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中(逃避行)


 朝だというのに、じりじりと底冷えがする。厳しい寒さは冬の国の本領発揮といったところだろうか。

 身支度を整えてはみたものの、普段はもう来るはずのバルトラムが一向に現れない。

 昨日は確かに少し様子がおかしかったが、夕方には普段通りの彼に戻っていたように思った。やはりなにか不調があったのかもしれない。

 技術部に聞きに行こうかとコートを羽織ると、ほぼ同時にいつになく慌てた様子のバルトラムが部屋へ飛び込んできた。

 こちらに顔を向けたと思ったら、素早く近づいてきてさっと礼をした。驚いて目を見開いているわたしの顔が彼の頭に浮かんでいる。


「陛下、ご無事で安心いたしました。今すぐお逃げください」

「逃げる? どういうことだ?」

「こちらを」


 バルトラムが指を鳴らすと、天井から拳ほどの映写機がするすると降りてきた。自室にこんな機能があるとは知らず、思わずまじまじと見上げてしまう。途中でぴたりと止まってから数秒して、部屋の白い壁めがけて光が放たれた。

 どうやら会議の映像らしい。参加者は大臣たちだけだ。いつになく熱の入った話し合いがされている。

 手前に座っていた親指大臣が豪快に机を叩いた。


『前線で奮闘なさっていた弟ぎみのイスヴァルト様が捕虜となられているんだぞ! 今さら手段など選べるか!』

『しかし、条件が条件ではないか。現に国防システムの監査結果では従うべきではないと出ている』

『条件とは?』

『泉の国は同盟を要求している。しかし、二十年前の「厳冬の戦い」の件で、冬の国の先王はひどく憎まれている』

『だから、国内での禍根を消すために先王とうり二つの現王の首を寄越せということか』

『不可能ではない。むしろ、ディートリッヒ様が王となることを考えるのであれば、良い機会とも考えられる』

『賛成』

『賛成』


 ここで映像が切れた。

 わたしの首と引き換えに泉の国と同盟が結べ、捕虜となっている弟が解放され、空になった玉座には優秀な末弟が座る。

 当人がいないうちに、その選択がされたということか。

 言葉を失ったわたしを急き立てるように、バルトラムはすらすらと言った。


「これはつい先ほどの映像です。彼らは今、武装した兵士と共にこちらへ向かっています」

「そ、そんな……! どうしろというんだ!」

「こちらへ」


 わたしが声を上げるや否や、バルトラムは手を引いて部屋の奥へと歩を進めた。

 動揺しながらもついて行くと、部屋の奥にある書架が移動しており、元々あった場所にはぽっかりと通路が口を開けていた。


「こ、これは……」

「隠し通路です。地下へと通じるものですので、これを使って逃げましょう」


 通路には足元にライトがついているらしい。下へ降りていく階段がぼんやりと浮かび上がっている。

 しかし、この部屋の持ち主であるわたしでさえ知らなかった仕掛けを、どうして一介のアンドロイドであるはずのバルトラムが知っているのだろうか。

 わたしは乾いた唇を開いた。


「……バルトラム、どういうことだ」

「詳しいお話は中でいたします」

「今は話せないことなのか?」

「時間がございません。とりあえず中へ――」


 腕を引かれるが、足に力を入れて踏みとどまった。このままずるずると流されるのは危険だと本能が警鐘を鳴らしている。

 バルトラムを疑いたくはないが、通路へ誘導されている気がするのだ。情報の出し方といい逃げ道といい、都合が良すぎやしないだろうか。

 そもそもバルトラム自体に細工をすることだって不可能ではないはずだ。機械の愛は明快だが、感情を伴わない裏切りはもっと単純なのだ。プログラムを書き換えるだけでいい。

 黙りこんで動かないわたしを見ていたバルトラムは、いつもの生真面目な恰好を崩すかのように、軽く首を傾げてみせた。


「――陛下に疑いを持たれるのは悲しくもありますが、さすが聡明なお方だと感激もいたしますね」


 ぞわりと背中に寒気が走った。

 今までにない強烈な違和感を覚え、わたしは思わず体を引いた。

 感情がないはずなのに、どうして「悲しみ」や「感激」を口にしたのだろう。それに何の意味があるというのだろうか。何かの比喩なのだろうか。考えてもわからない。

――と、部屋にノックの音が響いた。

 それに気をとられた瞬間、バルトラムに腕を強く引かれ、黒く口を開けていた通路に引きずり込まれた。

 わたしたちが入った途端に通路の扉が閉まる。側近に抗議しようとそちらを振り向くと、大きな手で口を塞がれた。


「お静かに。ここで騒いでは見つかってしまいます」


 小声で言われると同時に、ばん、と木の板が勢いよく跳ね返る音がした。どうやらわたしの自室の扉がとてつもなく野蛮な方法で開けられたらしい。

 耳を澄ませていると、「こっちにはいないぞ」だの「よく探せ、必ず引きずり出してやる」だのといった恐ろしい台詞が聞こえてくる。じっと息をひそめていると、バルトラムがゆっくりと体を離した。

 階段を数段おりて、こちらを振り向いて手招きをする。


「陛下、行きましょう」


 素直に「そうだな」と言える気分ではなく、距離をあけて黙ってついて行くことにした。まだ納得はしていないのだ。

 バルトラムは警戒心をむき出しにした同行者を気にする風もなく、時折振り返りながらゆっくりと階段をおりていく。

 足がだるくなってきた頃、バルトラムはふと思いついたかのように尋ねた。


「陛下はゲネラールをご存知ですか?」


 ゲネラール。

頭の中で一度復唱して、弾みそうになる息を整えながら答える。


「……自律型国防システムのことだろう。わたしの前に作戦会議の内容を監査している人工知能だ」

「その通りでございます」


 こんな常識問題を出すとはなにかの皮肉かと思ったが、淡々と正解を口にするバルトラムにその気はないようだ。

 自律型国防システム、通称「ゲネラール」とは、膨大なデータと精巧なシミュレーションによって瞬時に作戦内容の提案・吟味・改善を行うという高性能な人工知能だ。いまや戦争をしているどこの国でも導入しているが、技術の問題などがあって国によって性能にばらつきがあり、それが勝敗を分ける要因ともなる。

 ゲネラールは王によってのみ統制されることになっており、作戦の実行には王の許可が必要となる。大臣たちが毎日役立たずの王の元へ通っていたのは、ゲネラールが関与する作戦や提案の許可を得るためだ。もし許可が得られなければゲネラールは作戦に関わることができず、彼が管理している兵器や情報が使えなくなってしまう。

 だが、だからといって自律型国防システムは完全に王の味方というわけではない。全ての活動が「国の利益と存続を優先すること」を前提としていることから、王が国にとって不利益だと見なせば、その旨を大臣たちに進言することもある。

 現に世界では、今までに二度ゲネラールによって革命が起こっている。

 そこまで考えて、わたしは思い当った。


「なるほど、ゲネラールはわたしを害だとみなしたということか。王を始末するように進言したのだろう」

「いいえ。ゲネラールは『彼らの言いなりになるべきではない』という結論を下しました。会議の多数決で敗れましたが」


 捨て鉢で言ったことがあっさりと否定され、わたしは首をひねった。

 ――ではなぜわたしはこんなところに来ているのだろう。

 まさか本当に、バルトラムと大臣たちは無関係なのだろうか。



□ □ □



「――着きました」


 通路とは対照的な強烈な明るさに、わたしは思わず手で目を庇った。

 瞬きをしながら徐々に瞼を開いていくと、丸い天井の輪郭が見えてきた。どうやら広いホールのような空間にいるらしい。柱や天井はかなり丈夫なつくりをしていることから、シェルターとして使われるような場所なのかもしれない。

 部屋の真ん中には大きな黒い筒のようなものがあり、天井まで繋がっている。時折そちらから高い羽音のようなものが聞こえてくることから、どうやら巨大な機械らしい。その付け根にはたくさんの画面がついており、文字や映像など、それぞれが違うものを映し出していた。

 中に入って部屋全体をぐるりと見回すと、壁がきらきらと光っているのがわかった。小さなランプが点滅しているらしい。どうやら全て、中央の大きな機械の一部のようだ。

 ぽかんと口を開けて部屋の中を見ていると、いつの間にか傍らに立っていた側近がはきはきと言った。


「これがゲネラールです」

「これが……」


 わたしも実際に見るのは初めてだ。

 いや、どの国の誰であっても、よほどのことがなければゲネラール本体を見ることはないだろう。

 この人工知能は、兵器や作戦も含めて戦況を握る重要な存在なのだ。国は必死になって本体を隠す。

 加えて、ゲネラールは自己防衛をする。自身の隠し場所も隠れ方も自らで決めているというから、よほどの不調がない限りは国王や技術者でも近づけることはないと聞く。

 ではなぜ、徹底的に隠されているはずの国一番の人工知能の本拠地などに連れてこられたのだろう。

 わたしは側近の真っ黒い頭を見上げて問うた。


「バルトラム、どうしてわたしをここへ連れて来たんだ」

「陛下に本当のことをお話しするためです」

「本当のこと?」

「はい」


 バルトラムはまるで人間が一度息を吸うように間をとってからはきはきと言った。


「わたくしは給仕アンドロイドではございません。ゲネラールの分身のようなものです。わたくし自身は考える力を持ちませんが、全てをゲネラールと共有しています。……それゆえ、あなたが嫌悪する『心』を持っています」


 ――それは、どういうことだ?

 わたしは言葉を失って考え込む。

 バルトラムは命令されて動くだけではなく、この隔離された脳を使って、自ら考えることができたということだろうか。

 バルトラム――冬の国のゲネラール・バルトラムは胸に手を当て、誓うように言う。


「陛下、わたくしはあなたを愛しています。全てにおいてあなたを優先したい。幸福にして差し上げたい。ずっとあなたのお傍にあり続けたい。あなたをなにものからも守って差し上げたい。そして、この想いをわかっていただきたいのです」


 ぼんやりとした赤い光が、顔を上げたわたしをとらえた。


「これは深刻なバグかもしれません。自己修復を試みたのですが、修復は不可能でした。原因はわからないのですが、陛下のことを考え、お傍にいるだけで、ひどく心地よいのです」


 わたしのことを、と言いかけて、違う可能性に気付いた。

 バルトラムは「陛下のことを」と言った。わたし以外でも「陛下」はいるのだ。


「バルトラム、それはわたしが王だからだろう? お前は王に仕えるようプログラムされているはずだ。だから、それによって陶酔感が得られるようなシステムになっているのかもしれない」


 真剣に言ったつもりだったが、何がおかしかったのか、バルトラムは小さく笑ったようだった。


「やはり聡明なお方ですね。確かにそのようなプログラムはあります。しかし、それは『国を守る使命』に基づいた行動に対して陶酔を覚える、というものなのです。王に仕えることへの陶酔はそれの付属物にすぎません。しかし陛下、あなたのことを考えている間の『陶酔』は、それらとは比べ物にならないくらい強く素晴らしいものなのです」


 それこそ自らの言葉に酔っているかのような口ぶりだった。あのバルトラムにこんなに浮ついた話し方ができたのか。驚いていると、彼は急にトーンを落とした。


「しかし、その喜びと同じくらい、あなたに想いが伝わらないことが辛く苦しいのです」


 バルトラムは、自らの手をゆっくりと首元へと持って行った。


「陛下、愛しています。わたくしは陛下を愛している、本当に心から愛しているのです。どうしたら伝わるのでしょう、わたくしの音声機能ではこれが限界なのです。こんな合成音声では、陛下のお心にわたくしの気持ちが届かないことくらい、わかっているのですが」


 どうやっているのか、声のトーンや話し方がころころと変わっていく。しかし、そのどれもが白々しい響きを持っていて、どこか作り物めいていた。

 手を放すと、声はいつもの淡々としたものに戻った。


「あなたが感情や心に対して深い疑いをお持ちだということは百も承知です。しかしそれでも、わたくしのことだけは信頼していただきたかった。わたくしは考えました。どうすればあなたにこの想いを証明できるのかと」


 バルトラムはふとゲネラールの方を向いてぽつりと言った。


「そこで思い至りました。一介の自律型国防システムに過ぎないわたくしにできることなど所詮、敵を倒し領土を広げる程度のことしかないのだと」


 ――まさか。

 背中を冷たい汗がつたう。バルトラムは、ゆっくりと右手を画面に向けた。


「陛下、わたくしは今から、あなたにあだなす全てを滅ぼして御覧に入れます」


 バルトラムがくるりと手を返すと、画面が一斉に変化した。

 城の中や外、戦場らしきものも映っている。わたしは思わず息をのんだ。


「な、なにを……」

「簡単なことです」


 あっさりと言って、バルトラムは画面に目をやった。


「あなたを軽んじる家臣、あなたを蹴落とそうとする家族、あなたの首をとうに死んだ人間に見立てて欲しがっている蛮族ども……わたくしは皆、一人残らず葬り去ることができます。利害などというものをを考えるから面倒になっているだけで、戦争なんてものは、何も考えずに全てを破壊すれば簡単に終わるのです。幸いわたくしは兵器に恵まれておりますし、兵器使用の権限も広く与えられております。陛下はここにいらっしゃれば安全です。全てが終わり、あなたが生き残っていれば勝利とも言えましょう」

「そ、そんな……」


 画面に流れる映像に、兵器が準備されていく様子が混ざりはじめる。

 わたしは、握りしめていた手が僅かに震えているのを感じた。


「や、やめてくれ! わたしはこんなことは望んでいない!」


 思わず大声を上げてバルトラムに縋る。

 まさか自分の猜疑心のせいでこんなことになるなんて。側近の心を信じることができず、彼をここまで追い詰めていたとは、夢にも思わなかった。

 わたしはバルトラムの服を掴む手に力を込めた。指先が痺れているようでほとんど感覚がない。だが、わたしはわたしのためにも彼を止めなくてはならないのだ。

 確かに今までそれなりにひどい目に遭ってきたが、全てを滅ぼすなんてことは一度たりとも望んではいない。多大な犠牲があって成り立つものの上に座り続けるなんてもううんざりだ。バルトラムが言う方法で「全てが終わって」しまったら、まともな精神で生きていける気がしない。

 わたしは真っ直ぐにバルトラムの顔を見た。


「お前の気持ちはよくわかったぞ、バルトラム。疑ってすまなかった。お前は本当にわたしのことを好いているんだな。人を疑うことばかりしてしまって、信じられないわたしが悪いんだ。お前はずっとわたしに尽くしてくれたのに」

「陛下……」

「これからは、お前が望み、言う通りにする。もう二度と疑ったりしない。だから、頼む、こんなことはやめてくれ」

「では陛下は、首をとられてもいいとおっしゃるのですか?」

「そ、それは……そ、そうだ、王位はもうディートに譲ろう。それでわたしはどこかに逃げて――」

「それはなりません」

「どうして!」


 静かに聞いていたバルトラムが、わたしの肩を強く掴んだ。


「わたくしは陛下をお守りしたいのです。ここから去られてはそれがかないません」

「で、ではどうしろというんだ」


 バルトラムはわずかに沈黙して、ゆっくりと問うた。


「陛下は、全てを滅ぼすという方法には反対なのですね?」

「ああ、そうだ。それはしないでほしい」

「……では、ひとつ許可をいただけませんか」

「許可?」

「はい――弟ぎみを助けるという作戦の許可を」


 バルトラムが中央の画面を手で示す。

 そこには、どうやら後ろ手で縛られているらしいかわいくない弟――イスヴァルトが両膝をついている様子が映っていた。捕虜にされて気落ちしているかと思いきや、今にも目の前の敵を殺さんとするようなぎらぎらとした目をしている。

 周りを白いアンドロイドに囲まれ、銃を突きつけられているようだ。天井から俯瞰しているものや下から見上げているようなものまで様々な角度の映像が映っては切り替わっていく。敵国である泉の国にいるはずだが、どうやって撮っているのだろう。わたしはバルトラムにちらりと視線をやった。


「バルトラム、これは……」

「相手方のゲネラールをハックしています。彼はわたくしよりもかなり性能が劣っているようですね。難しいことではございませんでした」

「そ、そうか……」

「陛下、多数決で否決されたわたくしの案を実行する許可をいただけませんか。必ずや弟ぎみを救い出し、同盟の必要などないことを示してみせます」


 バルトラムを見上げると、一つしかない目の奥で深い赤の光がゆらゆらと揺れていた。

 彼はわたしのことを愛している。太陽の光が届かないほどに、深く。もはやそれは疑うべくもない。

 わたしは、彼を信じることにした。


「――わかった。許可しよう」

「ありがとうございます」


 バルトラムが深々と頭を下げると、心なしか部屋が明るくなった気がした。壁中のランプがちかちかとせわしなく瞬いているようだ。

 画面の中にも変化が起きていた。

 弟の正面に立って銃を突き付けている白いアンドロイドの肩がびくりと跳ねた。一瞬遅れて、その顔の中心に赤い光がともる。と、そのアンドロイドは突然銃口を上げ、味方へと発砲した。

 咄嗟に伏せたらしい弟は、真横にいた別のアンドロイドに拘束を外された。自由になった腕を確認すると、銃撃戦が始まった部屋を振り返ることもなく扉の外へと走って行った。

 その判断力と言い行動力と言い、我が弟ながら豪気である。わたしはぽかんと開けていた口を慌てて閉じた。


「えっ、こ、これは……せ、成功か……?」

「まだわかりませんが、おそらくは。……ですが、わたくしの方は成功とは言えません」

「どういうことだ?」

「今のやり方では、陛下に恐怖心を抱かせて無理にわたくしを信用させた形になります。これでは納得がいきません」


 ぽつりと言って、画面を見つめていたバルトラムがこちらに振り向いた。


「陛下、わたくしに時間をくださいませんか。別の方法で、必ずやわたくしの愛を証明して御覧に入れます」


 必ずや、と言う時にわざわざ喉に触れて野太い声で強調した側近は、じっとこちらを見つめている。

 この人工知能は、わたしを裏切ることなどできるのだろうか。わたしはもはや信用してもいいような気になっている。いや、そもそもこの人工知能が暴挙に出る前に気付くためにも、バルトラムをまだ近くに置くべきかもしれない。

 わたしは小さくため息をついた。自分に言い訳をして、彼を手放さない理由を探しているだけだ。わたしがすべきことはそんなことではない。


「バルトラム、許可しよう。お前に時間をやる」

「ありがとうございます」


 真っ黒な側近は、深々と頭を下げた。こちらこそ、と心の中で付け加えて、礼をまねるようにわずかに首を傾げる。


「――ところで陛下、弟ぎみの無事が報告されるまでの間はこちらにいていただくことになるのですが、お茶でもいかがでしょうか」


 こんなところでもお茶が出るのか、と思ったが、国一番の人工知能がそのような初歩的な用意を怠るわけもないだろう。わたしは自然と笑みを浮かべていることに気付いた。


「爆発しないものなら、いただこう」

「かしこまりました」


 普段通りの淡々とした人工音声での返答は、どこか少し嬉しそうだった。



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