第129話 入寮式
甲子園で敗戦を喫した日の翌日。落ち込んでいる暇はなく、寮への引っ越し作業を始める。と言っても、ある程度の物は寮に揃っているし、私の場合はすぐに家へ取りに行けるから運び込む荷物は少なかった。
明日には新入生達が寮に入って来るし、歓迎会の準備もお手伝いする予定だ。今年入って来る新入生の中で、野球部に入りたい人は46人もいるらしい。その中で入寮するのは42人だから、一気に大所帯になる。
「いや、42人って多すぎるわよ。寮の定員が99人ってふざけているのかと思ったけど、私達が3年生になったら埋まりそうじゃない」
「私が思っていた以上に、入部希望者は多かったしね。入学式の日が楽しみだ」
真凡ちゃんも大きな鞄を持って来たし、寮の部屋に荷物を運び込もうと思うけど、寮の部屋は背番号順で良いのかな?それなら両隣が智賀ちゃんと真凡ちゃんになるし……でも将来的に3人部屋になるなら、2年生も2人部屋にした方が良いのかな?
今年の1年生は2人部屋にする予定だから、2年生も2人部屋になりそう。2年生は6人だから、2人組を作るとしたら真凡ちゃんと智賀ちゃんが一緒になって、優紀ちゃんと詩野ちゃんが一緒になりそうだから……。
久美ちゃんと私が、同じ部屋になるの?貞操の危機を感じるし、優紀ちゃんに同室をお願いする?あ、2年生の寮の部屋割りはくじ引きで良いか。
「実松さんの部屋は木南さんと同室ですよ。2年生と1年生は、ペアにするようにしました」
「あ、はい。了解です」
そんなことを考えていたら、2年生と1年生は同室にしますよと矢城コーチに告げられた。既に部屋割りは決まっており、私と聖ちゃんがペアで1階の隅になった。お隣は、詩野ちゃんと光月ちゃんか。
……春季神奈川県大会もあるし、1年生達は早速試合で使っていくと思う。その第1候補は聖ちゃんで、第2候補は光月ちゃんかな。入学式の日に、軽く1年生達をテストする予定だし、その結果次第だけどね。
入寮式は寮でのルールについてのスライドと野球部で過ごす上での心構えを御影監督から小一時間ほど聞いて、すぐに1年生を交えたお食事タイム。48人分の食事を作ってくれる厨房のお姉さん達の料理は、普通に美味しい。
「神戸出身の木南聖です!ひじりんと呼んで下さい。右投げ左打ちで、ポジションはセカンドです!カノン先輩に誘われてここに来ました!これからよろしくお願いします!」
「神戸出身の勝本光月です。右投げ左打ちで本職はセンターです。趣味は料理と旅行で、聖とは同郷です。よろしくお願いします」
「神奈川出身の島谷浩美です。左投げ左打ちのピッチャーで、憧れの選手は春谷先輩です。よろしくお願い致します」
島谷さんは詩野ちゃんのお隣、103号室の部屋で、久美ちゃんと同室だ。聖ちゃんと光月ちゃんと島谷さんが、スポーツ推薦で湘東学園に入学した、期待の1年生になる。
……これ、101号室から103号室までがスポーツ推薦組の部屋なのかな?入り口から1番近いし、意識はしてそうだ。島谷さんは1つ下の世代では有名なサウスポーだし、良い左投手が増えるのは嬉しい。私達の次の世代のエースとして、これほどピッタリの人材はいない。
「岡山出身の宮守瑞輝です。右投げ右打ちのピッチャーで、えっと、趣味はゲームです。よろしくお願いします」
「千葉出身の高谷俊江です。右投げ左打ちで、守備は外野が多いと思います。よろしくお願いします」
「大阪出身の中谷雅子です。右投げ右打ちのライトで、カノン先輩から色々と見て学びたいと思います。よろしくお願いします!」
宮守さんは104号室で、優紀ちゃんと同室。高谷さんは105号室で真凡ちゃんと同室。中谷さんは106号室で智賀ちゃんと同室だったので、顔と名前は一致する。これ以上は、1日だと憶えきれないな。
1年生達の自己紹介タイムが終わったら、2年生も自己紹介をしていく。どうせ入部初日でも自己紹介をするから二度手間だけど、何回もやった方が憶えやすいからね。
その後は、食堂に置いてある大型テレビで残った料理を食べながら決勝戦の観戦を行なった。どうでも良いけど、私達が決勝まで残っていたら、入寮式は1年生だけでやっていたんだろうね。日程的に、入学式が目前に迫っている状態だから仕方ないけど。
決勝戦は大阪桐正のエース藤波さんと、履陰社のエース浦田さんの投げ合い。浦田さんは左投げだけど右バッターを苦にしないタイプで、キレの良いカットボールを投げ込んで来るし、カーブとフォークも一級品だ。
しかしながら、決勝の舞台では打ち込まれてしまう。大阪桐正と履陰社の今年度の直接対決成績は、練習試合も含めると大阪桐正の11勝1敗。そのたった一回の敗北も、秋季大阪府大会の決勝という負けても影響の無い試合だ。
選抜甲子園の決勝戦は藤波さんを履陰社打線が攻めきれず、大阪桐正側に好守が続いたこともあり、3対0で大阪桐正の勝利。藤波さんは被安打2、与四球5で完封という内容。甲子園の決勝戦で大阪桐正は5勝0敗と不敗なのだけど、今回も危なげなく勝ち切り、その連勝を6に伸ばした。




