表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/114

めっちゃ考えて書いた

 僕の追跡能力は所詮、五感が鋭いことにモノを言わせたごり押しであり、技術だとか経験則などではない。


 だから結局、幾ら視力が良かろうとも望遠鏡替わり以上の価値はないし、幾ら聴力が良かろうとも過去の声が聞こえるわけではない。味覚、触覚を追跡に活かすすべなど、そもそも知る由もない。


 ので、辛うじて頼れる手段として残ったのは嗅覚な訳なのだけれど、吸血鬼と人との匂いの違いとか存在するのだろうか。


 取り敢えず、すんすん、と鼻を鳴らしてみる。そこで気付いたのは、ガスマスクに妨害され、嗅覚は殆ど死んでいるという事実だった。


 手詰まりを感じた僕は、早々に諦めを付けると、刀香にしか聞こえない声で囁いた。


 

「な、なにも分かりません……」


「……せめて、もう少し頑張れなかったのですか?」


「だって、ガスマスクが……」


「ああ、なるほど。ではあてになるのは、音くらいでしょうか。いざという時は探知術式でごり押しできますが……ガス欠状態で、吸血鬼を相手にするのは自殺行為ですしね」



 あれは燃費が絶望的ですからとぼやく刀香。それくらいなら、隊員三名の視界の通らないところでガスマスクを外そうかなと考えていると、ふと、違和感を感じた。



「なんか、変な音がする」



 その言葉を区切りに、全員が即座に戦闘態勢へ移った。僕の聴音を邪魔しないためだろう、無言で陣形を組むと、ぴたりと動きを止める。


 そしてそのまま、僕の次の言葉を待っていた。だけれども、僕は異音の正体をなかなか掴めず、全力で耳に神経を集中させる。


 音は多数あったけれど、足音のような音は、何故かもう鳴りやんでしまっていた。そして残ったのは、何かを引きずるような、ズル、ズル、という音。


 なにより奇妙なのが、それらの音が反響していることと……距離感が、全く掴めないこと。

 

 更に感覚を鋭くしようとしゃがみこんだ時、疑念の答えに思い当たる。



「……地下?」



 僕がそう呟いた瞬間、刀香を中心にして大地が崩壊した。



「────刀香!!!!!」



 突如現れた巨大な縦穴に、刀香が落下していく。衝動的に、僕も後を追って飛び降りようとした時、遠ざかっていく刀香の声が聞こえた。



「そちらを任せます!!!」



 その声に、縦穴の縁ギリギリで足を止める。直後、共に落下していったコンクリートの残骸たちが砕け散る轟音が響いてきた。


 頭の中で、高速化した思考がぐるぐる駆け巡る。そもそも何故刀香は、僕に上で待っているように伝えたのか。そもそも刀香は、この高さを落下して無事なのか。


 残骸の破砕音からして、相応の高さから落ちたのは明確だ。そして先ほどの地下から響いていた異音。間違いなく、この下には侵入者がいる。


 もし刀香が落下で即死しなかったとしても、負傷を追うかもしれない。その状態で吸血鬼と戦闘することになったなら、刀香は危険な状態だ。


 だけれどそれでも、上で待っていろと言われた。いや、違う。上は任せると言われたんだ。


 何を任されたのか。他の隊員を守れということ?何から?敵は下に居るのに、何から守るのか。いや、多分、それも違う。


 まずおかしいところ。この地面に穴を開けるのは、落とし穴ではないと思う。そんなものが掘られた痕跡は、一切なかったから。


 多分これの目的は、分断なのだ。戦闘力の高いものと、それほどでもないものを引き離そうとしている。そして援護無しの刀香を倒そうと……。


 いや、そうだとしたら何故刀香の位置をピンポイントで崩落させられたのか。音は、違うと思う。僕だって正確な位置を掴めないくらい、音は届いていなかった。


 

「……見られてる?」



 何で?魔術で?違う。敵は二人いるんだ。


 だから僕は上の敵を任された。それはいったい、何処から、どうやって気付かれずに僕らを見ていたのか。結界を通っていた魔力反応は、一つだった。


 魔力探知結界を気付かれずに通り抜ける方法なんて─────いや、ある。


 あくまであれは魔力を探知する結界であって、異分子を探知する結界じゃないんだ。都市結界と一緒で。だから、敵は



「あ、がぁ……」



 気付いた僕は振り返るけれど、それは少し遅かったようで。


 視界に飛び込んできた光景には、飛び散る鮮血の赤と、事態が理解できず硬直している03さんと、02さんに心臓を抉られた01さんが映っていた。













 脳が理解を拒んだとしても、目の前の光景が変わるわけじゃない。


 それでも、想定外の事象に身体は固まってしまう。そこを付け狙い、01さんの心臓を穿った凶刃は03さんに向かっていき。


 ぎりぎり、僕の身体はそこで動き出す。身体をばねのように弾き飛ばして、手を思いっきり伸ばすけれど、思考は冷静に、走るだけでは間に合わないと判断した。


 だから、吸血鬼の異能を使おうとして─────『バレたら駄目だ』と、一瞬の迷いが生まれた。



「────ぁ」



 そしてその一瞬は、偽02さんが03さんの身体に凶刃を突き立てるに、十分な時間だった。







 ぐちゃり、と生々しい音がして、03さんの背中から真っ赤な刀身が突き出る。的確に、無慈悲に、心臓を貫いて。


 ゴミを捨てるように無造作に、刃が引き抜かれた。03さんが苦悶の声を上げ、赤い水溜まりに倒れこみ、言葉にならないなにかを呟くと、動かなくなる。


 僕はそれを、何もできないまま眺めていた。振り返った時にはもう倒れていた01さんにも、目の前で刺された03さんにも、もしかしたらまだ助かるかもしれないとかで駆け寄ったりせず、ただ眺めていた。


 分からない。身体が動かなかった。ただ、02さんを自分が見捨てたのだということが飲み込めなくて、現実逃避して、最後の最後まで見捨て切った。



 そんな僕を他所に、目の前の偽02さんの顔が、身体が、変異していく。まるで粘土細工をこねくり回すかのように、その吸血鬼は、妙齢の女性になった。


 金髪で、長身で、でも02さんの面影を一切見い出せない、異様な変身だった。ただただ不気味で、狂気をそのまま纏ったような雰囲気で、僕を見下ろす。


 目が合う。病的なまでに濁った瞳だった。そして感情を感じさせないその表情のまま、こちらに向かってくる。



「ひっ」



 僕のことも殺そうとしてくるのかと思って、恐怖から身体に力が入る。でも、その女性の吸血鬼は手に持っていた武器を、あっけなく手放した。


 からんからん。金属の落下音が、何処か別の世界の出来事のように聞こえてくる。あっけにとられているうちに、吸血鬼は僕へ触れられるくらいの距離まで歩み寄って。






 そして、騎士が姫にそうするように、至極当然のように跪いた。






「ああ、我らが姫、吸血鬼の真祖よ!ようやくお会いすることが出来ましたね!」



 こいつは、何を言っているんだ?


 分からない。何も理解できない。なんでこいつは、まるで僕と出会ったことがあるみたいに話しかけてくるのか。何故、僕の正体を当たり前のように知っているのか。



「全く、みんながみんな融通の利かない馬鹿どもばかりでして。出し抜くのに苦労しましたが、貴方様に出会うためであれば些細なことです!以前とは違うお姿をなされているようですが、なにか異常事態でもあったのでしょうか?けれど私めは、決してその血の香を間違えたりはしません!」



 こいつは、誰に話しかけているんだ?



「……もしかして、私のことを覚えていらっしゃらないのですか?まあ、それも無理はありません。きっと悪食な貴女様のことですから、悪い物でも混ざってしまったのでしょう。けれど、すぐに思い出します。さあ、私と共に来てくださいますか?」



 吸血鬼は、歪な熱狂さを携えた声、で一気にまくし立てた。そして僕に、異常に尖った爪が目立つ手を伸ばす。


 恐怖と、吸血鬼へ感じていたおぞましさが、最大限に達した。


 身体中の血液が湧きたつような感覚がして、拒絶反応はそのまま、手を振り払うような軽い感覚で顕現する。


 死んだ二人の血溜まりの正面が波立つと、紅の槍が形成され、水面から何かが飛び出してくるかのように、眼前の吸血鬼に襲い掛かった。


 

















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 今回も面白い! [一言] もしかして主人公は、転生した訳じゃなくて記憶を取り込んだだけだったりするのかな?続きが気になる
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ