第104話 関東4強
今日の試合、1試合目の和泉大川越と咲進学園は12対1で和泉大川越が勝利し、2試合目の霞ヶ浦女学院対中欧学院は5対1で中欧学院が勝利した。3試合目は私達湘東学園が山梨学園に10対7で勝利し、4試合目は多久大光陵が東洋大相模に2対1で勝利。
これで明日の試合は和泉大川越対中欧学院と、湘東学園対多久大光陵の試合になる。明日のスケジュールは、先に観戦してから試合になるね。
そしてマウンド上で言ってしまったことの責任を取るために、野球部員全員+来年度入部予定の2人で焼肉店へ向かう。何かもの凄く相馬さんと水澤さんが申し訳なさそうにしているけど、明日の試合は水澤さんがレフトで出るから、遠慮せずに食べるよう言う。
「あはは、脇腹の肉離れで全治2週間とか笑えないよね」
「……今日は、ガッツリ食べて治すことに専念して下さい。というか私も早く、病院に連れていくべきだったんだけど」
「でも、今日の試合は私が居なかったら負けてたでしょ?」
「それはそうですけど……」
今日の試合は3点差勝ちだったけど、正直に言って本城さんが抜けていたら確実に負けていた。レフトが水澤さんだとどれだけのエラーをするか分かったもんじゃないし、私がファーストへ行かないといけない以上、総合的な守備力は確実に落ちる。
そして何より、打線が繋がらなくなっていたと思う。今日の本城さんは3打数2安打1四球2打点という活躍だったし、4番として私の後ろのバッターとして、非常に頼もしかった。これからシーズンオフに入るだろうし、治療には専念して欲しい。
……駄目だな。明日の試合、勝てるイメージが湧かないや。延長戦まで行けば、芳田さんのスタミナも切れるだろうけど、本当の初心者を投入する以上は何処かでボロが出る。先発予定の久美ちゃんの調子が、どれだけ良くても外野まで打球は飛ぶのだ。
本当に、今日選抜行きが確定して良かったというか、ギリギリだったんだなって思う。
「お肉、あと10人前ぐらいこっちに持って来て」
「あ、あの、本当に良かったんですか?」
「ん?食べ放題だから幾らでも頼んで良いよ?お金なら大丈夫だから、気にしないで。
……明日の試合に響くぐらい食べ過ぎたら怒るけど」
遠慮がちに良かったのですかと聞く智賀ちゃんだけど、智賀ちゃんが1番食べているのはご愛敬。まあ、1人2500円だからどうとでもなる金額だ。つい最近も、流行るゲームに投資しておいたので特段お金には困って無い。
……インサイダー取引に限りなく近いことをしているのだけど、それを証明する手段は無いのである意味無敵だ。将来的にはプロ野球選手になってお金を稼ぐつもりなので、こそこそお金を稼がなくても良いのだけど……いつ野球が出来なくなるかも分からないから、止めるつもりはない。
聖ちゃんも光月ちゃんも、チームメンバーと打ち解けているようなので良かった。一方で本城さんが戦線離脱し、試合に出ることとなった水澤さんは、早くも緊張している。それを励ます相馬さんは、わりとにこやかだ。
「……無理です。今から緊張で、眠れそうにもないです!」
「大丈夫だよ。知代ちゃんは外野フライ捕れるんだから」
「そうそう。水澤さんは相馬さんより上手いと私が認めたんだから、もっと自信を持って」
「それ、目くそ鼻くそレベルの争いですよね?」
元々マネージャー志望ということで新学期からチームに合流した2人は、たまに外野フライの練習に交ざっている。一応、定位置付近へ飛んだ打球なら捕れる確率は8割ぐらい。要するに、どう足掻いても初心者レベルです。
……打順とか、どうなるかな。1番頭を悩ませているのは、たぶん御影監督。あの人も本城さんの脇腹の怪我に気付いてはいたみたいだけど、本城さんが大丈夫ですと言ってしまったようだから看過してしまっている。
当の本人が、1番気楽なのは不幸中の幸いだけどね。ただ、これから怪我癖がついても困るのでしっかりと治して貰いたい。とりあえず、本城さんにはガンガン肉を食べさせよう。
「ご馳走様でした!」
「うい。けふっ」
「……何だかんだ言って、カノンも結構食べたよね」
「うん。智賀ちゃんの次ぐらいには食べてたとは思う」
全員からご馳走様との言葉を貰って、焼肉店を出る。私のテーブルには智賀ちゃんと本城さんと私という野球部の大食らい3人衆と、黙々と食べ続けられる詩野ちゃんがいたから肉の消費量が半端では無かった。
詩野ちゃんに突っ込まれたけど、私が食べ過ぎてどうするんだ。いやまあ、美味しかったからだけど店側に迷惑がかかってないか不安でいっぱいだ。
「カノン先輩、今日はありがとうございました」
「明日も応援に行きますので、頑張って下さい」
聖ちゃんと光月ちゃんは、一応明後日の決勝戦まで見るらしい。木金土と、2泊3日の旅行らしいので中学校の方には事情を話しているのかな?
今の時期はみんな受験勉強で忙しい時期だから、という理由もあったそうだ。余計にクラスの雰囲気がピリピリしそうに感じるのは、私だけかな。聖ちゃんの性格なら、問題無さそうに思うけど。
……あの時期の推薦組の居心地は、あまり良くないので抜け出したくなる気持ちは良く分かる。入学までの期間、勉強も頑張っておいてとは言っておいたけど、野球の練習しかしなさそうだな。




