表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かわいいコックさん  作者: 霜水無


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/122

34 出発するのも大変です

「…ほー、ペアルックか」

「親子みたいですね」


ディルナンさんと共に食堂に食器を返しに行ったら、シュナスさんとオルディマさんに生温い目で見られた。


「ぱぱー」

「”パパ”言うな」


場の雰囲気に便乗してみたら、ディルナンさんから小さく拳骨が落とされる。


「……おかーしゃん?」

「ユーリ、お前はそんなに昼飯抜きが希望なのか」

「たいちょは素敵なおにーちゃまです!」


やられっぱなしは悔しいから新たに言葉を繰り出せば、真顔のディルナンさんから恐ろしい脅し文句が出て来たので速攻で敬礼しつつ修正しました。怖っ。


そんな私達の遣り取りに、厨房で調理部隊の面々を始め、食堂中の皆様がコッソリ肩を震わせて笑いを堪えていたのを私は知っている。







食堂を出て向かったのは、医務室。


あれ、さっきヴィンセントさんにお仕事頑張ってって言って別れたばかりなのに…。

バクスさんは普通に「おはよう」と出迎えてくれた。


「来たか」

「良く染みる消毒液で目一杯頼む」

「うん?」


出迎えてくれたヴィンセントさんにディルナンさんがとんでもないお願いをした。

どうやら出掛ける前に頬の傷の消毒に来たみたいだけど…え。さっきのまだ根に持ってたの?!


「今度は何があった」

「ユーリがどうも周りの大人に悪い影響を受け始めてるみたいでな」

「ユーリちゃんがもの凄くショック受けてますから、程々に」


ヴィンセントさんとディルナンさんが話している所にバクスさんが助け船を出してくれると、二人揃って私を見てきた。

今の私、ガビーンと言わんばかりの表情で半泣きですけど何か?


「バクしゅ・・ふくたいちょー」

「よしよし。隊長が上手に消毒してくれるから大丈夫だよ」


思わずバクスさんの所へ逃げ込むと、頭を撫でつつ宥められる。

バクスさんの後ろからヴィンセントさんをじっと見てみると、ヴィンセントさんが苦笑した。


「何があった?」

「カラフがこの通りに服を仕立てたお陰で食堂で冷やかされてな。それにユーリが悪乗りして”パパ”呼び。拳骨落としたら、今度は母親扱いと来た。一度痛い目見た方がおかしな事を言わなくなるかと思ってな」

「くっ…。お前が面と向かって母親扱いされる日が来るとは人生何があるか分からんもんだ。中々に傑作だな。

 ユーリ、パパが欲しいなら私がパパでも良いぞ?」


ヴィンセントさんがディルナンさんに事のあらましを聞くと、苦笑を笑みに変えて私に声を掛けて来た。

これはもしや起死回生のチャンスっ?!


「ぱぱ、痛いのやーよ…?」


ヴィンセントさんをじっと見上げて訴えると、ヴィンセントさんの笑みが深まった。これはもしや成功したかしらん。


「出来るだけ痛くない様に直ぐに終わらせよう」

「おいコラ、ジジイ。あっさり自分の欲望に負けてんじゃねぇよ」

「何か言ったか? ディル坊や」

「テメェはマジで質が悪いな」


ヴィンセントさんが更なる磨きの掛かった美声でディルナンさんの非難をさらりと流すと、ディルナンさんの頬がひきつった。

凄いよヴィンセントさん。父親扱いを嫌がったとはいえ、今度は逆にディルナンさんを坊や呼び。まぁ、ヴィンセントさんからしたらディルナンさんは若造に括られるのかもだけど。


「さ、おいで。ユーリ」

「あい」


これは下手に突っ込むと藪蛇でしょ。さっさと消毒して貰おうっと。


大人しくヴィンセントさんの所へぽてぽて歩いて行くと、ヴィンセントさんの前の椅子ではなくお膝に乗せられ消毒された。何故だ?

でも、さささっと傷テープを剥がされ、ちょいちょいちょいっという感じであっという間に消毒は終わった。良かった。念の為にもう一日と傷テープを貼って貰い、地面に降ろされる。


無事に終わってホッとする私とは裏腹に、ディルナンさんは仏頂面だったけど。

苦笑したバクスさんに宥められていた。







消毒を終えて医務室を後にし、次にディルナンさんに連れてこられたのは獣舎。

途中で会った騎獣部隊の人に挨拶しつつ進む。

昨日入らせて貰った書類部隊の獣舎よりももっと奥に調理部隊の獣舎があった。


「レツとお出かけ?」

「今日はな。その内歩いて連れてってやる」


獣舎に来た事で期待してディルナンさんに聞いてみると、肯定が返ってきた。

今日も素敵にもふもふ!


テンションが上がりつつ、ディルナンさんに手を引かれて中に入ると、中にはレツ以外にも騎獣がいた。

大の大人の男性が乗るだけあって皆大柄。白虎のレツがいるから、狼に牡羊はまだ分かる。


でも一頭、余りにも毛色が変わり過ぎている騎獣がいる。

白と黒の独特なツートンカラー。大きな熊で猫な字を書く、動物園のアイドル的存在。その名もPA・N・DA!

思い掛けない騎獣の姿に、テンションは更に上がる。


「レツ、来い」

「ガゥっ」


ディルナンさんが声を掛けると、奥の方に寝そべっていたレツが立ち上がってやって来た。


「レちゅ・・、おはよー」


近くにやって来たレツに挨拶をすると、もふもふの毛並みで傷の無い方の頬を軽くすりすりされた。

それからディルナンさんに外に出して貰うレツ。その姿を見ていると、上から影が降りてきた。…影?


上を見上げると、そこには二本足で立ち上がった件のパンダさん。ってデカいな!

こうして改めて見ると、動物園で見た事のあるパンダより大きい。熊かと疑うけど、この黒白の色の入り方は間違いなくパンダだよね。


ぽかーんと見上げていたら、何故か柵の上から両手が降りて来て抱き上げられた。そのままパンダさんのお腹の辺りに抱き込まれる。

内臓を守る為にお腹には脂肪があるお陰か、短いもふもふの下は少しプニプニと柔らかく、気持ち良い。そのままゆらゆらと揺すられた。

ヤバイ、夢の様な出来事だ。凄い嬉しい。


「ユーリ……って、お前は何してるんだ」

「たいちょ、抱っこしてくれたー」


ウハウハしていると、レツの準備を終えたらしいディルナンさんが私を振り返って呆気に取られる。

パンダさんのお腹にへばり付きつつ笑顔で答えると、調理部隊の獣舎の扉が再び開く。


「ディルナン、ユーリは何処じゃ?」


騎獣部隊隊長のヤハルさんともう一人、オルディマさんみたいに穏やかそうなおにいさんが出現した。

ヤハルさんの開口一番の問い掛けに、ディルナンさんが呆れた表情のまま私を指さす。


「ヤハルたいちょ、おはよーございましゅ」


パンダさんに揺すられつつ手を振って挨拶すると、ヤハルさんとお兄さんの目が丸くなる。


「何でカフルが子育てモードに入っとるんじゃ」

「子育てモードなのか、アレは」

「文献で見る限り、ありゃチェリンの代表的な子のあやし方じゃよ」

「凄いな。チェリンは基本身内の子以外は我関せずの種族なのに」


ヤハルさんとお兄さんの物言い的に、チェリンがパンダさんの種族名、カフルが名前かな? しかも珍しい光景みたい。


「オッジが見たらたまげるじゃろ」

「どうだかな。寧ろ流石はジジィの騎獣って感じだな」

「ユーリちゃんはオッジ老に可愛がられているのかな?」

「すっかり孫馬鹿のジジィだ」


私そっちのけで続いた会話に思わず目を丸くする。

え。まさかこのパンダさんことチェリンのカフル、オッジさんの騎獣なの!?

…乗ってる姿が想像出来ない。ある意味怖いと言うか、シュール。


「この調子じゃユーリも一緒にカフルに乗せかねんな。…カフルに乗ってるジジイだけでも相当なモンだってのに、ユーリが加わった日には視覚の暴力も良い所だ」

「ユーリは色々な意味で末恐ろしい子じゃな」

「初見でカフルにここまで警戒されないとは聞きしに勝る好かれっぷりですね。本当に騎獣部隊ウチに欲しい子だなぁ」

「だからこれ以上余所にやらねぇっつってんだろーが。それより、ユーリをいい加減連れて行きたいんだが?」


オッジさんとカフルのツーショットを想像しようとして失敗した頃、遂にディルナンさんが痺れを切らせたみたい。

ディルナンさんの言葉に、ヤハルさんの隣にいたお兄さんが柵を越えて側にやって来た。


「カフル、ユーリちゃんを解放してくれないかな」


お兄さんが声を掛けると、カフルが私をじーっと見てくる。


「カフル、ボク、そろそろおでかけなのー」


私も声を掛けてみると、カフルが肉球の付いた手で頭を撫でてお腹からお兄さんの側に降ろしてくれる。


「ありがと。また遊びに来てもいーい?」


是非とも再びワンダーランドを味わいたい。

お願いしてみると、再び頭を撫でてくれた。勝手に良いと解釈しよう。


ホクホクしつつ、今度はお兄さんを見上げてみた。


「おはようございます。はじめまちて、ユーリでしゅ」

「おはよう、ユーリちゃん。騎獣部隊副隊長のツェンです」

「つぇん、ふくたいちょ」


ほんわかお兄さんは騎獣部隊の副隊長のツェンさんね。発音しにくいお名前。

…ここ数日、沢山の人、それも役職者ばかりに会い過ぎて名前覚えきれる自信が全く無いんですけどー(汗)

はよノートが欲しいです。カンニングペーパーを作らねば。


「騎獣達もユーリちゃんが気に入ったみたいだから、いつでも遊びにおいで」


にっこり笑ったツェンさんが言いながら頭を撫でてくれるんだけど…何、この気持ち良い手!

形? 力加減?? 全てが絶妙です。猫だったらゴロゴロ言っちゃいそうっ。ツェンさんの所に遊びに来ます!


「…ユーリにもツェンの手は有効な様じゃな」

「いくら子供でも、調理部隊ウチの隊員を魔獣扱いするな」

「ユーリちゃんなら喜んでお世話しちゃうなぁ」


もっと撫でてー、お世話してー、って言うと何かイカガワシイかもしれない。


「ウウウゥゥゥー」

「レちゅ・・


そんな中聞こえたレツの声に、ふと我に返る。


視線を向けると、物凄く淋しそうに鳴きつつ尻尾を垂らしたレツが。目が「浮気者!」って訴えて来てるよっ。

ご、ごめんよ! 決して浮気してたつもりじゃ無いんだっっ!!


「レツ、ごめんねぇ」

「……」

「レツがいちばんよー。だいしゅきよー」


慌てて駆け寄り、レツのもふもふに抱き付きつつ弁明する。でも、返事は無い。すっかりご立腹というか、拗ねてしまっている。

お願いだから、そんな拗ねちゃまにならないでおくれ!


そして周囲の皆様、お願いだから私を情けない浮気男を見る様な目で見ないでっ。




大好き連呼のなでなでスリスリ攻撃でどうにかレツに機嫌を直してもらい、いよいよ出発する事になった。

その間に騎獣部隊のお二方とディルナンさんは何やら相談してて全く助けてくれなかったよ。とほり。


出発前なのに私のHPは既に半分以下です(泣)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ