24 お城探検 三階
試験で合格を言い渡された後にエリエスさんに説明された仕事内容は、要約すると書類の計算確認でした。色々な書類を一手に引き受けてる部署だってディルナンさんも言ってたし、数が多いんだろうな。
まぁ、こればっかりはやってみないと何とも言えないよなぁ。そんな計算の仕事は午後から開始しますとの事。
一通り説明を受けたら、エリエスさんとマルスさんが机に置いてあった書類の三分の二を持って扉を出て行く。何かと思って二人の後を付いて行ったら、二人揃ってその書類を執務室にいた隊員達にさっさと振り分けて行った。
書類を渡された隊員達の半分が微妙に白目を剥いてる。口からは魂が出て来そうな様子だ。
「仕事を放り出してユーリを出迎える位です。この程度の仕事、出来ないとは言わせませんよ」
エリエスさんの冷たい笑顔での宣言に、どうにか無事だった隊員達は半分泣きそうだ。…その半分が微妙に嬉しそうにしてるのは気の所為だよね?(汗)
それとは別に、エリエスさんとマルスさんに仕事を押し付けられなかった一部の人達はマルスさんと何やらアイコンタクトをして小さく頷いてる。以心伝心だっ。
「さて、書類整理が済んだ所で約束通り城内を歩きに行きましょうか、ユーリ」
微妙に感動していた私に視線を向けたエリエスさんの笑顔は冷たさが消え失せていた。むしろ輝いてさえいる。器用だよね。
いや、それよりもお仕置きとして(?)部下に仕事を押し付けて「書類整理」と言い切るエリエスさんの男前っぷりに感心するべきなのかな。
取り敢えず、十秒程エリエスさんの笑顔に見とれていてもいいですか?
エリエスさんとマルスさんと書類部隊の執務室を出ると、最初に連れて行かれたのは登って来たあの大階段。
「動く前に、簡単に北の魔王城の構造を説明をしましょうか」
エリエスさんの言葉に、エリエスさんを見上げる。
「この北の魔王城は、防衛機能に特化した要塞です。ですので他の東西南の魔王城とは違い、美しさや使い易さに重きを置いていません。
北の魔王領の魔族は他の領地の者に比べて闘争本能が強く、諸侯すらも完全に魔王様の味方ではありません。寧ろ、常に魔王様の動向を見ている分だけ性質が悪いですね。
そして、昔から北の魔王領は南の魔王領の襲撃を多く受けています。南の魔王領の魔族は楽しい事には全く飽きずに全力を向けると言う迷惑な気質ですので、これからも襲撃は考えられます。それが、北の魔王城が要塞である主な理由です」
北の魔王城が分厚い城壁に囲まれて質実剛健な造りな理由、物凄く納得です。
つまり、常に陰で爪と牙を研いでいる身の回りと、北の魔王領の中心と言うべき北の魔王城に特攻をかける事が大好きなお向かいさんがいるって事だね。
「なので、城内の部隊の配置も他の魔王城では有り得ない配置もされています。更に裏切りを最小限にする為に城塞ではないですし、他の魔王城に比べて人員も十分の一以下なんです。だからこその実力主義で、内勤でも名称に”部隊”が付きますし、個人にも一定レベル以上の戦闘能力が求められます」
何だか聞けば聞く程に物騒だな、北の魔王城。
これは頑張って戦える様にならないと身の危険というか、命の危険をヒシヒシと感じます。
「エリエスたいちょ、一個聞いてもいーですか?」
「何でしょう」
ふと浮かんだ疑問にエリエスさんを見上げると、笑顔で促された。薄暗い城内ではエリエス隊長の笑顔がとても眩しいです。
「”よーさい”と”じょーさい”で何がちがうのか分かりましぇん」
…分からないの私だけかしら。どきどき。
「そうですね…。ユーリならば要塞は独立型で、城塞は城壁内に城下町を抱えた形態といった程度の認識でいいでしょう。
北の魔王城は他の魔王城と違って城壁の内部には集落を抱えていませんから、要塞の括りに入ります」
「お城だけだと、よーさい?」
「本当はもっと細かな違いがあるのですがね」
深く突っ込むには私程度の知識じゃ無意味って事ね。
下手に聞いても理解出来るとも思えないし。
そして、エリエスさんが「私ならばこの程度」と言う辺り、あまり触れない方が良いのかもしれない。
下手に秘密を知って、何かあったら即処分なんて事になったらえらいこっちゃ。
「エリエしゅたいちょ、中の配置もきまりがあるですか?」
「決まりと言うよりも慣例に近い物ならばそれなりにはありますが、北の魔王城にそれを期待してはダメですよ。
それぞれの部隊の場所は必要な時に追々教えて行きますので、今日は何階にどの部隊があるのかだけ説明しましょう」
「よろしくおねがいしましゅ」
お城と言うだけあって、広いもんなー。細かい所まで見てたら絶対丸一日程度じゃ歩き切れない。
一番最初は基本をお散歩だい。
「まず、ここ三階は主に書類部隊の執務室と書庫、資料庫があります。それ以外は情報部隊と清掃部隊の部屋と倉庫、それと会議室です」
あれ、何か変わった部隊が一つ紛れて無い? 気の所為??
「…上からおそうじするとキレーになるから?」
「…それもありますね」
「…後は主にスペースの関係だ」
念の為に聞いてみると、エリエスさんが笑顔で頷いてくれたけど微妙な間があった。
ボソリと呟いたマルスさんの言葉が絶対に本音だと思う。
それでも否定しない辺りがこの二人の優しさだろうか。
「さ、では二階に下りてみましょう」
「あーい」
でも、ツッコみません。長い物に大人しく巻かれます。
触らぬ神に祟り無し。藪蛇は御免です。
さ、気を取り直して次に行ってみよー!




