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かわいいコックさん  作者: 霜水無


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別視点08 ヴィンセントの考察 前編(ヴィンセント視点)

別視点07~本編11と内容がほぼ重複しています。嫌な方は飛ばして下さい。

此処で出現した新たな情報部隊長は後日、本編にて正式に出現してきます。

真夜中に暗闇の中で目覚め、怯えて泣き叫んだ幼子はあやす内に再び眠りに就いた。

腕の中の唯でさえ小さなその体は力が抜けきっても余りに軽く、痩せ細っている。







いつもより少し遅い昼食に行った食堂は一つの話題で持ち切りだった。


調理部隊長であるディルナンが可愛らしい幼子を連れて戻ったと。


眉唾物の話だが、ディルナンと共に書類部隊長であるエリエスも共にいたという話とこれだけ大勢の目撃証言がある以上、真実である可能性も否定出来なかった。




そして、食事を終えて医務室に戻って然程経たずに、噂通りにディルナンとエリエスに連れられてその幼子は私の根城である医務室に姿を現した。

こいつらの仕業で外警部隊の騎士が一人、午前中に運ばれてきている。よく顔を出せたものだ。

少し皮肉ってやったが、エリエスに反省の色は皆無。ディルナンも一向に悪びれた様子がない。それ所か居なくて良かったとまで言い放つ始末。呆れて溜息が零れた。


そんな中、ディルナンに抱っこされて眠る幼子は可愛らしく、和んだ。

私の息子は独り立ちして久しいから、幼子の姿に懐かしささえ覚える。

しかし、医務室に来るとなれば、何かあるのだろう。気持ちを引き締めてディルナンとエリエスに用件を聞いた。




ディルナンに聞かされた幼子を連れて来た経緯は驚くべき物だった。

『深遠の森』にその身一つで置き去りにされ、凶暴な肉食魔獣に追われていた所をディルナンが保護。

記憶を失い、守護輪で辛うじて”ユーリ”という名前が分かっただけで、他は一切不明。

痩せ細り、それでいながら食事の摂取量が余りにも少ないという事。

心配になって健診を受けさせに来たらしい。


一先ずディルナンに子供を寝かせる様に指示を出した。


「バクス、来てくれ」


正直、医者として見過ごせない状況と言える。

幼子の小さな体は繊細で脆く、大人用の器具では合わない事の方が多い。薬の管理も慎重にしなければならない。

その体調管理や治療は医療部隊と言えど実力のある者でなければ難しく、この子を診るのは、私と副隊長であるバクスが中心になるしかない。

そう判断し、奥の部屋で薬の図鑑とにらめっこしていた筈のバクスを呼べば直ぐに出て来た。


「何か問題でも?」

「子供の健診だ。今は時間も手も空いてるし、お前も見ておいた方がいい」

「もしかして、食堂で噂の?」


話はバクスも聞いていたらしく、手短に用件を告げると直ぐに飲み込む。

可愛い物好きの男だから、瞳は輝いていたが。


ディルナンとエリエスはどこか心配そうにしていたが、付いていたからといって何も出来ない。むしろ邪魔である。

鍛冶部隊に行ってこの幼子―――ユーリの装備品の為にジョットとカラフを呼びに行くとの事だったのでさっさと追い出した。




バクスにユーリの置かれていた状況を説明し、眠る間に二人掛かりで手際よく健診を進めていく。

私とバクスが二人掛りで診る等、余程重症な患者が出ない限りはほとんど無い。


「…この子、どれだけ一人で放置されていたんでしょう。身長と体重のバランスが悪すぎる。手足がこんなに痩せ細って、腹部も出てますね」

「血液成分もそうだ。辛うじて内臓が無事という印象だな。点滴をした方がいい」

「後は外傷確認と、目が覚めてからの精神ダメージの確認ですね」


基礎健診を終え、新しいカルテに数値と所見を記入していく。それから外傷確認に服を脱がせた。


「!」

「!?」


傷を確認するだけの筈が、思わずバクスと共に息を呑んでいた。


ユーリに、性の象徴が見当たらなかったのだ。男でも、女でもない、成人すればどちらにもなれる特殊な中性体。

それなりに長く生きているが、お目に掛かったのは初めてだった。余りにも希少な魔族と言える。

守護輪を与えられる程に裕福な家庭の子供ならば、それこそ籠の鳥レベルまで大切に囲って育てられる筈の存在なのだ。


「これは、随分きな臭いな」

「普通では有り得ませんね」

「…大きな傷は無さそうだ。手足の小さな傷も問題ない」


それでも確認すべき事を確認して、ユーリに服を着せる。


「先に報告書を記入して情報部隊に極秘で調査依頼を出す。恐らく、ディルナン達はユーリが中性体である事を知らない。調査依頼は後で出すつもりだった筈だ。それから、栄養剤の点滴をして水分の供給も一緒にしてやればいい」

「了解。じゃあ、ボクは点滴の用意をしますね」


やるべき事を確認し、バクスにユーリの点滴を任せると机に向かい、滅多に書く事の無い調査依頼とそれに添える為の報告書を書き始めた。







書き上がった二枚の書面を手に医務室を出て、情報部隊の執務室に向かう。


「ヴァスはいるか?」


扉を開き、情報部隊の部隊長であるヴァスを呼ぶ。

すると、執務室内にいた隊員が奥へと入っていった。少し待っていると、呼び出したヴァスが姿を現した。


暗い紫の髪を長く伸ばし、まとめている。

前髪が顔の上半分を隠し、その顔と瞳の色はもちろん、年齢も不詳。

ただ、ピタリと体に沿った隠密用の漆黒の服を纏っているので、鍛えられた体の筋肉の状態を見る限り、500歳は越えていないだろう。


「…何?」

「お前か、お前が信用出来る者に調査を依頼したい。…かなり特殊で、複雑になると予想出来る。それを極秘にだ」


ぼそりと問われ、持ってきた紙を振って見せつつ用件を小声で伝える。

すると、ヴァスが紙を寄越せと手を差し出してきた。

渡すと内容に目を通し、読み終えるなり依頼書を残して報告書を燃やした。


「情報、これだけ?」

「詳しい経緯はディルナンが知っているから、そっちに聞いてくれ。後々、更に別の所で詳しい情報が出たら報告する様にしよう。…ヴァス、お前が調査を担当するって事でいいのかな?」

「…他を、出せない。危ない」

「分かった。では、頼んだよ」


ヴァスは元々、口数が異様に少ない男だ。

話が終われば用は無く、さっさとヴァスに背を向けて医務室へと戻る事にした。







医務室に戻ると、バクスの手で点滴が始まっていた。

念の為に針を確認すると、正確に刺してある。問題ない。


「お帰りなさい」

「あぁ。ユーリのカルテは…」

「これです」


机に向かって座り、中断していたカルテを記入していく。


丁度書き上がった時、ディルナンとエリエスが鍛冶部隊の隊長であるジョットと副隊長であるカラフを連れて戻って来た。

ディルナンがベッドで眠るユーリを見るなり顔色を変える。


「ヴィンセント!?」

「栄養失調と脱水の気があったからな、念の為にだ。ディルナン、子供にしっかり水を与えてないな?大人と違って子供は水分を多く必要とする。それを忘れるな」

「…他には?」

「……問題はあと一点だけだな。―――この子供、中性体だ」


詰め寄ってきたディルナンに点滴の理由を話せば微かに顔を歪めるディルナンだが、一番の問題を告げれば、四人揃って絶句する。やはり知らなかったか。


「中性体…って」

「よくもまぁ、こんな特殊な子供を『深遠の森』なんぞに連れて行こうと思ったものだ。中性体なんて私でさえお目に掛かったのは初めてだ。まだの様だったから私から情報部隊に極秘で調査を頼んでおいた。ヴァスが担当すると言ってたぞ。後でお前の所へ追加情報を求めに行くかもしれん。だが、厄介だな。下手をすれば存在を消された子供だ」


まさか、と言いた気なディルナンにヴァスが担当すると告げる事で冗談ではないと言い切る。


「目が覚めたら話を聞いてみようとは思うが、記憶喪失は心因性のものだろう。こんな幼子が『深遠の森』なんかに放置されてショックを負わない訳が無い。他は辛うじてだが問題なし。後はしっかり食わせて、しっかり休ませる事だな」

「分かった。…礼を言う、ヴィンセント」


他に問題は見当たらなかった事と、記憶喪失についてはまた後で確認する事を報告すれば、ディルナンが平静を取り戻す。

そのままユーリの側へ行き、ディルナンがユーリの頬をそっと撫でる。エリエスもディルナンと同じ様にユーリに近付き、その寝顔に微笑を見せた。

そんな二人に続いて鍛冶部隊の二人もユーリの眠るベッドに近付き、ユーリの姿を見て、名前を聞いて、それぞれが採寸作業に入る。

手早く作業を終えると、二人揃って医務室を出て行った。


「ユーリちゃんが目覚めるまで我々はお茶にでもしましょうか」


バクスが医務室の雰囲気を見て提案し、お茶の用意を始める。

お茶で一息吐いていると、ディルナンが何故かクリルを小さく割ってユーリの顔のすぐ側へ持って行った。

一体何をするつもりなのか見ていると、いきなりユーリがクリルを挟んだディルナンの指に食らいついた!?


エリエスは爆笑しているが、私とバクスは呆然とするしかない。ユーリに意識はない筈だ。

なのに、食らいついただけでなく、がじがじとディルナンの指に齧り付きながら唸っている。

ディルナンに笑いながら声を掛けられ、ユーリが漸く目を覚ます。

寝惚け眼でディルナンを見上げ、所在地を確認している。

点滴に首を傾げるユーリに、健診を受けたとディルナンが説明する。

それが終わった頃にエリエスがベッドに近付き、ユーリに声を掛けた。


「おはようございます、ユーリ」

「おはよーございます、エリエしゅ・・おにいちゃま」


きちんと発音出来ないのは幼子故だ。それが可愛らしくて大人達から笑みが零れた。

エリエスも理由が分かっているから怒りもしないが、当人は申し訳無さそうに小さくなってエリエスに謝っている。


「この年頃の子供に完璧な発音を求めるのは酷だな。成長すれば自然と言えるようになるし、後はひたすら喋って慣らすしかあるまい」


可哀想になり助け舟を出すと、ユーリの目が私とバクスに向いた。


「初めまして、ユーリ。私はヴィンセント。医療部隊の隊長をしている。そっちにいるのはバクス。医療部隊の副隊長だ。これから君に治療が必要な時に診る事になるから覚えてくれるかな?」

「はじめまして、ユーリです。ヴィンちぇ・・ントおじちゃまとバクしゅ・・おにいちゃま」


自己紹介をすると私達の名前を呼ぼうとするユーリだが、サ行が特に苦手らしくエリエスと同じ様に躓いて益々小さくなった。

幼子の愛らしい姿に、妙に医務室内が和んでしまった。




点滴をしつつも起き上がったユーリにバクスがホットミルクを用意し、クリルを持たせると、ティチスの様に食べ始める。

甘い物が好きなのか、実に幸せそうな空気を纏っていた。


…今の所、心の傷は表面化していないな。瞳に翳りも濁りも見られない。


「それにしても、本当に美味そうに食べるな」

「食い物への食い付きがハンパ無いからな。…ユーリ、食い物に釣られてよく知らないヤツに付いて行くんじゃないぞ」

「そうですよ。そんな人達に貰わずに、どうしても食べたくなったら私達の所へいらっしゃい。美味しいお菓子を用意してあげますからね」

「ボクの所でも良いよ。お菓子が好きで、大体ストックしてあるし」


思わず感想を漏らすと、ディルナンが頷きつつユーリに注意する。

それにエリエスとバクスも便乗すると、キョトンとしつつ頷く。

…何だか、分かっているのか心配になるな。


「まぁ、所属は調理部隊と書類部隊だから、食い物に困る事は無いだろうが」

「第二特別部隊か」

「調理部隊だけに置くのは難し過ぎるだろう。仕込み専門にするが、何せタシ芋、ベルモン、オル葱は毎日大量に使う」

「週一位で書類部隊で集計作業をして頂く予定になっています」

「身長に見合った体重に回復するまで、週二は書類部隊にしておけ。調理部隊二日に書類部隊一日を二セットで休みだな。無理そうなら暫くは一セット終わった後にも休みを入れろ。それと毎週、週の初めか終わりの午前に健診を受けて貰う」

「「了解」」


私と同じ様にユーリの反応を不安に思ったらしいディルナンだが、取り敢えずの心配は無いと語ったその内容に少し驚く。すると、そこにエリエスも加わってきた。


調理部隊と書類部隊の第二特別部隊所属…内容にも少し不安を感じ、医者として一言入れさせて貰う。

ユーリの小さな体の状態や注意点、何かあれば直ぐに医務室に連れて来る様にディルナンとエリエスに説明していると、バクスとユーリが北の魔王城の十四部隊について話す声が聞こえてくる。


外勤部隊の話をバクスから聞き、簡単な計算問題を出されて即答するユーリ。

普通ならばある程度体が出来上がる50歳を過ぎなければ勉強などしないし、必要無い。

沢山食事を摂り、外で駆け回って遊び、沢山寝て成長する事こそが幼子の仕事だ。

あの子はどんなに成長していても30歳位だと言うのに、一体どんな生活を送っていたのだろうか。

ディルナンとエリエスもその異常性に気付き、表情を硬くしている。


「じゃあ、内勤の十部隊をお話しようか。ユーリちゃんはいくつ知ってるかな?」

「んと、御飯のちょうり部隊と、エリエスおにいちゃまのしょるい部隊と、此処が治りょうするいりょう部隊で…。あとはね、レツのお世話してるきじゅう部隊とー、武器をつくるかじ部隊!えとえと…ほうきが武器のせいそう部隊に、おやさいが武器ののうさく部隊!!」


…だと言うのに、内勤部隊の事を聞かれて話をするユーリに大人が揃いも揃って撃沈する。ついさっき漂いかけたシリアスな雰囲気は欠片も無く吹き飛ばされた。


北の魔王城の内勤部隊と言えば、他の魔王城の十分の一以下の人員で業務を回す少数精鋭振りが一般的には有名だというのに、ユーリに掛かったら単なる役割や所属人物による名称としての扱いでしか無かった。最後の二部隊に至ってはキワモノ扱いである。

大人四人が爆笑するのだけは必死に堪えていると、「め?」とユーリが首を傾げた。

その殺人的な愛らしさに、今度は悶絶するのを堪える羽目になった。





「あー、ごほん。きちんとディルナン隊長とエリエス隊長の話を聞いて覚えていたんですね。七つちゃんと言えて偉いですよ、ユーリちゃん」

「あとみっつはー?」

「あと三つの内勤部隊は、魔王様や他の魔王城なんかからのお客様のお世話担当係の近習部隊と、城の保守や増改築を筆頭に大小様々な備品を準備・作成する設備部隊、情報関連を一手に司る情報部隊だよ」


改めて気を取り直したバクスが話を再開する。


「ユーリちゃんは魔王様に会ってみたい?」

「う? 会えないと思うから別にいいー」


そして、バクスが優しい笑顔の裏でユーリを試し始める。

いくら可愛い物好きとはいえ、やはりユーリが北の魔王城で働く事に納得しきっていた訳ではなかったか。

コレには話がほぼ終わっていたディルナンとエリエスも耳を澄ませたが、間髪入れずにユーリが否定した。

バクスがもう一度確認するが、やはり否定する速さは変わらない。全く迷う素振りが無いのだ。


「珍しい子だね、ユーリちゃんは。普通は魔王様に会ってみたいって言うものなのに」

「どーして?」

「魔王様って言ったら、強いだけじゃなくて美形なんだよ。東西南北、どの魔王様もタイプは違うけど凄い美形だよ」

「ボク、御飯のほーが良い」

「………魔王様より、御飯…………?」


バクスがユーリの本音を探る為に押し捲るが、ユーリから思い掛けない反撃を食らって頬を引き攣らせつつ絶句する。

バクスが返り討ちに合ったその言葉に、私達は堪え切れずに噴出していた。




バクスが終わった点滴を片付ける為に側を離れるのを見てディルナンがユーリに笑って近付き、声を掛ける。


「…カイユさま、魔王さま?」

「そうですよ。我々の主である北の魔王様のお名前はカイユ様と仰います」

「ごしゅじんしゃま」


魔王様の名前を確かめると同時にエリエスに雇用主と教えられ、知っていたらしい単語を口にするユーリ。

これは堪らない。何と言う可愛さだ。

是非、私を「パパ」と呼んでくれないものか。


「…ディルナン、是非この子を医療部隊ウチに」

「やらねーぞ。エリエスの所だけで十分だ」

「この子が看護師服を着た姿が見たい。応急手当を覚えさせて治療出来れば、何かあった時に心強いぞ?」

「前半に本音だだ漏れしてるじゃねぇか! …応急手当を覚えさせるのは賛成だが」

「ユーリの為になるのならば、健診の時に昼まで応急手当の勉強をする位はいいんじゃないでしょうか。幸い、実践する機会は腐る程にありそうですし」

「外勤連中か。訓練で怪我は絶えんし、良い練習台だな」

「治療に来たら、可愛らしい看護師さんユーリに治療して貰えるんですよ。士気も上がるでしょうから、外勤部隊の隊長にもユーリを認めさせやすくなるでしょう」

「そうと決まればカラフに即、看護師服も頼もう」


特殊部隊制を調理部隊と書類部隊で使うなら、もう一つ所属部隊が増えてもいいだろう。

渋るディルナンだったがエリエスの助力もあり、どうにか捩じ込む。そこへ片付けを終えて戻って来たバクスが私の援護に入った。

しかし「けしからん、もっとやれ!」とは矛盾してないか?


「出来たわよー! コック服第一号!!」


話が纏まると同時に扉が勢い良く開き、カラフが飛び込んでくる。

…採寸してから半刻程度しか経っていないんだが。


「…早いな、カラフ」

「アタシ達は服飾のプロよ。型は決まってるし、サイズさえ分かれば…特に、ユーリちゃんみたいに小さい子の服なら、ちょちょいのちょいってモンに決まってるじゃない。手の込んだ服は小さい分逆に手が掛かるから、時間がある時にゆっくり作るわー」


同じ事を思ったらしいディルナンがツッコミを入れるが、カラフは何でも無いと言い放つ。

いくらプロと言えど、余りにも早過ぎる。どれだけ張り切ったんだ。

だが、ナイスタイミングとはこの事だな。


「カラフ、依頼追加だ。ユーリのサイズで看護師服も頼む」

「んまぁっ! ユーリちゃんのって事は、スカートタイプの看護師服を作っていいのね!?」


ドサクサに紛れてカラフに依頼すると、カラフの表情が更に輝く。


「カラフさん、是非スカートタイプで」

「スカートタイプって…可愛すぎて危ないだろう!」

「ディルナン、子供ですから可愛い方がいいじゃないですか」

「士気上げに効果覿面だな」


カラフの言葉にバクスが同意すればディルナンが難色を示し、エリエスがディルナンを諌める。

今まで見た事の無い面白い構図に、思わずエリエスの後押しをしておいた。

そんな私達の遣り取りに「じゃあ、スカートとズボンタイプ、両方作るわね」等とアッサリ言ってのけるカラフはさり気無く強者だ。


話が終わると、カラフがユーリに視線を向ける。ユーリは不思議そうにカラフを見上げていた。


「はじめまして、ユーリちゃん。アタシはカラフ、鍛冶部隊副隊長で服飾担当をしているの。よろしくね」

「はじめまして、ユーリです。…カラフ、おにいちゃま? おねえちゃま??」

「まっ、いい子ねぇ、ユーリちゃん。カラフおねえちゃまでいいわよぅ」

「おねえちゃま、よろしくなのー」


自己紹介をするカラフに、ユーリが問い掛ける。

普通ならその言葉はエリエスに言いそうな物だ。だと言うのに、ユーリはエリエスを見ないし、カラフと同じとしていない。

そして、外見的に一種異様とさえ言えるカラフを普通としてアッサリ受け入れてしまった。

…この子は、他人の本質を見抜けるのか?


「…成る程ねぇ、空気をちゃあんと読めるのね。エリエス隊長が気に入る訳だわ」


カラフはそんなユーリに楽しそうに目を細め、ちらりとエリエスに視線を向ける。

目線を寄越したカラフにエリエスも別の意味で目を細めていた。

ヒヤリとした空気が医務室中に広がっているというのに、ユーリはおっとり笑っている。だが、未だにエリエスを一切見ようともしない。


これは面白い子供がいたものだ。

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