第5話
謎解きは得意じゃない。
兄貴と違って脳筋だと理解しているし、複雑な物より単純な物の方が好きだ。
言葉で語り合うより拳で語った方が有意義さえ考えている。
そんな私になぞなぞの予告状なんて、無理ゲーにもほどがある。
そもそも警察官は頭が固いのだ、ルール遵守。
はみ出すことはないし、発想もない。
こういうのは探偵と呼ばれる異端児たちのお仕事だ。
「それで、縦読みか? それともタヌキが書いてあるか?」
我ながら古い暗号例だがそれくらいしか思いつかない。
しかし返事はなく、 碧依は自分のスマホ画面に映っている〝SNSに投稿された犯行予告文〟と私のスマホ画面に映っている〝警察署に送られてきた犯行予告文〟を見比べる。
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みゃくじんえんぶつ
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どうこうきょさん
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は?
……はぁ?
全然わからない、仏教の言葉か?
みゃくじ……いや、違うな。
謎解きと言えばバッドマンのリドラーが出すようなものを想像していた。
「わかるか?」
「この警察署に送られた方って素材は紙なんですよね?」
「ああ、メールで送られて来たんだが普通のコピー用紙よりも薄い、それこそ写し絵に使うような紙とも書いてあったな」
「なら解りました。でも場所まではボクじゃ……。ここからは青葉さんの領分ですね」
「探偵に解らないのに私に解るわけないだろう」
そう言うと、やれやれと微笑まれ 碧依はティッシュペーパーは一枚抜き、〝SNSに投稿された犯行予告文〟を書き写す。
それを自分のスマホと書いた面を重ねて私に見せる。
文字がぐしゃぐしゃでよく読めない。
「この重なる部分で単語が出来ます。〝山脈〟〝巨人〟〝公園〟〝動物〟。おそらくここから連想される場所が……といっても長野県には山が多いわけですし、難しいですか?」
「いや、ひとつ連想出来た場所がある。それに送られて来たのがうちの署だけなら松本市内だろう」
「よかった」
「たぶんだけど【松本アルプス公園】じゃないか。〝山脈〟と〝公園〟は言うまでもないし、あそこはふれあいの森で〝動物〟が見れる。〝巨人〟は……幼い頃の記憶で確かじゃないんだが。足跡があったんじゃないか」
「ダイダラボッチの足跡だね。日本各地に残ってるとされている。でもウィキで調べてもその公園に足跡があるとは書いてないね。地元民にしかわからない、流石だね」
「浅葱も小さい頃に義姉さんが連れて行ったって聞いてるが、憶えてないか?」
「……うーん、どうだろ」
「兄さんにしては珍しいですね。記憶力抜群なのに」
「あはは、俺を買いかぶりすぎだよ」
そんなこともあるだろう。
碧依が生まれたばかりだったと記憶しているし、1歳~3歳だったはずだ。
憶えている方がすごいくらいだ。
「そうなると、モバイルバッテリーの爆発だからと悠長にはしてられないな。東京のようなコンクリートジャングルじゃない、ひとつの火種で大火災になることだってある」
「犯人はまた、モバイルバッテリーを使ってわざわざ爆発事件を起こすのかな? 市販の物を組み合わせればそれなりの威力の爆弾を作ることが出来るのに」
「おーい、知っていてもやるんじゃないぞ。甥がかたや探偵、かたや犯罪者なんて笑えない。どっちも私が大嫌いなものだから絶対になるんじゃないぞ」
「探偵にはなってますけど」
「大丈夫。人を傷付けるようなことは絶対にしないよ」
しかし浅葱の疑問はもっともだ。
モバイルバッテリーのリチウムイオン電池の熱や劣化で起こる爆発は確かに3日に1回程度起こっているが狙った時間に爆発させることは難しいし、確実性にかける。
爆弾魔や放火魔は大抵、社会への怒りや劣等感を抱えているものだ。
モバイルバッテリーをぱんっと破裂させて満足するような精神性とは考えにくい。
「無事に爆破物を回収出来たら、その構造より製造元を調べた方が良さそうですね。きっとそれが犯人の動機に繋がっているでしょうから」
碧依の言葉に同感だ、と頷き。
私は車のアクセルを強く踏んだ。
「浅葱、警察署に犯行予告場所が解ったと電話してくれ」
「どうして俺が」
「やましいことが無ければ出来るはずだ。ほれ」




