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ワールドコントラクター ~辺境育ちの転生者、精霊使いの王となる~  作者: 日之影ソラ
第一章 世界の精霊『  』

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10.穢れの正体

 意識が沈み、真っ白な世界へ戻る。

 そこはもう草原になっていて、一本木の下には彼女がいる。


「ミラ?」

「はい」


 さっきまで俺は戦っていたはず……


「もしかして、死んだのか」

「安心して。ちゃんと生きていますから」


 彼女がニコリと笑って答えた。

 それを聞いてほっとした俺は、その場に座り込む。


「良かったぁ……」


 これで死んだら全て台無しだ。

 そうならなくて済んだのも、彼女のお陰だろう。


「さっきはありがとう、ミラ。お陰でリルを助けられたよ」

「いいえ、お礼を言うのはわたしのほうです、ありがとう。わたしの手を取ってくれて、本当にありがとう」


 そう言って彼女は頭を下げた。

 ふと、契約を結ぶときに彼女が言っていたことを思い出す。

 一番印象に残っているのは最後の質問。

 世界を救うという言葉が浮かぶ。

 あれは俺の覚悟を問うためだったのだろう。

 だけど、あの状況でたとえ話が出てくるとも思えない。

 ならば彼女の言葉は事実で、俺は世界を救う宿命を背負うことになったのだろうか。

 ただの予想だけど、そう思っている。

 そして――


「エルクト、あなたに伝えたいことがあります」

「うん」


 彼女は口を開いた。

 それきっと、俺も知りたいことだと思う。

 俺はミラの前まで近づき、互いに向かい合って腰をおろす。


「エルクト」

「うん」

「あなたには、私と一緒に世界を救ってほしい」


 心の中でやっぱりと思う。

 ミラは続けて言う。


「このままでは世界が……穢れに覆われてしまいます」

「穢れに?」

「はい。エルクトには、穢れはどう見えますか?」

「どうって、魔物みたいなもの……かな」


 見た目は動物だけど、凶暴でおぞましいオーラを纏っている。

 前の世界では架空の存在だった魔物とイメージは重なる。


「では、その穢れはどうやって生まれるか知っていますか?」

「それは知らない。本にも書いてなかったから」

「そうでしょうね。一時は治まり、長い年月が経ってしまいましたから……」


 長い年月?

 過去に何かがあったのか。

 その疑問より前に、ミラは穢れについて語り出す。


「穢れとは世界にとっての灰汁。それを生み出しているのは、人間や動物、この世界に生きる者たちから発せられた負の感情」

「負の……感情?」

「恐怖、憤怒、悲嘆、後悔、感情を持つ者が感じるマイナスの感情……それらは霊力を変質させ、外へと流れ出ます」

「その変質した霊力が穢れ?」

「その通りです」


 穢れが……あんな化け物を生み出したのが俺たち人間の感情だって?

 笑えない話だな。


「本来、異形へと変化する前の小さな穢れであれば問題はありません。わたしを含む精霊には、穢れを祓う力があります」

「酷くなる前の弱い穢れなら、精霊だけで祓えるってこと?」

「はい」


 逆に強くなってしまうと、精霊だけでは祓えなくなる。

 契約して力を完全に開放する必要があると、ミラは教えてくれた。


「日常で感じる程度の小さなものであれば、世界に影響するほどではありません。ですが、人間の数が増えたことで、穢れもより多く、濃くなってきてしまいました。そして長い年月をかけて封印が緩み、押さえられなくなっています」

「封印? そういえばさっき一度は治まったって……昔にも同じことがあったんだね?」

「はい。八千年ほど前に」


 八千年?

 予想以上の大昔だったらしい。

 思わず目を丸くしてしまった。


「当時は様々な種族が存在しました。風習や考え方の違いなどもあり、日々争いが絶えなかったそうです。明日も明後日も戦い……何千、何万という命が失われ、強力な負の感情も溢れ出ました」

「それが全て穢れに……」

「はい。そうして世界は穢れに覆われました。それを救ったのは、わたしの先代、当時の世界の精霊とその契約者でした。四元素の上級精霊と共に世界を巡り、荒ぶる穢れを鎮め封印したのです」

「封印か……それに先代? ミラじゃなくて?」

「私は封印がなされた二千年後に生まれたので、当時のことは知識としてしか知らないのです」


 ミラによると、先代は寿命でなくなったのだという。

 精霊と言っても不死ではないから。


「封印……それが八千年のうちに緩んで、穢れが解き放たれようとしてるんだね?」

「はい。今はわたしの力で抑え込んでいますが、もって数年です」


 ここまで聞けばほとんど理解できる。

 つまり封印が解ける前に、俺がもう一度穢れを鎮めて封印すれば良いということか。

 それが世界を救うという意味。


「もしかしてミラは、そのために俺をこの世界へ呼んだの?」


 ミラは答えなかった。

 頷きもせず、ただ黙って俺を見つめている。

 その沈黙は肯定と捉えてもいいのだろうか。

 名前のときと一緒で、今は答えてくれそうにない雰囲気だ。


「わかったよミラ。俺が穢れを封印する」

「え?」

「ん、あれ? もしかして違ったの?」

「いえ違いません。違いませんが……あまりにもあっさり受け入れられたので、少し驚いただけです」

「あぁ、そういうことか」


 真剣な表情を見せるミラは、俺に問いかける。


「良いのですね?」

「良いも何もないよ。俺はもう……選んだんだ」


 この力を手に入れた瞬間に。

 今さら覚悟は揺るがない。

 後悔もない。

 リルを守れたのは、ミラが力を貸してくれたお陰だ。

 だったら今度は、その恩を返さないとな。


「これからよろしく、ミラ」

「はい! こちらこそ、よろしくお願いいします。エルクト」

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