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第6話

 松本アルプス公園に到着すると、先に来ていた爆弾処理班が公園の封鎖、捜索を開始していた。

 私が立ち入り禁止のテープを越えると気が付いた赤石クン、相変わらずの若手俳優顔負けな容姿でこちらに向かってくる。

 一瞬時間がゆるやかになって、なんかのプロモーション映像じゃないのかと思う。


 本当はキャリア組で本部の警部補スタートのはずだったが、なぜか長野(こっち)で巡査として私の部下をしている。


「おはようございます。非番中に──」


「そういう堅っ苦しいやり取りはなしにしよう。調子は?」


「絶好調です!」


「君のではない。事件のだ」


「はい、爆弾処理班が現在爆発物を捜索中。数十人で公園内を回っています。それからこの事件は我々刑事課と公安が協力して……そちらの少年は」


 話が止まる。

 探偵として呼ばれている 碧依(あおい)はともかく、一般高校生がもうひとり追加で現場に訪れたら気になってしょうがないのだろう。

 本人もそれを察したのか赤石クンの前に立つ。


宇留鷲(うるわし) 浅葱(あさぎ)。青葉警部の甥で、 碧依(あおい)の兄。捜査の邪魔にはならないようにするからここにいることを許して欲しい。よろしくね、お若い刑事さん」


「よろしくお願いします」


 高校生の握手に快く返す赤石クン。

 気持ちのいい好青年である。


「それで、その公安はこちらに来ているのかな?」


「あちらに、緑川巡査部長と自販機前でコーヒーを飲まれています」


「この公園に爆弾があるかもしれないのになにを悠長にコーヒータイムにしゃれこんでいるんだ。おっさん共は」


「そう言われてしまうとお恥ずかしいのですが、爆弾処理班が『邪魔だから離れていろ』と」


 だからって、俺たちも捜査に協力するぜと無理やりにでも参加するのが本来あるべき警察官の姿ではないだろうか。

 ……いや、普通そんなもんか。

 餅は餅屋、ドラマやアニメの刑事や探偵がおかしいのだ。


「お疲れ様です。私は刑事課警部、松本(まつもと) 青葉(あおば)。今回はよろしくお願いします」


 ガリガリの白髪老人。

 ぎょろっとした目で、死神を連想するような容姿。


「公安警察、尾暮(おぐれ) 灰人(はいど)だ。()()()とは聞いていたが、思ったより若いな。優秀らしいが、部下がデキるだけではないのか?」


 嫌味な声色、表情。

 たまにいるのだ、女が現場にいるとあからさまに機嫌を悪くする輩が。

 しかし私にそんな嫌味を言ってもなんのダメージもない。


 むしろ部下たちの表情が曇り、灰人(はいど)に怒りの眼差しを向けているのを感じて。

 部下から想われていることを喜ばしいとさえ思う。


 ただし緑川巡査部長、お前は私よりも年上なんだからちょっとくらい「口を慎め、クソジジィ」くらい言ってくれたっていいじゃないか。


「男性優生思考、とはこれまた古い。俺の家族を愚弄したんだ、頭を下げてもらわないとね」


 私と灰人(はいど)の間に割って入る 浅葱(あさぎ)


「なんだ君は、なぜ子供がここに来ている。 青葉(あおば)警部、女の仕事だからと旦那に子育てを頼めないからといって、こういうのは困る。家政婦でも雇え」


「私は独身だ」


 どう言われようと気にはしないが、既婚者と思われるのは困る。

 赤石クンだって聞いてるんだもの。


「なにを睨んでいる。君は不良少年というやつか」


 今にも灰人(はいど)に跳びかかりそうな浅葱(あさぎ)の首根っこを掴み、私の後ろに隠す。


「離婚間近ですね」


「なに?」


 次はコイツだ。

 静かだった探偵がここぞとばかりに前に出る。


「シワがついて消臭スプレーのにおいがするYシャツ、少し形の崩れたネクタイ。洗い物には出しておらず、ネクタイも自分で結ぶのは慣れていない、そういった家事や身支度は誰かにやってもらっているから」


「根拠が薄いな、忙しくて家に帰れてないだけだ」


「その時代遅れの貴方のガラケーに付いたキーホルダー、松本市のマスコットですよね。地元愛からして松本市内に住んでいる可能性が高い、ならば帰るのにそう時間はかからない。家族愛があれば無理しても帰る」


「だから言いがかりだと」


「右手のマジックペンのあと、丸い文字で電話番号が書いてあったのを消そうとして消えなかった。貴方の動きを見ていたら右利きなのは間違いないですから、捜査中に忘れないように書いたとも思えない。それに個人情報を油性で書く馬鹿でもないでしょう?」


「……さっきからなんなんだ」


「おじさんに電話番号を教える女性の目的なんて営業に決まっています。キャバクラ、……指輪を頻繁に外していそうだから風俗通いですかね。それが奥さんにバレて帰れないでいる。可哀想なおじさんです」


 真実だったのか冷や汗を垂れ流し、私たちを睨みつける。

 私と浅葱(あさぎ)は無罪だろ。

 この鼻持ちならない姪(♂)探偵がペラペラと分析しただけだ。


「大丈夫ですよ。()()()()皆浮気する生き物なんですから」


「き、気分が悪い! 緑川巡査部長、爆弾処理が終わったら情報共有頼む。私は先に帰らせてもらう」


 帰る家はないそうだが、自分の車に戻り力強くドアを閉め、さっさと去ってしまった。


「やってくれたな、碧依(あおい)


「いやぁ、すっきりしました!」


 言いたいこと言えたのかお肌すべすべ。

 しかも兄が「流石だね」と褒めるものだから「えへへ」と調子に乗る。

 こっちの気も知らんで、コイツ等は。


「よし、刑事課諸君。知っての通り、公安と共同捜査をするわけだが、私から言う事はひとつ。──あの公安(クソ)ジジイよりも早くこの事件を解決するぞ」


「はいっ!!」

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