93話 振り返れば犬がいる
そろそろ100話、そろそろ初投稿から2か月。
連続投稿は……今のところ続ける予定です。
設楽さんを寝かしつけた後、荷物を確認することにした。
ペッガさんもたくさん詰め込んだものだ。
チーズは三ホールあったが、一ホールは我が家に残りはゼツペさんに渡すことにした。
それにバター1瓶と、大量の砂糖大根。重いわけだ。
あとは道中捕まえた(もちろんゼツペさんが)キジと魔法ナイフ。
「こんなところか」
砂糖大根の使い方はよくわからないな、ヨドさんに聞こう。キジと魔法ナイフも渡したいし。
チーズとバターは涼しいところで保管だな。
荷物もばらしたし、酒も入っていたので寝ることにした。
ピコは横になり気持ちよさそうに寝ている。立って寝ることも多いけど横になって寝ることもある。
止まり木とか作らないといけないな~。
お布団で寝ようかと思ったけど、アッシュが見つめてくるので一緒に寝ることにした。
ゴザみたいな布きれを下に引いて寝ることにする。アッシュの左わき腹に寄りかかって眠ることにした。
――――
「おわ!」
叫び声がしたので目が覚めた。
結構寝た気がするけど、外は真っ暗だ。
「ん~、先生?」
クーラーボックスを持った先生が、立っていた。
「ああ、おはよう。犬が家にいるから驚いてしまったよ。よく入ったもんだ、ははは」
「あ~すいません」
確かにこんなデカイ獣が家の中にいたら驚くわな。
先生はいつもの朝帰りだろう。酒を飲んだ日はいつも朝帰り……?
「あれ? 帰ってくるの早くないですか?」
「ああ、もうすぐ日が昇るな」
「それもそうなんですけど、ほらいつもは酔いつぶれてたし……」
朝まで宴会場にいて、日が昇って帰ってきて再度寝る。それが金子ってもんでしょう!
先生は照れ隠しで苦笑いした。
「ははは、今日は授業があるからな。昨日はシマーさんの家で寝させてもらった」
「へ、へえ」
「いや~久々のお酒だったから危なかったけどね」
「久々?」
「禁酒しててね。ちょうど赤井君たちが王都に旅立った頃からだな」
禁酒? 先生が? ッ馬鹿な! 二十日以上前の話だよ?
「先生が授業を二日酔いでボイコットなんて笑えないからさ。
昨日はゼツペさんだっけ? 宴会だったから、付き合い程度に飲んだよ」
お、俺の知っているダメ教師がまともな教師になっていることに絶句した。
「まあ、今日の授業は昼からだから少し寝ることにするよ。ははは」
先生はリビングに行ってしまった。
俺は心の中で謝った。
王都で設楽ちゃんと先生の話を何回かした。オチはいつも「どうせ酔っぱらってる」だった。
そんな先生が、なぜか授業を始め、お酒を断ったなんて。
後で経緯を聞きたいところだ。
――――
三十分だらだらしてから、今日の予定を考える。
やることは色々あるんだけど、しっかりこなしていかないとな!
まずはゼツペさんとクラーク村長にお話に行かないと。
ドルゼ村との交易が回復できそうなのでいい話だ。これは今日の最重要議題だな。
ゼツペさんの紹介を二人にしたいが、設楽ちゃんは起きないだろうし、先生は授業か。
う~ん、まずは一人で出来ることをやってしまおう。
キジもあるし、魔法ナイフも渡したいし、久々にお話もしたいしヨドさんのところに行こう。
砂糖大根の処理の仕方も聞いてみたいしな。
よし今日の予定は決まったな。
それじゃあ、朝ご飯でも作ろうかな。残っている食材を確認した。
――――
「なんもないやんけ」
何もないってのは語弊がある。肉とパンがある。王都で購入したチーズも残っている。
でもこれだけじゃ設楽ちゃんに健康的な食事が作れないじゃない!
困ったわ、もう。
「あ! そうだ」
ひとっ走りして温泉ベリーを持ってこよう。
早く走れるようになったから、アッシュの散歩と朝の『着火』体操を兼ねて行こう。
「アッシュ行くぞ! 散歩だ!」
「ワン!」
まだ寝ていたピコも持って外に出ることにした。
――――
夜明け前が一番暗いとは言うが、その闇を打ち払うように日の光が差そうとしていた。
屈伸運動をして準備完了。いざ温泉へ!
魔力を籠めて走る。早く走れるってのは本当に気持ちいい!
途中ピコも目覚めたので空に解き放つ。
「ワン! ワン!」
アッシュは俺の倍以上は早い。蛇行したり、先に行って戻ったりして体を動かしまくる。
徒歩だと一時間以上かかった道のりを二十分ぐらいで目的地手前に到着した。
温泉のある森は目の前だ。
「ははは、はええや!」
「ピィ~」
久しぶりの温泉に着いた。そういえば王都でもお風呂があるってきいたな。すっかり忘れてた。
せっかくだしちょっと入ることにした。
誰もいないので、服をパパッと脱いで風呂へダイブ!
「うは~気持ちい~」
潜って頭から足まで綺麗に洗う。お下品だけど気にしない。
ピコもすぐに入ってきた。一度入っているからね。
「ピピィ~」
いや~大きくなったなあ。あの頃はひよこの人形みたいだったのに。
お父さん嬉しいよ。
「あれ?」
アッシュは風呂の前で立ち往生している。
「ワゥー」
犬はお風呂が嫌いだったっけ。入れてあげたいけど無理はする必要は無いか。
「ははは、アッシュはお風呂が怖いのかな?」
「バウ! バウ!」
ちょっと怒ったかな? こういう時はコミュニケーションがとれすぎちゃうのも考え物だ。
「ワン!」
上空に飛行物体が。
「え!」
アッシュが風呂に飛び込んだ。な、なんてマナーの悪いやっちゃ。
「ぶはあ! いきなり飛び込むやつがあるか!」
「ワンワン!」
尻尾をバタバタ振っている。お湯が波打っちゃうじゃないか。
「わかったわかった、風呂に入れて偉いぞ! ついでだから洗ってあげよう!」
「バ、バウゥ」
全身洗ってあげることにした。流石に顔は嫌みたいで避けられちゃった。
やっぱり裸の付き合いってのはいいもんだ。
――――
入浴が終わったので、イエローベリーをもぎに森を周回する。
一つ食べたがやはりとんでもなく美味い。他に採るものもないので多目に。
また照り焼きでも作ろうかな。
ピコもイエローベリーが好きだ。肉食だけどイエローベリーは良く食べる。
アッシュは……食うのかな? あれ、そもそもアッシュどこ行ったんだ?
採取が終わったがアッシュはいない。
時間もあるし朝の『着火』体操をする。
実は右手でも火が出せるようになってきた。まあ、三回に一回かな。
魔法陣と違い、かなり魔力を練りこまないと難しい。
無駄が多いんだろうと思う。しかし非効率な右手の『着火』だけどちょっと気に入っている。
なんか、少しかっこいいと思ったからだ。
魔力が渦を巻き、中心から炎(種火)が出る。
魔法というか必殺技っぽい。必殺技には名前が必要だな!
ネーミングを考えることにした。
洋名ならストームファイアフィストかな。いやフィアフルフレイムフィスト!
いいね! FFF!
でも和名のほうが好きだな。渦、炎、掌。渦炎掌じゃなんか物足りないな。
流渦炎掌。ふむ……まあいいか。なんか言いやすいし。
「よ~し! ピコ見てろよー」
いつも以上に大量の魔力を右腕に集中。よくわからない呪文を詠唱する。
「ハァー! 『流渦炎掌』!」
右手を前に突き出しながら『着火』を発動する。渦を巻いた右手からは猛炎が飛び出した!
俺の中では飛び出している!
「ははは、凄まじい威力だ! なあ、ピコ」
振り返るとピコは明後日のほうを向いていた。俺は目線を明後日のほうへ向けた。
「ん? ピコ? ピ……コォーー!?」
明後日にはアッシュが立っていた。
――そして口にはロックドレークを咥えていた。
風呂上がりの綺麗な灰色の毛並に、血がべったりと染みついていた。
せっかく洗い立てだったのに……。
「お、おう、狩ったのか。すげえな」
「ワン!」
ナイフも持ってきてなかったので血抜きもできない。
しょうがないのでさっさと帰ることにした。
――――
村に着いた。アッシュは用を足してるみたいだったので先に家の前に。
「おや! アカイちゃんじゃないか!」
「ん? あらあ! アイシャさんじゃないですかー!」
お隣に住むアイシャさんに見つかった。お仕事中かな?
「朝から精が出ますなあ」
「ハハハ! 何言ってんだい! いつ帰ってきたのさ」
「いや~昨日なんですよ」
「へえ! またパン作ったから持ってくよ!」
「おお、そりゃありが、た、い?」
明るい元気印のアイシャさんの顔が硬直した。
振り返ると奴がいる。アッシュだ。
頭蓋をかみ砕かれたドレークを加え、口周り、足回りには血がべったりついている。
良く考えると、かなり怖いな。ははは。ははは……。
「あ……アイシャさん」
「……」
無言のアイシャさん。俺の後方でドサっと何かが落ちた。
「ワン!」
「で、出たーー!!」
「あ、ち、ちがう……んですぅー」
アッシュはドレークを地面に落としていた。首をかしげているようだ。
「ご、ごめんな。大丈夫だから。ちょっと説明してくるから!」
アッシュを家に入れて、先生に見ているようにお願いした。
そこからアイシャさんに説明するんだけど、一時間ぐらいかかってしまった。
最悪の出会いを演出してしまった自分を責めたよ。たはは。
読んでいただきありがとうございます!




