表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/114

状況整理

タイトル通り、状況説明回。ストーリー構成考えるの下手だからこういうの書くたびに矛盾がないかひやひやしてます

 本部に着いた。集合場所は所長室ということで、行き慣れているらしい刀香に追従する。トラック内で休んだおかげか、身体はそこまで重たくはない。


 それでも集中力に欠いているのか、何度もつまずいたりしてしまった。最初は冗談で「運んであげましょうか?」と言っていた刀香の言葉が、真剣みを帯びてくるくらいには。


 這う這うの体で所長室に辿り着くと、僕たちがドアの前に立とうという直前で、内側から扉が開かせる。最初は青崎所長が出てきたのかと思ったが、中から出てきたのは意外な人物だった。


 

「……白銀」



 一瞬で眉間にしわを寄せた刀香が、忌々しそうな声でその人物の名前を呼ぶ。呼ばれた白銀は、理由は知らないけれど少し驚いたように目を見開いて、すぐに感情を読ませない微笑へと変わった。



「おや、早かったようだね。外周捜査は問題なく終わったのかい?」


「吸血鬼二体に強襲されて、隊員に犠牲が出ました……貴方がもっと本気で調査していたら、気付けていたのではないですか?」


「───吸血鬼が、二体?それは、どういう」


「隊員には興味なしですか。もう、結構です。それより所長に何の用だったのですか」


「……君に教えてあげる義理はないだろう?知りたいなら、所長から直接聞くといい」



 それだけ言って、白銀は会話を切りあげ、背中を見せて去っていく。その背中が廊下の曲がり角へ消えるまで、刀香は睨みつけていたが、舌打ちを一つすると、吐き出すように言った。



「意趣返しのつもりですか、あいつ……」


「刀香は、白銀さんと仲が悪いんだね」


「白銀は、実力があるくせに、なんでも適当に済ませてくるのです。正直、今回のことも……彼が真面目に仕事をしていればと、どうしても思ってしまうのです」


「適当に済ますって、なんでそんなことが、咎められずに……」


「彼自身が大貴族の子息なうえ、方法は知りませんが、他の大貴族もバックについているのです。確か……」



 そこで、刀香の言葉が不自然に途切れる。目を軽く見開いて、その後に僕を見て……何か悪いことをしただろうかと身体を竦めていると、刀香がポツリとこぼすように言った。

 


「貴方の話に出てきた時、何処かで聞いたことがあると思っていたのですが……彼は、紫原から支援を受けています」




 それを聞いた時、僕は何かが引っかかったような気がした。ほんの少しだけだけど、違和感のようなモノ。しかしそれは手元まで手繰り寄せる前に、すっと消えてしまった。




「貴方、初対面のように接していましたが、生前に面識は無かったのですか?」


「僕は────」


「おい。人の部屋の前で、いつまで立ち話しているつもりだ?」



 再び、所長室の扉が内側から開く。そこから顔をのぞかせたのは、今度こそ青崎所長本人だった。











 呆れ顔の青崎がいつものデスク前に座り、追従して僕と刀香も、最初に集合した時と同じように席に着く。一呼吸挟んで、まず青崎が口を開いた。



「取り敢えず、お疲れ様だと言っておこう。結果は芳しくなかったようだが……収穫もあったそうだな?」


「はい。不明瞭なモノばかりですが……」



 そうして刀香が、時系列順に情報を羅列していく。調査を引き継ぐ直前に魔力反応が感知され、白銀さんに代わり隊を率いたこと。その後、吸血鬼二体に強襲されたこと。そのうち片方は隊員になりすまし、すり替わっていたこと。そして吸血鬼の発言が、明らかに僕の正体を知っているものだったということ。


 ところどころ僕が補足しながら、全てを話し終えた。青崎は聞いているうちに段々と表情が鋭くなり、全てを聞き終えた後、大きくため息を付いた。


 

「待ち伏せ、というのは少し納得がいかないな。いかんせん、行動が早すぎる。襲撃が突発的なものだと仮定すると……事態は、相当まずいことになるな」


「まずいこと、ですか?」


「ああ……」



 そこまで言って青崎は、眉間に皺をよせ、懐からタバコを一本取り出した。咥えて、指先から小さな炎を生みだし、それに火を灯す。紫煙をゆっくり吐き出すと、視線を僕に向けてきた。



「吸血鬼の能力についてだが、スカーレット、お前は幾らか扱えていただろう?擬態能力について、分かることは無いのか?」



 擬態能力。言われてみれば、あれは不思議な光景だった。僕が転生した時に宿った記憶の中に、吸血鬼が扱える能力の一覧があったのだけれど、あんなふうに、自分の見た目を自由自在に変えれるものは無かった。


 じゃあ、あの吸血鬼特有の能力だったのだろうか。いや、『それも違う』と、記憶が答える。なんとかあやふやな記憶の感覚を言語化して、僕は答えた。



「……あれは多分、吸血鬼としての能力じゃない。なにか、結果に対する、副産物のように見えた」


「副産物、か……ちなみに、その結果というのがなんなのかは、分かるのか?」


「……」



 自分の神経を全集中させて、その答えを模索する。まるで忘れかけの記憶を引き出すかのような、細い一本の糸口だった。けれど、ゆっくり手繰り寄せていくうちに、僕は一つの結論に辿り着く。



「吸血、だと思う」


「……何?」


「あの吸血鬼は多分、02さんを一片残さず吸血したんだと思う……青崎さんは、吸血がどんなものなのか、どれくらい知っているの?」


「眷属の作成。あとは食事だと言われているが、それにしては、吸血鬼の総量に対して人類側の損失が少なすぎると言われてることくらいだ。総じて、分からないことだらけだと言っても差し支えないだろうな」


「違う。吸血鬼に食事も、睡眠も、必要がない」


「……おいおいおいおい」



 青崎が目をギラギラとさせて、額から汗を流しながらこちらに身を乗り出した。そのあまりの剣幕に驚いて、思わず背もたれに身体を押し付ける。


 隣からも椅子が揺れる音がしたけれど、今の青崎にはそんなことは眼中にないようで、僕だけを中心に見据えていた。そのまま強い語気で、僕を問いただす。



「それは本当なのか?新出情報ばかりじゃないか!お前から吸血鬼の情報を引き出せないと思っていた私が馬鹿だった……いや、今はそうじゃないな。スカーレット、知っているんだろう?吸血鬼が血を吸う意味を!」


「し、知ってるってほど大層なモノじゃないけど……血を吸うときは、まるで、魂とか、記憶とかを吸ってるみたいで」


「……私が名乗ってもないのに、初対面で名前が分かったのは、そういうことですか」



 刀香が納得したように頷く。僕が思い出している感覚も、まさにその時のモノだった。知らない記憶が、自分の中に溢れていく。そして異様な焦燥感が満たされ、消えていく、あの感覚。


 青崎も納得できることがあったようで、タバコを灰皿に放り込むと、口に手を当てて頷いた。そして視線を伏せ考え込むと、ぽつりと、どこかうわのそらに言った。



「だから02に化けていたことを、周囲の誰もが気付けなかった。本人の記憶を完璧に有しているんだからな。擬態と言うより、すり替わりだな。外見の変化は能力や魔術ではなく、生物としての仕組みというわけか」


「……待ってください、所長。それだと、都市結界なんてまるで意味がない、ということに」


「ああ。隊員にすり替わった吸血鬼が、今回の一体だけとは限らん。何か、対策を講じなければな。とはいえ、一般的な身体検査で、見破れるのかどうか……」



 そこまで言い切ると、青崎はドサッと背もたれに身体を落とし、深い溜息をする。そしてもう一度タバコを拾い上げると、呟くように言った。



「見えていないだけで……案外、人類は滅びかけているのかもな」

この世界における吸血鬼がどんなものなのか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 思ったより吸血鬼への研究が進んで居なかったのが意外でした 案外異分子殲滅隊って後手後手だったり…? [一言] ア○バ○○リップ…いやなんでもないです
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ