その後……
「篠枝さん、ありがとうございました!」
あれから数日後。俺は事務所へ行き、休憩しつつ赤﨑さんや井口さんと話し合っていた。
「まさかあんな武器まで使えるなんてね」
井口さんはグノーシスを操作し、俺の戦いを見ている。俺の動画を撮っていたらしい。
「あの武器もその、貴方が真似した知り合いが使っていたの?」
「えぇ。あれは無力化に良く使ってましたが、他にも様々な武具を使える人です」
「達人なのね」
「ま、そうですね。性格は少し幼稚ですけど」
俺は少し懐かしさを感じながらそう呟いた。常に敬語で話し、そして常に笑顔。戦いの中でもそれは絶やさず、しかし常に相手を煽る皮肉屋。更に、実はかなりの負けず嫌いという極めて面倒な人なのだが、実力は折り紙付。
長い間会っていないのだが、元気にしてるだろうか……いや元気じゃない時はないなあの人は。
「戦ってみたいモノだ」
横に座る弦山がお茶を啜り呟いた。ちゃんとお茶はぬるめにしてあるようだ。
「分からん殺しされるのがオチだよ」
「分からん殺し?」
「あの人との戦いはまず知識が重要なんだ。頭に武器の知識を入れ、その武器に纏わる国の武術を覚える。そうして漸く、背中が視界に入るって感じ」
「それは遠いな」
弦山が和かに笑う。武器の達人であるあの人は、日夜新たな武器の鍛錬を行っている。今どこにいるかは全く分からないのだが、いずれまた会えるだろう。
「それはそうと、あれから彼どうなった?」
「えっと……それがかなりの薬になったというか、何というか」
「?」
頬を掻きながら苦笑いする赤﨑さんに首を傾げる。それから赤﨑さんは炎真君の様子を語り始めた。
………………
「……!」
廊下でパタリと、炎真と出会ってしまったエリス。エリスは反射的に身構え、眉を顰めてしまうのだが、炎真の反応は何時もと違っていた。
エリスを見た瞬間、炎真は気まずそうに視線を外し、エリスの横を通って去っていったのだ。炎真から特に謝罪があった訳ではなく、彼に対する不快感はあるのだが、自分が勝った訳ではないので、このまま関わらなくなるなら良いか、とエリスは考えた。
(でもあんな表情するなんてなぁ、見た事ないかも)
ただ、特に炎真君の事で悩みたくなかったので
、エリスは気にせずに移動を開始した。
………………
「──って事がありまして」
「お灸を据えた効果があったかな?」
率直な感想だった。高校生相手には酷い仕打ちだったかもしれないが、あれくらいしないと修正は効かないと思ったのだ。それも冒険者なのなら、相手を見てしっかり実力を推測する力も必要になる。
あのままなら高難易度ダンジョンに油断したまま突っ込んで、死体すら帰って来ない事になっただろう。
「明日は配信ね。弦山の事を紹介しないと……中々色々飽きさせてくれないわね、篠枝君」
「あはは……すみません」
溜め息がてらお茶を啜る井口さんに、今度菓子折りかなんか持ってこようかなと考える俺だった。
………………
「…………」
学校のとある一室。様々な専用器具が取り揃えられた部屋で、学校で選ばれた人物のみが使える部屋だった。
炎真はそこで剣を素振りしている。大剣ではなく、長剣。大剣よりも短く、そして軽い。そのため、素振り自体も不慣れであり、炎真の手にはマメが出来ていた。
「切り替えが早いな、炎真」
「……天か」
部屋に入ってきた人物に、炎真は一瞥もせずに剣を素振りする。
長い金髪を後頭部で結い、蒼穹の瞳はまるで吸い込まれそうになる程に美しい。その顔立ちも芸術品のようで、高い身長もあって歩くだけで女性が溜め息を漏らす程の男。
聖ノ宮天──学校での人気は堂々のNo.1。実力、能力諸々が学校でもトップクラスで、人気No.2との票差は二倍以上もある。
四天王の中では一番下な炎真なのだが、天とは友達、と呼べる仲ではあった。勿論炎真は彼をライバル視もしているのだが、天が彼をライバル視した事はない。
「……俺は、弱い」
「そうだね、俺よりも遥かに弱いし」
「……お前は、あの時の奴をどう思う?勝てるか?」
「無理だね」
天は特に表情を変えずにすんなりと答えた。
「……迷いもせずに言うんだな」
「そりゃあね。あんな力見せられたんじゃ勝てるとは思わないよ。力を使えばあの時の強さには追い付けるかもしれないけど、あの人が全力だとは到底思えない」
「調べたのか?」
「一応。聖ノ宮の力はあんまり使えないから限定的な物だけど。赤﨑さんの師匠を名乗る人物についての情報は塵一つ見当たらなかったね」
「全く分からなかったのか」
「いいや?情報がここまで隠されてる上、あの武器を使う冒険者や世界的な達人にも該当がない。となれば、逆に情報を秘匿出来る程の権力者の懐に居るんじゃないかなと思うんだ」
「……例えば?」
「真っ先に候補に挙げるとすれば……まぁ、例えばマフィアやヤクザとか?」
「……フッ」
炎真が笑うと、天も釣られて笑った。
「ま、あり得ないね。反社にツテのあるただの女子高生ってなんだよ。ヤクザのトップの娘、とかなら可能性はあるけどさぁ。ただ彼女、親御さんの身元も割れてるし、全く以って反社とは無関係だよ」
「…………」
炎真は黙ったまま剣を仕舞うと、タオルで汗を拭い、部屋を出ようとする。
「もう帰るのかい?」
「あぁ」
「そっか、お疲れ様」
炎真が部屋を出ていくと、天は窓から空を見上げた。
「相応の権力があるとすれば──堀宮さん、貴方ぐらいだと思いますが……あの人物はマスクの可能性が高い、か。まぁ、俺には関係ないか。炎真……今は自分を鍛えるより、身の振り方を考えた方が良いんじゃないかな」
クスクスと笑う天は、そのままジッと、空を見上げていた。




