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一度死んでしまった『僕』が、吸血『姫』として生まれ変わった話  作者: 瞑々もんすたー
一度死んでしまった僕が、吸血姫として生まれ変わるまで
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地球

 震える手を必死に抑えて、残されたファイルに手を付ける。ただ年代順にだけ並べられたそれらをなんとか読み取り、頭の中で並べていく。











 

 かつて、魔力が存在しない、地球という惑星に人々は暮らしていた。


 吸血鬼も貴族も存在しない、自分達の天敵が存在しない世界。人々は科学文明を武器に、限られた資源を巡って、同族同士で終わりのない戦争を繰り返していた。


 戦争が戦争を呼び、限られた資源を食いつぶしながら、争うための技術だけが発展していく。そんなとき突然変異的に、魔力を持った人間が世界に生まれた。


 のちに、始祖と呼ばれる存在。今までの科学技術では一切歯が立たない魔力という力にあらゆる人々は蹂躙され、延々と続いた戦争も終焉を迎えた。


 それから、血縁を通じて魔力という存在は人類に広がっていった。魔力を持つ者達は魔族と言われ、特権階級として世界を支配することになる。


 その中でも始祖の直系の血縁の者達に発現する、始祖と同等の力を持つ魔素を保有する血。それは『英雄の血』と名付けられ、後世へと受け継がれていくことになる。


 魔族が支配する世界は、まさに理想郷だった。魔力の力は動物や植物にもやがて発現していき、世界中に広がった魔力という新たなエネルギーは、人々に無限とも思える資源を供給した。


 しかしそれでも、新たな問題は生まれた。地球は、繁栄し過ぎた人類にとってあまりにも狭すぎるものになってしまった。


 資源ではなく土地を求めて、また戦争直前にまで世界の緊張感は高まったが、それでも、過去の延々と続いた戦争の記憶が、寸前で戦火を押しとどめていた。そんなとき、『英雄の血』を持つ人々が、とある発明をした。


 始祖の力を通じて、大人数の魔力を束ね上げる技術。そうして収集した膨大な魔力を用いて、空間に風穴を開けることに成功したのだ。『門』と呼ばれるそれで繋げた先は、地球とよく似た環境の、異世界の惑星。


 魔族も含めた大量の人々が、入植者としてその世界に送り込まれた。資源は有り余っていた人類はかつての地球と同じように、魔力によって世界を塗り替えていった。


 だが、その行いを咎めた者達が居た。それは、異世界に元から存在した原住民。紅血族と名乗る知的生命体であり、魔力を持たない彼らは、同じ環境で生まれたからか人と良く似た風貌を持ち、血を介して記憶を読み取る能力を使って人類にコミュニケーションを取った。


 故郷をどんどん追いやられ、人が生み出した魔力を持つ動物───魔物に生存圏を脅かされた彼らは、人類にこの侵略行為を止めるよう交渉を求めたのだ。


 それに対する人類の選択は、殲滅戦争だった。人類は延々と続いた戦争によって争いへの忌避感を持ってはいたが、それと同時に、魔力を持つ存在に対して、魔力を持たない存在がどれだけ脆弱なのかもよく知っていた。


 実際に、戦争はもはや戦争とすら呼べない様相で進んでいった。科学文明も殆ど持たず、魔力も持たない紅血族は、草を刈るように駆逐されていった。


 そうして広がった人類の都市には次々と地球からの入植者が訪れ、あっという間に異世界は、人類の為の大地へと変貌した。紅血族の姿を見ることは無くなり、僅かな生き残りも全て魔物に駆逐されたと思われていたある時、想定外が起こる。



 紅血族に、魔力の始祖が生まれた。


 

 その紅血族は、今まで死んでいった同胞全ての記憶を、血を介して一つに纏められた、最後にして、全ての紅血族とも呼ぶべき存在だった。


 魔素は、血に宿る。つまり───今まで人類が殺めた全ての紅血族が、全員始祖になったかのような存在が誕生した。しかもその紅血族の始祖は、人類の血すらも自らの血肉に変え始める。


 まず、ひとつの都市がその始祖単騎に滅ぼされた。そしてその都市に住む数千万の人類が全て、始祖の血肉へと変えられた。


 そして始祖はその血肉で作った肉塊に、紅血族の力で記憶を植え付け、自立して血を収集する───吸血鬼と呼ばれる存在を生み出し、異世界中に解き放った。


 魔力を持つ吸血鬼の大群に対し、人類は殆どが魔力を僅かにしか持たない者達。反撃の虐殺が始まり、殺された者達もまた吸血鬼となる、人類にとっての地獄が生まれる。


 人類は科学文明という第二の武器を使い、今度こそは本当の戦争を始めた。だが、雪だるま式に増えていく吸血鬼達に対抗することは出来ず、人類の生存圏は僅か四都市にまで殲滅されることになる。


 その時、吸血鬼達の動きに変化があった。明確に統率が取れなくなり、前線で見る数も激減し始めたのだ。これを転機として、人類は再び選択を迫られた───異世界を掌握するための反撃か、この隙に再び『門』を開き地球に撤退するか。


 人類の選択は、地球への撤退だった。反撃出来ない程に人口を削られたことと、皮肉なことに、それによって人口問題にある程度の余裕が出来たことがその決断の要因だった。


 だが、それでも人類は異世界を完全に諦めることは出来なかった。また人類が地球から溢れそうになった時、再び侵攻するための足掛かりとして、残された四つの都市と、そこを管理維持する為の人々を残すことになる。


 取り残されることになる人々からの反対を潰すため、それまでの歴史は可能な限り消去されることになり、出来る限り戦争の事情が伝わっていない者達を置き去りにすることになった。


 唯一例外だったのが、『英雄の血』を持つ青崎家。歴史を継承したまま残された青崎家は、万が一の為異世界側に残された、『門』の管理者だった。

















 ばさりと、手にしたファイルが床に落ちる。最初は真実への畏怖で震えていた手は、今は───抑えようのない暗澹とした怒りで震えていた。



「ふざけるな……ふざけるな!お前たちの、お前たちの罪だ!こんな地獄に私達を取り残して、のうのうと逃げた!?自分達で生んだ化け物を放って、吸血鬼が存在しない世界で、今も安全に暮らしているというのか!なら私たちは一体……私の姉は……」



 目の前が暗くなり、足元から崩れ落ちる。床に付いた手のひらから、硬く冷たい床の感触が伝わってくる。



「姉様はどうして、あんな呪いに苦しまなければならなかったんだ……こんな理由で、あの、優しくて臆病な姉様が、戦わなければならなかったのか……!」

 


 頬を初めての感触が濡らし、ぽたりと床に水滴を作った。そこに写った姉が、姉の偽物が泣いている。地獄の底に取り残されて、一人で泣いている。


 何かが決壊するような感覚と同時に、口がひとりでに動いた。



「───大丈夫です、姉様。泣かないでください。きっと私が、連れて行ってあげます。姉様が安心して暮らせる、理想郷に……!」



 自分でも、自分がおかしいことをしているのは分かっていた。だけれど、そうでもしなければ、これ以上正気を保てそうになかったのだ。


 そうやって水滴の向こうの姉に話しかけた時、姉と入れ替わってから初めて───鏡に映った顔が、嬉しそうに笑った。















 『門』を開くための方法は、『門』を管理するための情報が書かれた資料から簡単に読み取ることが出来た。


 けれど、こちら側に残された人類の魔力量だけでは、到底空間に穴を開けるだけの魔力量を搔き集めることは出来ないし、そもそも大人数の魔力を束ね上げる為の装置が、この世界の技術レベルだと十分に用意出来ない。しかし、それに対する回答は、最初に読んだ人類史の中にあった。


 吸血鬼の始祖。それは血を収集することで、他者の魔力も自身に収集することが出来ていたらしい。事細かに過去の戦争記録を読み漁り、今の人類全ての魔力と、吸血鬼の始祖が持っているだろう魔力の概算を合計した時、ほんのわずかだがを『門』をこじ開けられるだけの数値が浮かび上がった。


 それを成すためには、今の人類ほぼ全てを吸血鬼に食わせる必要がある。だけれど、そんなことはもうどうだってよかった。


 私にとって姉は、世界よりも大切だったんだから。

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[一言] ついに世界の真実が……
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