第107話 木製バット
秋季関東地区大会決勝は多久大光陵が和泉大川越に4対1で勝ち、優勝を決めた。決勝戦は両チームのエースが先発を回避し、2番手同士の投げ合いになったけど、3対1とリードをした多久大光陵が5回からエースの芳田さんを投入。残る3回をパーフェクトピッチングで締めて優勝を決めた。一方の大槻さんは、1球も投げることは無かった。
和泉大川越は日程的に、連投していたエースの3連投を回避したということだと思う。そう考えると、芳田さんは身体が大丈夫なのか少し心配だ。今後、神宮大会でも投げるわけだしね。
その神宮大会は、東京都代表の城西高校が優勝し、これで今年の高校野球は終わった。シーズンオフに入って、どの高校も練習試合が出来なくなる。このシーズンオフ中に、どれだけ成長するかが高校野球では重要だ。
学業の方もキッチリこなしつつ、冬に向けてバットを振り込む。ただしこの期間は、訓練と称して木製バットを使うようにした。
「木製バットは芯が狭いし、重心が違うから金属バットよりも振り辛いんだよね。すぐに折れるし、良いものでは無いよ」
「じゃあ、何で導入するのよ?」
「真凡ちゃん以外は、ミート力の向上のためかな。木製バットだとしっかりと打球の飛ぶスイートスポットが狭いから、金属バットへ持ち替えた時に芯の広さと打球のノビを実感できると思う」
「……私は?」
「わざと詰まらせてヒットを打つ方法が、木製バットだと簡単にできるからかな」
真凡ちゃん以外は芯に当てる練習になるけど、真凡ちゃんは違う。単純に、木製バットの方が真凡ちゃんのスタイルにあっていると感じたからだ。最近は、真凡ちゃんもある程度の飛距離を出せるようになってきた。そのせいで、今まではヒットだった打球が外野フライになったりしている。
また、木製バットの方が打球のコントロールはしやすい。真凡ちゃんは、ある程度落とす場所を狙って打てているんだよね。その力を伸ばすためにも、冬合宿までの間は木製バットを振り続けて貰う。
ノックやキャッチボールは年間を通して練習するけど、冬の間は振ること、身体を鍛えることに重点を置きたい。そう思って私も木製バットを持ち、ピッチングマシンから出て来る速球を打ち続ける。
「何で木製バットでも普通に打てるのよ」
「U-15の時とか、木製バットだったし?スイングスピードを維持して芯に当てられれば、木のバットでも飛ぶよ」
「……あれ?カノンって、今年のU-18に呼ばれなかったのよね?」
「U-18は、今年から甲子園に出て無いと招集されなくなったんだよ。今までも選出基準が謎とか言われてたから、甲子園出場という分かりやすい基準を作ったみたい」
「ということは、来年からは呼ばれる可能性があるのね」
「うん。今の段階で呼ばれるかは、まだ分からないけどね」
今年のU-18は、わりとネット上で私が選出されてないことに不満を持った人が暴れていた印象を受ける。今年から春や夏の甲子園を経験した高校の選手に限定されたので、夏の甲子園に出られなかった私には縁のない大会になってしまった。
まあ、1年生の時から選ばれるのもそれはそれで贔屓な気がするけどね。ちなみに、今年のU-18日本代表は準決勝でキューバに敗北。そのまま3位決定戦でカナダにも負け、4位で終わった。
アジア地区予選でも韓国を相手に苦戦をしていたし、むしろ4位は良くやった方だと思う。優勝は当然アメリカで、今年で3連覇とのこと。日本は一度もU-18で優勝していないから、優勝はしたいはず。……上手く行けば、来年には大槻さんや芳田さんと同じチームで戦うことも出来るのか。それはそれで、楽しみだな。
プロ野球のドラフト会議の方では横浜高校のエース、松池さんがドラフト1位で指名され、同じ横浜高校の筒井さん、今藤さんは2人ともドラフト3位で指名された。
本当に上位指名を受けるような選手達と戦っていたんだよね、と思いながら聞いていたら、東洋大相模のエースだった小鳥遊さんと4番だった山田さんがそれぞれドラフト4位、ドラフト5位で同じ球団に指名された。この時はわりと、部内が騒然とした気がする。
「私達、凄い選手に勝っていたんですね。小鳥遊さんや山田さんがプロ野球選手になるのかと思うと、何かこう、込み上げてくるものがあります」
「うん。本当に、良かったとしか言い様がないよ。小鳥遊さんに関してはプロからの指名が厳しいから大学へ進学すると聞いていたけど、見てる人は見てたんだ」
何気に今年の神奈川勢でプロからの指名を受けた人は多いし、来年は和泉大川越の大槻さんと大阪桐正の藤波さんが複数の球団から指名を受けそうだから、面白いことになりそうだね。
智賀ちゃんが凄いですねとか言っているけど、順調に智賀ちゃんが育った場合、2年後に智賀ちゃんが指名される可能性はかなり高いんじゃないかな?
育成選手として東洋大相模の1番だった赤木さんや、横浜高校で5番を打っていた倉持さんも指名され、統光学園のエースだった人もここで指名された。友理さんにエースナンバーを渡さなかった人という印象と、横浜高校に12点を取られた印象しか無かったから、ここで指名されたのはちょっと意外だ。
冬合宿のスケジュールを考えながら、2学期の期末試験を受ける。……優紀ちゃんとか、補習に引っかからないか不安だけど、大丈夫かな?




