第164話 初戦の相手
夏の県予選が始まって、最初の相手は平塚商科と平塚江洋の試合の勝者となる。トーナメントの都合上、私達は2回戦スタートだね。シード校だから、当たり前のことなんだけど。
「どちらも先発の球速は120キロ台前半だね。後続の投手は、110キロ台後半みたいだから打ちやすそう」
「どちらも、去年と一昨年は1回戦で負けているのね。こういう高校って、多いの?」
「……真凡ちゃん、冷静になって考えようか。1回戦で敗退する高校は、どれぐらいあると思う?」
「……半分じゃないけど、半分と思っても良いのかしら?それなら神奈川にある高校の内、4分の1は2年続けて夏の初戦で敗退する高校なのね」
真凡ちゃんが去年も一昨年も1回戦を勝って無い高校があるのか、みたいな言い方をして来たので、半数近くは初戦負けをするということを伝えておく。去年、小山先輩や大野先輩が言ってたことだね。最後の夏で、1回も勝てない3年生が半数近くいると。
だから最後の夏で、1勝が目標な高校は凄く多い。特に平塚商科はここ3年ぐらい公式戦の勝ちが無い状況だし、諦めているチームなのか、勝ちに飢えているチームなのかは凄く大事。わざわざ球場まで来て観戦しているのは、そういう雰囲気も見ておきたいからかな。
「内野も外野も、普通に上手いわね」
「ノックが緩いから、上手く見えるだけだけどね。平塚商科のセカンドとサードは、動きが怪しいかな?」
「平塚商科のセカンドは2年生で、サードは1年生ですね。ベンチ入り20人の内、2年生は3人で1年生は1人だけです」
真凡ちゃんと久美ちゃんに挟まりながら試合を観戦していると、1回裏に早くも平塚商科の上位打線が繋がって1点を先制した。平塚江洋の投手は最速122キロでカーブが得意球ではあるけど、コントロールは酷いし無駄なボール球が多い。
智賀ちゃんの方が打ち辛そう、と思っていると平塚江洋が2回表に2点を取って逆転。そのまま試合は0進行で進み、6回裏までテンポ良く進む。
「思っていたより、エラーが少ないわね」
「エラーが少ないのは、どちらも練習している証拠だよ。エラーの付かないエラーはしてるけど。……どっちも打線は、かなりの早打ちだね」
「6回裏まで来て、どちらも60球に達していないですからね。っと、死球ですか」
「お尻に当たったわね?結構痛そう」
2対1で負けている平塚商科は6回裏の攻撃で、先頭バッターが死球で出塁。そこで1年生の3番がツーベースヒットを打ち、続くキャプテンの4番がタイムリーヒットで続いたから再逆転。6回裏に3点を取って、そのまま7回表を抑えきった平塚商科が2対4で1回戦を勝利。2回戦に駒を進めた。
「平塚商科のエースは、最速122キロにフォークとカットボールかな?隠し玉の1つや2つはあるかもしれないけど、捉えられない投手じゃないね」
「この後の試合は、3回戦で当たるかもしれない高校の試合ですが観戦しますか?」
「うーん、3回戦で当たる高校は2回戦で観戦するよ。それに次の試合の勝者の相手は、2回戦で川崎立花との試合になるから当たらない可能性も高いしね」
今の段階で、3回戦で当たりそうなのは秋の県大会2回戦で当たった川崎立花だ。2年生エースの三村さんは、マックスで126キロを投げるようになっている。球質が重そうなのは相変わらずだし、秋より太っていて貫禄を増していた。
観戦後は1年生投手を並べて軽くシートバッティングを行なった後、ミーティングを行なう。今日の試合はどちらが勝ってもおかしくないような試合展開だったけど、気になったのは平塚商科の早打ちかな。
とにかく全員、バットに当てるのは上手くて三振が少なかった。そのせいか平塚江洋も早打ちになっていたし、野球というスポーツはバットに当たりさえすれば何かが起こる確率はある。打たせて捕るタイプの優紀ちゃんは、相性が悪いかもしれない。
「ということは、私じゃなくて久美ちゃんか浩美ちゃんが先発?」
「先発は優紀で行くから安心せえ。むしろ左バッターがおらんのやから、優紀の独壇場やろ。スタメンも、2回戦はベストオーダーで行くから用意しとけ」
と言っても、守備が良い湘東学園でかつ相手は右バッターしか居ないのだから、優紀ちゃんが先発なのは変わりない。むしろ早打ちしてくれるなら、優紀ちゃんの多彩な変化球には引っ掛けまくるかもしれない。内野陣は試合前に、内野ゴロの処理練習を重点的にしておこうかな。
今日は1回戦が各地で行われたけど、流石に1回戦で大波乱は起きないし、そもそも強豪校のほとんどはシードだから起こりようがない。発生するとしたら、シード校が出て来る2回戦からだね。一応、ダークホースっぽい高校は見かけられなかった。試合結果だけだと分からないことも多いけど、今のところは順当な所が多いかな。




