第179話 甲子園への道のり
湘東学園は、準決勝で負けることが多い。去年の夏の県大会も、去年の秋の県大会も、春の選抜甲子園だって準決勝で負けた。春の県大会の準決勝で統光学園に負けていれば、ジンクスになってもおかしくないぐらいには準決勝で負けることが多い。
「……長谷川さんには、中学時代のデータがありませんでした」
「SNSなどでも追跡しましたが、確認出来たのは一昨年の夏、つまりは長谷川さんが1年生の時の夏の大会後に、練習試合で何回か投げていることだけです」
マネージャーの相馬さんと水澤さんが長谷川さんについて調べてくれたけど、やっぱりデータは無いみたいだ。他にも何人か良い投手は居るんだけど、群を抜いて凄い投手をここまで温存していたのは凄いと思う。
長谷川さんが投げたデータは今日の準々決勝の3回表から5回表までの、計3イニングだけ。コントロールは悪くは無さそうとしか言えないし、変化球は3球種ともそこそこ変化している。
負ける気はしないけど、上位打線が捉えられるかは微妙だね。そして問題は、打線の方だ。
「相手が弱いし、参考にはならないかもしれないけど、準々決勝までの4試合を毎試合15得点以上はちょっと異常だよ」
「……手を抜いた方が失礼とはよく言われるけど、本当に容赦ないわね」
真凡ちゃんが容赦ないと言う打線に、中心選手は居ない。今大会打率は全員が5割を越え、投手でさえホームランを打つ。一方で投手陣の投げる球の方は良くないという評価だったけど、長谷川さんが出て来たことによってその評価は覆されそう。
「昨年は夏の大会で黄金世代の横浜高校に序盤で当たって11対1。秋は東洋大相模に抑えられて……その試合の東洋大相模の先発は、左腕の石川さんか」
「……少し、横須賀港高校の対左投手時の打率を洗い出しても良いですか?」
「明日いっぱい時間はあるから、大丈夫だよ。私も気になったし」
「あ、それなら私も手伝います。どちらにせよ、調べないといけないことなので」
久美ちゃんが、横須賀港高校の打線の弱点を見つけるために対左投手時の打率を調べて、七條さんがそれを手伝う。横須賀港高校には右バッターが多いけど、石川さんに完封されているなら、左投げの投手が弱点かもしれないしね。
Cブロックは鎌倉学院が金澤高校に6対9で負け、Dブロックでは横浜高校が13対0で圧勝していた。ベスト4が出揃った所でネットの下馬評では、湘東学園が5割で横浜高校が4割、横須賀港高校が1割ぐらいの支持かな?
北神奈川の方では向中高校が平塚高校に4対0で勝ち、決勝は統光学園対向中高校で決まったとか言われている。まだ準決勝が残っているから、どうなるかは分からない。だけどもう、北神奈川は統光学園が優勝しそうな気がするね。選手層の厚さと質が両立しているし、和泉大川越に勝ったのは大きい。
「あ。静岡の方、三島東高校が決勝進出だって上松さんからメッセージ来た」
「……ほんとだ。私の方にも来てる。
相手は、静岡市立北高校だって」
「あー、選抜で出てた高校か。21世紀枠に大差で勝ったのに、2回戦であっさり負けたから少し話題にもなったところだね」
GWの合宿の時にお世話になった上松さんからは「決勝進出したで~」とメッセージが飛んで来た。あの3校合同合宿の時にお互いの連絡先を交換していたけど、詩野ちゃんともしていたのか。
ふと気になったので、知っている他県の高校の動向を見てみると、東兵庫の宝徳学園は湘東学園と同じく準決勝まで勝ち残っており、今年も4強に入っている。大阪の方は、履陰社に勝った銀光大阪と大阪桐正の2校で決まりそうかな。
「あれ……新潟高校に、日本理文が負けて8強入りを逃したそうだよ」
「ふぇ!?あ、本当だ……。去年の夏は甲子園にも出てた高校が、準々決勝にも行けずに敗退かぁ」
そして合宿で一緒になって練習をした、もう片方の高校である新潟の日本理文は4回戦で敗退を喫していた。初回に3点を取られ、そのまま3対4と敗北。2点差で迎えた最終回に1点は返したものの、あと一本が出なかったとのこと。
どんなに優勝候補だと騒ぎ立てられていても、足元を掬われることはある。特に日本理文なんて、一昨年から積み重ねていた県内連勝記録が37で止まった。今年は確実に連覇するだろうと言われていた高校でも、道中で消えるのは珍しいことじゃない。
だけど一緒に練習もしたチームが、そうなると悲しくなるね。そして私達がそうならないように、気持ちは引き締まる。優勝候補が優勝する難しさは、自身もよく分かっているつもりだしね。
「どこも、少なからず波乱は起きているみたいだね。南神奈川も、金澤高校が鎌倉学院に勝ったのは波乱と言えるのかな」
「神奈川は、北の方が波乱の連続でしょ。向中高校が東洋大相模に勝ったし、和泉大川越が夏の県大会ベスト8で終わるとは全員が思わなかっただろうし」
「……大槻さんと友理さんの、どちらかは甲子園に行けなかったんだ。2人とも全国で見てもトップクラスだから、同県なのが不幸としか言えないよ」
甲子園までの道のりは、県によってもかなり違う。甲子園が県対抗の催しである以上、仕方のないことでもあると思うけど。
あと2試合勝てば、甲子園。後ろ向きな事は考えずに、前を向こう。




