第103話 ラジオ観戦
東洋大相模と多久大光陵の試合は、両先発による息の詰まるような投手戦が続く。東洋大相模の先発は柏原さんだけど、テンポ良く投げているね。プレートの立ち位置をバッターによって変えているみたいで、ルーティンのような役割を果たしてそうだと思った。
「あ、ラジオ持って来ているんで聞きますか?」
「え?うん、ありがとう」
聖ちゃんがラジオを持って来ていたようなので、イヤホンを借りて耳の中に突っ込む。何か企んでそうなので、返す時はちゃんとティッシュで拭いてから返そう。
『またナックル!カウントはこれで1-2となりました』
『高校野球というのはレベルが高い高校同士だとプロ顔負けのプレーが時たま見られますが……今日の試合は、プロ顔負けのシーンが何度あるんでしょうねぇ?』
『4球目、ラストバッターの外村はナックルをカットしファール。何とか食らいついています』
『外村選手が9番というのは、相手投手からすると嫌でしょうね。しかし芳田選手には、関係無さそうです』
『最後はスローカーブにバットが回って三振!芳田選手、3回を終わってあの東洋大相模打線を相手にパーフェクトピッチングです!』
『あれはバットが回らない方がおかしいですね。そろそろ多久大光陵打線も、好投しているエースに援護をしたいところです』
実況は甲高い声のお姉さんで、解説は渋い声のおばさんかな?ラジオだとほぼリアルタイムで聞こえて来るので、観戦の時に持って行く人はいる。より深く、試合を理解するための手助けにもなるしね。
試合は4回裏に、多久大光陵がツーランホームランで先制する。柏原さんはホームランを打たれても動揺せずに、後続を抑えられているから精神的にも成長しているようだけど、この2点は重い。
しかし次の回、先頭バッターの村上さんがチーム初のヒットとなるツーベースヒットを打つと、盗塁とスクイズで東洋大相模は1点を返す。村上さんが打ったナックルは、ほとんど変化をしていなかった。ナックルボールはこれがあるから安定はしないのだけど、それでもよく打てたと思う。
「5回までで、ほとんど変化をしなかったナックルは3球だけね」
「……一試合通じて4、5球あれば良い方か。それを狙い打つしかないというのが、芳田さんの凄いところだよね」
真凡ちゃんに、5回までで変化をしなかったナックルの数について聞いてみると、今の村上さんへの投球を含めて僅か3球しか無かったと答えてくれた。よく見ているし、数えてくれていたのはありがたい。
たぶん、無変化になっている時は回転が少しでもかかっているのかな?とにかく芳田さんのナックルは変化が大きい上に、ナックル自体芯で捉えるのが難しい球種なので連打は望めないだろう。
5回裏からは、東洋大相模の投手が代わって左腕の石川さんが出て来た。柏原さんは、4回2失点だったか。ホームランにされたボールは完全な失投では無かったのだけど、もう少し低めにシンカーを決めに行くべきだったと思う。
伸びしろはまだまだありそうだし、柏原さんとは対戦する機会もまたあるだろうから、注視しないといけない選手だよね。
その代わったばかりの石川さんは、立ち上がりにコントロールで苦しんだけど、何とか無失点で切り抜ける。5回が終わって、1対2と白熱した試合が続いているな。
「ナックルボーラーを相手にして、勝てますか?」
「対戦が明日じゃなかったら勝つ自信があるんだけどね。正直に言うと、多久大光陵より東洋大相模と戦う方がやりやすいだろうね」
「あー、関東大会は2回戦から連戦ですもんね。向こうの投手が疲れている可能性もありますけど……芳田さんですし。カノン先輩自身は、打つ自信ありますか?」
「微妙。初対戦ってわけでも無いんだけど、捉えるのは難しそうかな」
聖ちゃんが、ナックルボーラーを打ち崩す算段があるのか聞いて来たので、素直に無いよと答える。ぶっちゃけ、対策のしようはない。とりあえずうちの上位打線は粘れるバッターが多いけど、ひたすらカットする戦法ぐらいしか取れない。
そして、ナックルボールはそのカットすら難しい。湘東学園の打線でナックルを打てそうなのは私と……真凡ちゃんぐらい?普通に練習を積み重ねて来た人ほど打てない球でもあるから、詩野ちゃんや久美ちゃん、鳥本姉妹は厳しそうかな。
というか私自身、ホームランを打てるかは怪しい。ナックルボールは飛びやすい球ではあるのだけど、芯で捉えないと思っていた以上には飛ばない。下手に打ちに行って、外野フライで終わるならスローカーブやストレートを待った方が賢明だ。
……6回表の東洋大相模の攻撃も、10球程度で終わってしまった。芳田さんが投げた10球の内、ナックルは9球。1球だけ、見せ球でストレートを使った以外は、全球ナックルだ。
村上さんが3塁への盗塁を決めたように、ほぼ100%ナックルという性質上、フリーパス状態ではあるのだけど、魔球過ぎてスクイズも難しそうだった。結局、7回表も東洋大相模は突破口を作れず、試合は1対2で多久大光陵が勝利した。




