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かわいいコックさん  作者: 霜水無


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別視点11 服飾部門の喜び(カラフ視点)

別視点07と内容はほぼ重複しています。嫌な方は飛ばして下さい。

鍛冶部隊副隊長のカラフについてです。

北の魔王城の鍛冶部隊の主力は、ジョット隊長率いる武器・防具作製部門。副隊長とは言え、アタシ、カラフの担当する服飾部門は裏方と言われて久しいわ。


通常業務では専ら内勤部隊の隊員の作業着の作製ばかり。

良くても北の魔王城の主であるカイユ様の対外向けの衣装作製。


それ以外にも一応は依頼を受けて衣装を作る事はあるけれど、その殆どは酒宴での余興や罰ゲームの為である事が多い。

あとは、カイユ様の寵姫のドレス作製が極稀にあるかどうか。


アタシ達服飾担当部門は作るからには気合を入れて作るんだから大切に着て欲しいのに、そのどれもが精々一、二回程度着られたら上等と言う有様。




アタシは昔から様々な色や柄の生地で作られた、きらきらした女性の服飾を見るのが好きだった。

これは衣装のデザインの仕事をしていた母の影響。

頭の中で膨らませたイメージを元に美しい衣装が作り上げられ、それを基に様々なアイテムが加えられ、化粧が施されて女性がより美しく飾られていくその過程自体も大好きだった。

そんな思考が変わってると言われ続けて早300年以上。

別に同性が恋愛対象という訳ではない。ただ、服飾で自分を含めて人を美しくしたいだけだったけど、滅多に理解される事は無かった。

それならばと服や言葉遣いを女らしくハイテンションにしてみたんだけど、それが意外に楽しくって今ではすっかりそんなキャラとして定着してしまったわ。

なよなよして男らしくない? 結構よ。お姉様とお呼びなさい。







ユーリちゃんの事を知ったのは、服飾担当の隊員からだった。

昼食を済ませた彼が興奮して鍛冶部隊の中にある衣装部屋に飛び込む様に戻って来て大騒ぎしたのだ。

調理部隊のディルナン隊長と書類部隊のエリエス隊長に連れられて食堂にやって来た、小さくて可愛らしい子供。それを聞いた時、何て北の魔王城に似合わない形容だろうと思ったわ。

でも、話を聞く内に少しずつ楽しみを覚えたのも事実。もしも本当にその子が北の魔王城で働くのならば、必ず鍛冶部隊に打診があるから、念の為に仕事を調整しておいたの。


食事を急いで取っていつも通りに仕事をしていたら、ディルナン隊長とエリエス隊長が迎えに来たって聞かされた。直ぐに出て行ったのに、もうジョット隊長は出て来ていた。この人、素早いわね。

それにしても、来客である隊長二人と一緒にいる筈の子供の姿が見当たらない。この二人が来た本題の主要人物なのに。


「噂のかわい子ちゃんはドコ!?」

「医務室だ」


一応周りを見回してから聞いてみたら、思い掛けない答えがディルナン隊長から返って来た。


「医務室ですって?! どこか悪いのっ??!」

「違いますよ、カラフ。丁度お昼寝に入りましてね。寝ている間に健康診断を受けさせようとヴィンセントに頼んで来たんです。とてもいい子なんですが、医者が好きな子供はほとんどいないでしょうからね」

「なぁんだ、良かったわ。」


思わず畳み掛けてしまったら、ディルナン隊長に代わってエリエス隊長がその子の状況を教えてくれた。健康診断を寝ている間に受けさせているって言うのは納得できるけど…お昼寝が必要な程小さいのかしら。


「それで、お二人には医務室に採寸に来て頂きたいんです」

「そーいう事ねぇ。アタシはいいわよん。話聞いて来ると思ってたから、任せられる仕事は他の子に任せちゃったしー」

「寝ている子供ガキを叩き起こす訳にいかねぇだろ。特別急ぎのヤツもねぇし、特殊な注文もねぇから問題ねぇ」

「それで、何が必要なのかしらー?」

「ジョットには包丁セットを頼みたい。特別サイズになるからな。カラフには調理部隊のコック服と寝巻き、下着の類を」

「私は筆記具と書類部隊用のローブを。それと、カラフ、貴方を見込んで頼みが一点」


まあ、でも寝ている子供を緊急時でも無いのに叩き起こすなんて出来っこないし。隊長二人のお願いを断れる訳も無いわ。その子の為に仕事も調節していたんだし。

出張して採寸する為に必要な物を確かめるべく注文を確認すると、ディルナン隊長とエリエス隊長それぞれから注文が告げられた。

更に、エリエス隊長が追加でナイショ話をする為に耳元に口を寄せてくる。


「子供が寝ている時に抱っこ出来る様な少し大きめの、肌触りの良いぬいぐるみを二体プレゼントしたいと思っていまして。出来れば、レツとフィリウスの形でお願いしたいんです」

「んまぁ! 素敵じゃないっ!! そーいう依頼大好きよぅ、張り切って作っちゃうっっ!!!」


エリエス隊長の言う頼みの内容に、テンションが最高潮になった。

今までの北の魔王城では全く考えられない依頼。

コレこそ、アタシ達鍛冶部隊の服飾部門担当の得意分野じゃない!


「それにしても、第二特別部隊か?」

「あぁ。調理部隊だけに収めるには余りにも幼すぎて酷だから、エリエスに週一位で預ける事にした」

「…一体いくつだ?」

「分からん。『深遠の森』で記憶喪失の所を保護したから、守護輪が無けりゃ名前も分からなかったんだ。見た目は30になってるかどうかも怪しいって所か」


ぬいぐるみをどんな素材を使って作ろうかとワクワクしながら考えていると、ジョット隊長がディルナン隊長に聞いていた。

そういえば、ディルナン隊長とエリエス隊長それぞれから注文が入っていたわね。

注文が嬉しすぎて余り気に留めていなかったけれど。


でも、その理由を聞いてジョット隊長とアタシは耳を疑ってしまった。信じられない内容だった。

拾った場所も、その子の状況も有り得ないけれど…それが、そんなに幼い子供で、この北の魔王城で働かせる気なんて。


「ちょっ、ディルナン隊長、悪い冗談にも程があるわよ!?」

「事実だ。庇護者皆無、武器類は一切所持せず、魔術は最低レベルで使用経験あるかも怪しい上に適性が水属性だけの幼子だ。いつから放置されてたか知らんが、ガリガリに痩せ細ってリザイルに追いかけられて食われかけてた所に出くわしてな。」

「…ありえねぇ」

「どうなるか分かんねぇが、取り敢えず『深遠の森』でも生き残れる様に仕込んでやるつもりで連れて来た。エリエスの許可取って仮入隊はさせたから、三ヶ月は見てやれる」

「そこらの新成人よりずっとお利口な子ですよ。礼儀はしっかりしてるし、きちんと話を聞けてこちらの言う事も理解出来てますし、分からなければ質問も出来ますし、頭の回転も速い。良い意味で子供らしくない子供ですね」


ジョット隊長も同じ事を思ったみたいだけれど、ディルナン隊長とエリエス隊長は迷いは無いみたい。


「まぁ、お前等が変なモン城に入れるたぁ思わねぇがよ」

「会えば分かるわよねぇ」

「そろそろ健康診断も終わるでしょうし、医務室に行きましょうか」


思わずジョット隊長と目を見合わせて言うと、エリエス隊長が「取り敢えず会ってみろ」と言わんばかりに声を掛けてきた。

それを合図に必要な採寸道具を持ち、鍛冶部隊から医務室へと向かった。







エリエス隊長が声を掛けてから医務室に入った先で目にしたのは、机でカルテを書く医療部隊のヴィンセント隊長とバクス。そして、ベッドで点滴を受けながら眠る子供。

子供の姿を見るなり、ディルナン隊長が血相を変えてヴィンセント隊長を見たが、重症と言う訳ではなく、念の為との答えが返ってきていた。

それと共にディルナン隊長に注意が言い渡される。


「…他には?」

「……問題はあと一点だな。―――この子供、中性体だ」


ディルナン隊長がホッとした様な、後悔した様な表情を浮かべつつ他に何も無いかをヴィンセント隊長に確認すると、ヴィンセント隊長がとんでもない言葉を口にした。

「中性体」という言葉に、話を聞いていた全員が耳を疑った位よ。


「中性体…って」

「よくもまぁ、こんな特殊な子供を『深遠の森』なんぞに連れて行こうと思ったもんだ。中性体なんて私でさえお目に掛かったのは初めてだ。まだの様だったから私から情報部隊に極秘で調査を頼んでおいた。ヴァスが担当すると言ってたぞ。後でお前の所へ追加情報を求めに行くかもしれん。だが、厄介だな。下手すりゃ存在を消された子供だぞ」


驚きにディルナン隊長がまさかと呟くが、ヴィンセント隊長とバクスの表情は冗談を言う時のものでは無く、真剣そのものだった。

中性体はアタシにとって、それこそ御伽話に出てくる様な幻の存在。

医師として長いキャリアを持つヴィンセント隊長でさえも初めて見ると言う程だもの。どう考えてもかなりの訳有りじゃない。


「目が覚めたら話を聞いてみようとは思うが、記憶喪失は心因性のものだろう。こんな幼子が『深遠の森』なんかに一人きりにされてショックを負わない訳が無いんだ。他は辛うじてだが問題なし。後はしっかり食わせて、しっかり休ませる事だな」

「分かった。…礼を言う、ヴィンセント」


それでもディルナン隊長はアッサリその子を受け入れてしまった。

ベッドに近付き、眠る子供の頬をそっと撫でる。

…こんな小さな子供を連れて来た位だもの、最初から色々と覚悟していたのかも知れない。

エリエス隊長もディルナン隊長に続いて近付き、子供の寝顔を見て微笑んだ。


「可愛らしい寝顔ですね」


エリエス隊長のそんな声にジョット隊長と共に、アタシもベッドに近付いて眠る子供を見た。

子供は子供でも、親に引っ付いていてもおかしくない程に小さな幼子だった。

とても整った顔立ちをしているのが一目で分かる。可愛い寝顔をしてどんな夢を見ているのかしら。


「まぁっ、この子が噂の子ねっっ。やーん、ホントに可愛いのね!」

「…随分ちっこいな。名前は?」

「ユーリだ。二人共、頼んだ」

「任せて頂戴。最っ高にキュートな仕事着と寝巻きに仕上げるわよー」

「鍛冶部隊の腕の見せ所だな。明日までに必要最低限の包丁三本と筆記具、しっかり仕上げるぜ」


名前はユーリちゃんと言うのね。

仮とは言え、こんな小さな隊員の入隊は間違いなく初めてね。

これまで使っていた基礎のサイズ型は一切使えない。だからこそ、逆に鍛冶部隊の技量を試される様な注文だわ。


点滴に気を付けながら、ジョット隊長と連携して必要な採寸をこなしていく。

採寸していてユーリちゃんがどれだけ過酷な環境に置かれていたのかを垣間見た気がした。あまりにも痩せ細ってしまっている。

これは必要最低限の数だけ作って、定期的に採寸と作業着の作り直しが必要だわ。


「ディルナン、このチビッ子は右利きか?」

「あぁ。右手でフォークを握ってた。仕込み専門の予定だから、ぺティナイフを優先させてくれ」

「ユーリちゃんの寝巻きと下着の生地は任せて貰ってもいいのかしらー?」

「ど派手なのはヤメロ。それ以外は任せた」


作るもののイメージを浮かべながら必要な情報をディルナン隊長から得ていく。

採寸が終わると、早速作業に取り掛かるべく挨拶もそこそこにジョット隊長と鍛冶部隊へと戻る。


「久々に腕が鳴る依頼だぜ」

「えぇ、あれだけ小さい子が使うものだからこそ手は抜けないわ」


本当は余り歓迎すべき隊員では無いのかもしれない。

でも、職人としてはまたと無いチャンスにアタシは勿論、ジョット隊長さえも心躍っていた。







鍛冶部隊の衣裳部屋に戻るなり、急ぎの仕事中以外の隊員を集めてまずはユーリちゃんのコック服の作製に早速取り掛かる。


寝巻きや下着類と違って、作業着は使っている生地の強度がアーマー並みになる様に特殊な素材で出来ている。そんな生地を加工するのだから当然ながら特殊な道具も必要だし、時間が掛かる。人手がある時間に分担して、出来るだけ早く仕上げてしまいたかった。


隊員達にユーリちゃんのサイズを伝えると、「小さい!」と歓声が上がった。

靴担当は慌ててサイズを起こして木材加工担当の所へ型を作って貰いに走る。

服飾担当は担当パーツを決めてそれぞれが作業に移る。


「副隊長、今度この子の装飾品も作らせて下さい!」

「何言ってるの! ユーリちゃんは今着てる服しか持っていないんだから、服以外にも靴や装飾品まるごと一式全部作る事になるわ。小さい子だからズボンも、スカートも関係なく着てくれるだろうし、忙しくなるわよー!」

「…オレ、今まで挫けず頑張って来て良かったです」

「馬鹿ね、泣く事無いじゃないの。楽しんで仕事しましょうね」

『はい!』


ユーリちゃんが中性体である事は伏せて作るであろう物を告げると、隊員の一人が嬉しさの余り泣き出してしまった。

これまで技術の見せ所も無ければ、地味で代わり映えのしない仕事ばかりだったから無理も無いかしら。

それにしても、この部屋でこんなに生き生きした雰囲気は初めてかも知れない。一気に忙しくなったと言うのに、嬉しさで悲鳴を上げたのも。


…ユーリちゃんには本当に感謝しちゃうわね。

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