88話 赤井 帰る〜そして爺は風になった〜
五章これで完結です。またユニークアクセスが一万を越えました。
ありがとうございます!
ドルゼ村を出発した俺たちは、クラーク村へと進んでいた。ゆっくりと、そうゆっく〜〜りと。
「おっそいのう」
「しょ、しょうがないじゃないですか」
俺はペッガさんから貰ったお土産に四苦八苦していた。重すぎて身体が地面にめりこみそうだ。
唯一の救いはドルゼ村からの道が緩やかな下り坂であることだ。
ひたすら歩き続けるが、まったく進んでいない気がする。
必死な形相で歩く俺を気遣ってか、ゼツペさんは何も言わず見守ってくれた。
————
昼休みの時に、ゼツペさんが少し荷物をよこせと言ってきたので、申し訳なかったがお願いする事にした。
かなり軽くなったので、スピードアップした!
したんだけど、もともと一番俺が鈍いのでみんなは俺を待っている状況だ。
途中で、リンクスとアッシュは遊びに行ってしまった。有り余ってるエネルギーが凄いぜ。
ゼツペさんはピコを鍛えている。
飛んでいる鳥にめがけてピコを放つ。
何度かトライしているうちに上手くいったみたいだ。
「っほ、やりおるの」
ゼツペさんは消えた。そして戻ってくると、手の中には絶命した鶴っぽい鳥が。
「キジじゃの。うまいぞこりゃ」
「き、キジですか?」
「うむ、ちょっと処理してくるわい。アカイは真っ直ぐ進んどれ」
「あ……」
行ってしまった。まあ放置プレーには慣れたよ。
一人楽しく進んでやるぜ。
途中でピコが帰ってきたけど、血塗れですわ。
こんなピコ、設楽さんには見せられないなあ。大人の階段登ってますよ〜。
ピコと久しぶりに一人と一匹で進んだ。
————
下り坂が終わり平野を直進する。誰もいない世界を一人で歩いている気分だ。
日も陰り出したので、そろそろ野営だろうか。
まあ、ゼツペさんはひょっこり現れるだろう。
あとはあいつらだな、これは来るな。
疾走してくる音が聞こえる。草を踏みしめている音だろう。
「バフ!!」
左側からリンクスが突進してきて、吠えた。
「ふふふ、二度も驚かない……って、うえええ!!?」
リンクスの後ろにアッシュがいた。
アッシュがくわえていたのは、派手な猿だった。
体毛は灰色なんだけど顔まわりの毛がマントヒヒのような明るい色彩で、小柄な人ぐらいのサイズだった。
完全に人と間違えてしまった。
「こ、これ食えるのかよ?」
「ワンワン!」
猿系はなんか食べるのに抵抗があるな。
静岡でイルカ肉を見た時も同じような気分だったな〜。
「ほっと、みんな集まっておるな」
処理したキジを持ってゼツペさんが合流した。
「ほほう、カラードエイプじゃの。なかなか美味いぞ」
「へえ……」
「ワン!」「バフ!」
自慢げな犬二匹。
「はっはっは、あそこで野営をやるか」
指示した先の小高い丘で野営をすることにした。
————
焼いたキジは香ばしくて無茶苦茶美味かった。
カラーエイプは、少し躊躇したけど腕だけ頂いた。
「か〜、なんでこう、美味いかなー」
「ワンワン!」
「よしよしー、よくやったなーアッシュ〜」
念入りに撫でてあげる。褒めると喜ぶし、撫でるとさらに喜ぶ。
こういうところは普通の犬と変わらない。
しかしカラーエイプを貪り食ってるリンクスとアッシュの絵はなかなか凄惨だ。
見る見るうちに食いつくされていく。
こんな身近で野生を体感出来るのは異世界様様だ。
食事も一段落したので、ゼツペさんがお茶を入れてくれた。
俺はその様子を見ていた。
「へ~、そうやって入れるんですね、お茶」
小さい麻の袋に茶葉を入れて、煮出すような形式だ。
「ふむ、これが一番手軽じゃ。旅では特にな。ほれ」
「あ、いただきます」
お茶を啜ると、いつもとは違う味がした。
「あれ? これ」
「ふむ、村で拝借してきた。前のほうが好きか?」
「いえいえ、これはなかなかスパイシーでいいですな。あ」
「なんじゃ」
いいことを思いついてしまった。
「ゼツペさん、あっちの世界のお茶を作ってもいいですか?」
「ほう、面白そうじゃの」
「へへへ~」
ドルゼ村で貰ったお土産を漁って、準備をする。
まずは牛乳を火にかけた。牛乳は結構貴重で、ヤギの乳のほうがポピュラーらしい。
牛乳に感謝しつつ、お茶を煮出す。
砂糖が欲しかったので、砂糖大根も入れて煮詰めることにした。
スパイシーなお茶の香りと甘い牛乳の香りが混ざり合った。
「よし!」
「お茶に砂糖大根と牛乳とは面妖な……」
ゼツペさんは不思議そうに見ていた。こんなお茶はないみたいだ。
「できたー! 赤井特製チャイです! ささ、どうぞ」
「ふむ」
ゼツペさんは、恐る恐る飲んでいる。
「ふむ、不思議な味じゃ。甘いお茶ってのもいいもんじゃの」
「ははは~、ドルゼ村でも流行りますかね?」
「どうじゃろな? ペッガあたりは難癖つけそうじゃの。『こんなのはお茶じゃない!』とか言っての」
ペッガさんは保守的っぽいしね。いや、むしろ目の前のおじいちゃんが無茶苦茶だからな。子供が大人しいんじゃなくて、パパが変なだけな気もする。
「おい、もう一杯くれ」
「は~い」
気に入ってもらえたみたいでなにより。
そういえばコーヒー買ったなあ。ちゃんと飲めているんだろうか?
――――
翌日も地道に歩くことになった。
昨日をなぞるように、犬達は山へ遊びに行き、ピコは獲物を狙った。
ピコは狩りが格段に上手くなった。
ゼツペさんの教育の賜物である。獲物を見つける度にピコを放った。
「ふむ」
さっと消えて、戻ってくると、枝の先に鳥が括り付けられている。
何度かそれを繰り返し、鳥は六羽になった。
「す、すごいですね」
「ピコは優秀じゃよ。ストライクバードはそこまで詳しく知らんが、こいつは特別と言ってもええ」
「へー! よかったなピコ」
「ピイ~」
ピコは逞しくなった。ここから更に羽の色が変わっていくらしい。父ちゃん嬉しいよ。
「でも、そんなに鳥どうするんですか?」
「食えばええじゃろ、まあ半分は土産だな。そういや村長はどんなやつじゃ?」
「変り者ですね。寡黙だし、すぐ難癖つけてくるし」
クラーク村長のことを思い出すと、初めの印象が強いからな~。
でも実際はいい人なんだよな。なんだかんだ人望も厚いし。
「でも尊敬されてますね、やっぱり村を作った人だからなんですかね~」
「ふむ、三十年ぐらい前は荒れとったからの。
なぜ村を作ったのかは知らんが、何か大きな意志があったんじゃろう。偉人には違いあるまい」
「たしかに村を作るなんて普通しませんよね~」
クラーク村長がどんな人なのか少し興味が湧いてきたよ。
「ま、はやく村に着きたいの~」
「うう、頑張ります」
時折見せる、意地悪じいちゃんジョークを受け止めつつ精一杯走った。
昼は鳥を食べた。
夜はアッシュたちが鹿を捕まえてきたので鹿を食べた。
よく考えたら、無茶苦茶豪勢な食事なんだけど慣れは怖い。これが普通に感じてきた。
もう、不味いものは食べれない身体になってしまったわ。
――――
しかし村は遠いな。半分も来てない気がする。
「このペースじゃと五日はかかりそうじゃのう」
朝、支度をしているとゼツペさんは渋い顔をしていた。
そもそも馬車で二日かかる道のりを五日だから悪くないペースなんだけど、このパーティーの移動速度は尋常じゃないからなあ。
「バフ!」
「ん〜? はっはっは、遊びに行くのも飽きたか。しゃーないの」
ゼツペさんがリンクスに自分の荷物を括りつけはじめた。
「すまんの」
「バフバフ!」
リンクスとゼツペさんは熟練夫婦のように息ぴったりだ。俺もいつかこうなりたいもんだ。
しっかり荷物を括りつけた。
「これでよしと。アカイ荷物貸せ」
「は、はい」
俺の荷物をゼツペさんが背負った。
「よし、アッシュ。今日はアカイ乗せて走っとくれ」
「ワンワンー!」
「任しとけ」って言ってる気がする。力有り余ってそうだしな。
ゼツペさんが準備運動をした。
「ふむ、行くか」
ゼツペさん少し跳ねた。
(あ、大ジャンプした時の動きだ)
そう思った次の瞬間、老人が風になった。
「えええええー!」
遥か彼方に見えるゼツペさん。
「よ、横方向にも跳べたんだ、お、追いかけなきゃ」
リンクスはいつも通り走り出す。
アッシュは俺を乗せて嬉しそうに走りはじめた。
「バフゥー!」
「ワオーーン!!」
久しぶりの犬の全力疾走に戸惑いながらも、前を見る余裕はある。相変わらず馬鹿げた速さだ。
一時間ぐらい走ると、見覚えがある景色を見つけた。
王都へ向かって旅立った二日目に越えた川だ。
川を簡単に飛び越えた。
このペースならお昼すぎには村に着けちゃうな。
ワクワクしながら犬の背中で未だ見えぬ村を思った。
この時は、犬に乗った二人組が来て、村がパニックになることなんて考えてなかったよ。
五章 完
六章は、物語が大きく動き出す……かもしれません。




