謎の男
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「本当に来るんですかねぇ」
そこはとある広い屋内。工事用の資材にはビニールシートが被され、埃も積もっているような場所。
そんな資材の上には一人座っている男がいた。
男の前には、黒服でサングラスをしている男が二人いる。その内の一人が疑問を呈したのだ。
座る男はタバコを吹かしながら、クツクツと笑った。
「来るさ、必ずな。火のない所に煙は立たぬッて言うだろ?態々折角焚いてやッたんだ、煙を感じ取ッてくれるさ」
「しかし……宜しいのでしょうか。貴重な高品質のθαをコレに使うなど……」
黒服の男が背後を見る。そこには、横たわる女性がいた。その女性は、鵠達が助けた女性だった。意識はなく、力無く横たわっている。
「いいんだよ、折角出来たんだから使わねェと勿体ねェだろ?失敗したッて構いやしねェ。後で来るゴミ処理班が掃除してくれるさ。まァ、実験なんざ俺の目的のサブなんだけどな?」
「と、すると……メインは?」
「マスクの戦力だよ」
「戦力……」
「あんな野郎があれだけの活躍をしてるんだ、隠してる力の一つや二つあるだろうよ。相手が公開している手札があればある程、アドバンテージが出来るワケだ」
「そんなに力を見せるでしょうか」
「見せてくれたら御の字だ。もし見られずに終わッちまッたら、俺は帰ッて寂しく始末書でも書いてやるさ。上司のお小言をASMRにしてな」
男が横たわっている女性に視線を向ける。
「さ、もう眉には火が点いてんだ、火中の栗、ちゃんと拾ってくれよ?いい感じに焼いておいてやるからさ」
不敵な笑みを浮かべる男。その空間には、男の笑い声と、タバコの煙だけが立ち込めていた。
………………
コクウは空を翔けていた。
渾身の羽ばたきは空気を自在に掴み、速度はより増していく。
コクウ自体に写真の景色に見覚えなどない。だが、闇雲に飛んでいるわけでもない。
海に近い方角へと飛びながら、カラス達に情報を伝達していたのだ。
カラスによる横の伝達能力は高い。
一羽だけが知っている人間の顔を、気付けは近辺のカラス全てがそれを知っているのだ。これはカラスの知能実験により証明済みである。
更にコクウ、そしてコクウのコミュニティは他のカラスに比べて賢く、その伝達速度は凄まじい。横のカラスから更に横のカラスへと情報を拡散させ、答えを待っているのだ。
そんなコクウの横に随伴するように飛んできた一羽のカラス。足には赤いリボンをつけていた。
そう、赤﨑に付けていたカラスである。コクウとそのカラスはたった数秒鳴き、コクウは素早くUターン。リボンを付けたカラスはそのまま海側へと飛んでいった。
………………
(…………)
物陰に身を潜め、様子を伺う。だが周囲に人影はなく、物音もしない。遠くから聞こえる騒音だけが聞こえて来ていた。
(見張りも、居ないの……?)
人っこ一人見当たらない様子に、彼女──赤﨑エリスは逆に冷や汗をかいてしまう。
今、彼女はとある倉庫に来ている。港にある巨大な倉庫なのだが、働いている人も見当たらない。警備のような人員も居らず、すんなりと敷地へと入れてしまった。
ここは一度使った事のある場所で、大企業からのオファーでCM撮影のために来た事があるのだった。
倉庫の扉のドアノブに手を掛け、ゆっくりと捻る。扉は簡単に開いてしまった。中は暗く、外の明かりも余り入ってこない。
音を立てないよう、慎重に奥へと進む。
「あっ……」
その時、倉庫の中央に横たわる女性が目に入った。あの時助けた女性だと理解するのはそう遅くはなかった。
安堵したエリスは、女性に向けて駆け寄ろうとする。
が──
「キャッ!?」
女性とエリスを遮るように、床に炎が走った。
「——まァ、そう急くなよ?お嬢さん。焼いて食ッたりはしねェよ」
「!?」
背後から聞こえた声。振り返るとそこには、タバコを咥えた男が一人、ゆっくりとエリスの方へと歩いていた。
「誰っ!?」
「名前か?所属か?それとも配役か?……なんてな、冗談だよ」
男は携帯灰皿を取り出し、タバコを押し付けた。
「俺は緋山アルト。一応、デッドアイッて組織で幹部をやらせて貰ってる。以後、宜しく」
男はニヒルに笑った。
「……それにしては、あの金指輪もないみたいだけど」
「指輪?……あァ、あの指輪ね。あれはただの金メッキでな。金なんて使ったらコストが掛かって仕方ねェ。……今度レジンでやッてみるか?
金で着色してやりャもっと安上がりになるかもなァ」
カッカッカと男は笑った。
「……あの指輪はな、幹部は……いや、デッドアイは付けねェのよ。そもそも、あんな指輪ひけらかして『私はデッドアイです』ッて態々主張するなんざ、バカのやる事だろ」
「じゃあ、アイツらはなんで……?」
「使い捨てだ使い捨て。何時でも首切れる奴ら用の識別アイテム。最初から使い捨てられるモンだと分かッてりャあ、使い方のバリエーションも増えるッてもんだ」
「人の命を何だと思って……!」
エリスが睨むが、アルトは笑みを絶やさない。余裕なのが見て取れるのが、エリスを更に苛立たせる。
「クズの命と他の命が対等だとは、俺は思わねェなァ。……あ、そうするとアイツらの命と俺の命は対等ッて事か。ハッハッハ!」
「このっ……!」
今にも槍を突き出しそうな程にエリスは怒り心頭だった。その様子を見てか、アルトは肩を竦めた。
「今にも爆発しそうな位だな、怖い怖い。……まァ、そろそろ時間だしな。お前さんみたいな若者の相手なんて、俺みたいなおじさんじャあ役者不足だとは思うが……舞台の端役なりに頑張らせて貰うから、熱い一時、楽しもうぜ?お嬢さん」
「ぶっ飛ばす!」
エリスは槍に炎を纏わせ、吶喊した。




