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ワールドコントラクター ~辺境育ちの転生者、精霊使いの王となる~  作者: 日之影ソラ
第一章 世界の精霊『  』

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25.弔いの歌を

 閉じていたつぼみが開く。

 中に入っていたのは花弁ではなく、黒く硬い結晶だ。

 開くと同時に炸裂し、四方は飛び散る。


「くっ」

「エル!」


 リルが足場を増やし、距離をとるためのルートを確保してくれた。

 俺はバックステップで穢れから離れる。


「エル坊平気か?」

「うん。何発か受けたけど、この程度ならすぐ治癒する」


 元々身体は頑丈はほうだった。

 かすり傷程度なら数秒で治っていたのも、ミラの力が関係していたらしい。

 契約した今、即死するような攻撃でなければ、俺が死ぬことはない。

 ただ……


「っ……」


 穢れの攻撃は、俺だけでなくミラにもダメージがいってしまう。

 極力負傷はさけて戦いたかったが、敵のほうが一枚上手だったようだ。

 すでにつぼみは閉じ、再び触手がウネウネと動いている。


「近づきすぎるとあれがくるのか。さすがに捌ききれない」

「エル」

「わかってる」


 悠長に話している隙もない。

 触手が蠢き、俺とリルに襲い掛かる。

 リルは周囲の地形を操り、壁と柱を巧みに生成して触手を寄せ付けない。

 俺も霊力を纏わせた剣で触手を切り裂いていく。

 対処するだけなら問題にならない。

 穢れの流れからみても、あのつぼみが本体で間違いなさそうだが……


「不用意に近寄れないな」


 触手の攻撃に対応し続ける俺とリル。

 そこへ紫色の液体跳ねる。

 溜まっていたその液体は、鉱物を溶かすほどの酸だった。

 リルが生成した大地の壁を溶かし、彼女を襲う。


「リル!」


 咄嗟に俺が庇い、左手に紫の液体がかかる。

 じゅうという音を発しながら、皮膚が解けていく。


「っ、大丈夫?」

「それはこっちのセリフでしょ!」

「俺は大丈夫だよ。それよりリルは? かかってない?」

「守ってくれたから平気よ。ごめん……ありがとう」

「お嬢、エル坊! イチャつくのは後にしたほうがいいぜ!」


 イチャついていない。

 とドカドカにツッコミを入れたいが、そんな状況でもない。

 触手に加えて酸の液体まで操り攻撃してきた。

 さっき以上に接近が難しくなってしまう。


「一時的にでも動きを封じられれば……」


 そうか!

 方法ならある。


「リル、一瞬離れるよ」

「わかった」


 リルは大地の壁を五重に展開し、解かされるより前に新しい壁を生成。

 酸の攻撃を防いでいる。

 その隙に向ったのは、アリを殲滅している彼女だ。

 数は順調に減っているようだが、まだニ十匹以上いる。

 あちらもかなり大変そうだ。


「ロエナさん!」

「エルクト君?」

「すみません、少し力をお借りします」

「え?」


 俺は彼女に手を伸ばす。

 正確には彼女ではなく、彼女の傍にいる水の精霊に。

 

 底なしので穢れを祓うことに特化した霊力。

 霊力と穢れの流れを見る眼。

 そしてこれが、世界の精霊と契約した者に与えられる特権。


「――簡易契約!」


 俺は他人の精霊に触れることで、一時的にその力を行使できる。

 簡易契約を結ぶことで、俺の瞳は水色に変化した。

 ロエナの精霊は水。

 中級の水精霊には、氷を生成したり、冷気を放つ力がある。


 紫色の酸は穢れから生成されたものだろう。

 それでも液体であることに変わりはない。

 湖に浸かっている本体のつぼみも含めて、まとめて一気に――


「凍らせる」


 俺は剣を逆手に持ち、紫の湖に突き刺す。

 世界から供給される霊力を媒体にすれば、凍らせられる範囲は自由自在だ。

 一瞬で凍結した穢れは、すべての動きを止める。

 しかし芯まで凍結は出来ていない。

 すぐに本来を払わなければ、氷を破って動き出すだろう。


「リル!」

 

 リルが足場を空中に生成。

 滑らない大地の足場。

 確かな踏み込みで本体に迫り、剣を突き刺す。


「異形の穢れよ――あるべき姿へ還れ!」


 世界の霊力を流し込まれた穢れは、元の霊力へと回帰する。

 穢れの力で生成されていたものはすべて消滅し、氷が砕け散った。

 そして――


「これは……」


 空っぽになったはずの窪みには、今は亡き者たちの遺体が転がっていた。


 何て数だ。

 白骨化しているってことは相当な時間が……


「彼らが穢れを生む原因です」


 突然、ミラの声が頭に響く。

 そのまま世界は静止する。

 動けるのは俺だけで、他のみんなはピタリと止まっていた。


「ミラ」


 彼女が姿を見せたからだろう。

 いつの間にか隣に彼女は立っていた。

 とても悲しそうな顔をして。


「ずっと昔に亡くなって人たちの悔いが、こうして穢れとなって残ってしまったのです」

「……戦争とかがあったのかな」

「かもしれません。どちらにせよ、望んだ死ではなかったでしょう」


 そう言って、彼女は両手を胸の前で組む。


「どうか安らかに――」

 

 美しい声で、ミラが歌を歌う。

 どこの言葉かわからないけど、すごく優しくて落ち着く曲だ。

 彼女の歌によって、遺体から放たれていた濃い穢れが浄化されていく。

 何十、何百という人がここで最後を迎えた。

 きっと未来を渇望して、やるせない気持ちでいっぱいだったはずだ。

 そういう後悔とか悲しみが、穢れとなって人々を襲う。

 

「俺が戦っているのは……誰かの思いなんだな」

「はい」


 歌が終わり、静止していた世界も動き出す。


「エル」

「エル坊」

「終わったよ」


 世界を救うということが、どういう意味なのか。

 俺は改めて考えさせられた。

第一章はこれにて完結です。

もしよろしければ、ここらで一旦評価とかしてくれると嬉しいです。

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【面白い】、【続きが読みたい】という方は、ぜひぜひ評価☆☆☆☆☆⇒★★★★★をしてくれるとやる気が出ます。

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