に私の志望動機に突っ込みを入れられることは無かった。まあ半分本音だし、半分は伯母だから間違ってないけど。その後、月刊高校野球神奈川大会完全ガイドのページをめくっていくと、3回戦の対戦相手になる東洋大相模の紹介が載っていた。
「うわ、6ページもある」
「流石は名門だね。カノンちゃんみたいに、半ページ使われて紹介されてる選手が6人もいるよ」
「そうですね。カノンさんもそうですが、この2人はプロ注ですよ」
久美ちゃんがプロ注目選手の2人を指差す。小鳥遊 浩美と山田 哲美だ。
小鳥遊さんはMAX129キロの速球と、緩急のあるカーブが持ち味。キレの良いスライダーやフォークも投げる、本格派右腕だ。山田さんは東洋大相模の4番で、高校通算60本塁打と、どちらも超高校級の選手だ。
そんな強豪校を相手に智賀ちゃんは早くやりたいです、と言っていた。最近の智賀ちゃんの打撃成績は好調だし、智賀ちゃんは、1回戦も2回戦も勝ったつもりでいるようだ。私も戦うからには、負けることなんて考えないけど……。
そして、全日本高校選手権大会神奈川県予選の開会式の日が訪れる。




