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追跡

なかなか話がすすすす進まない

 合流する予定の部隊と言うのは、一目で分かった。なにせ、こちらの視界に入った瞬間、完璧な統率を以て敬礼していたから。


 見る限りだと、三名。身に着けている制服も統一されており、デザインも基地で見た竜崎さん達のモノとは違って、いかにも軍服といった装いだ。ある種、威圧感さえ感じる。ちなみに、なんだかんだ僕のような胡散臭い見た目の人は一人も見かけない。


 あと違うところと言えば、武装だろうか。全員共通でサバイバルナイフのような武器を携帯しているのだけれど、それぞれ追加で剣だとか、盾だとかを装備している。


 初めて見るイメージ通りの異分子殲滅隊に、思わず目をキラキラさせていると、刀香は当然と言わんばかりの態度で、その三人の前に歩み出た。



「これから私が貴方達の指揮を執ります。兵科は?」


「アタッカーです。今作戦での呼称は01です」


「キャスターです。今作戦での呼称は02です」


「ガーダーです。今作戦での呼称は03です」



 刀香の言葉に間髪入れず、左の人物から順番にそう宣言した。そして気付いたのは、名乗った番号と、身に着けている腕章が同じ数字だということ。


 01さんが剣、02さんがケース、03さんが大盾を装備しているのを見るに、役職ごとに追加で一つ武装しているのだろうなと見て取れた。


 他の隊員は基本的に、ここまでして連携を徹底しているのだろうか。何も知らずにひょこひょこ出てきた身としては、すごぶる居心地が悪く感じてしまう。


 そんな僕と比べて刀香は堂々としたもので、敬礼を崩さない三人の前で鷹揚に頷くと、威圧感に押され徐々に刀香の背中へ消えつつあった僕を引っ張り出した。


 

「知っているでしょうが、私は刀香です。兵科は一応、アタッカーとなっています。そして……」



 話を区切って、刀香の視線が僕に降りてくる。それに追従するようにして全員の視線が、胡散臭いガスマスクチビへと集合した。無論、隊員三名の視線は困惑だとか、否定的な色が強い。



「彼女はスカーレット。今日所属となる新兵ですが、私の隊の副隊長となります」



 しかしその言葉を聞いた瞬間、全員から否定的な雰囲気は消え、上官だとかに向ける忠誠のものとなった。その空気感の変わりように、逃げ出したい気分になる。


 冷汗も情けない表情も全て覆い隠してくれるフードとマスクに内心感謝していると、01と名乗った青年が、突然、「質問よろしいでしょうか」と声を上げた。



「許可します」


「その、スカーレット副隊長の兵科は何なのでしょう?」



 決まっていません!そもそも兵科なんてものがあるのを今日初めて知りました!


 と、やけくそに喚くことが許される空気感でもなく、僕は助けての念を全力で込めた視線を刀香に向ける。すると刀香は顎に手を当て、「そうですね……」と前置きをした後に、



「まだ認定されてはいませんが……腕力と耐久力はありますから、アタッカー兼ガーダーということで、肉壁にでもしたらいいのではないでしょうか」


「「「「…………」」」」



 僕はあまりにも酷い扱いに心を痛めた。すごくすごく痛めた。そして他三名は、隠そうともせず完全にドン引きして、僕に憐みの表情を向けている。


 さっきまでとはギャップを感じる、その人間味のある様子に、とてつもない親近感が湧いた。もしかしたら彼らも、普段からこれくらい雑に扱われているのかもしれない。


 そう考えると、曲がりなりにも戦闘能力が高い僕が彼らを守らなければと思えてくるので、共感というものはかくも素晴らしいものである。















 その中で生活していた者たちからしたら、都市というものは自分の必要な道路しか使わない以上、そこまで入り組んでいるとは感じないのかもしれない。


 しかし主要な道路から逸れた小道や、裏路地までもを徹底して探索しようとすると、まるで途轍もない迷宮に迷い込んでしまったかのように感じる。


 そんな僕とは正反対に、先を歩く四人の足取りは一切の迷いを感じさせなかった。地理感が鋭いのか、地図でもあるのか、どちらにせよ分けて欲しいものである。


 変わり映えのしない風景が延々と続いていたが、そんな道中にいきなり、明らかに風景から浮いている金属の箱が現れた。ありとあらゆるものが劣化している中、これだけは真新しく見える。


 なんだろうと思っていると、先を行っていた4人が、その箱を囲むようにして立ち止まる。自然、後ろをてこてこ追っていた僕も足を止めた。



「これが、反応のあった探知結界ですか?」


「ええ、型番も同じです。間違いないかと」



 普段はリーダーポジションなのか、01さんがそう答える。すると、キャスターの02さんがその探知結界?の上部分を開き、暫く覗き込んだ後に言った。



「誤作動の可能性も無いと思います。この結界の範囲をマップにアップロードしました」



 地図あるんだ、やっぱり。僕に配られてないだけで。僕に配られてないだけで。



「確認します……随分と範囲が広いようですが、これは……」


「はい。結界周辺を含め、既に探索済みの地区です。現状、どこに潜んでいるのかは不明ですね」



 全員が携帯していたポーチから携帯端末を取り出して、それと睨めっこしていた。だけどそんな便利なものを渡されていなかった僕としては、すごぶる手持無沙汰となってしまっている。


 傍から聞いても、状況は複雑だということが聞き取れる。話し合いはどうやらまだまだ長引きそうな様子で、じわじわと暇の苦痛が迫ってきた。


 つい我慢しきれず、はしたないとは思いつつも刀香の端末の画面を、精一杯爪先立ちすると、後ろから覗き込む。


 角度が少し悪いがかろうじて覗き込めた画面には、平面の簡素な地図に、目の前にある機械を示しているのだろう点と、その点を中心にして結界の範囲を示しているのだろう円が書き込まれている図が表示されていた。


 そして円の範囲際、左上部分にビックリマークが示されていて、ここから侵入したのだということが見て取れる。ほへ~と他人事みたいにそれを眺めていると、突然刀香がこちらに話を向けてきた。



「で、スカーレットはどうすればいいと思いますか?」


「……へ」



 気付くと、一糸乱れぬ動きで全員の視線が僕の方に集まっていた。だが答えようにも、地図に夢中で全く話を聞いていなかった。


 慌てて話の前後を思い出す。確か、吸血鬼の潜伏場所を探すっていう話だったから、その方法についてなのだろうけど、そんなぱっと良いアイデアは浮かんできてくれない。



「えっと、侵入されたところから、痕跡を追う……とか?」



 結局出てきたのはそんな当たり障りのない意見だったけれど、それを聞いて刀香は、ふむ、と顎に触れ何か考えだした。



「難しい作業ではありますが……貴方の探知能力があれば、それが一番確実な方法かもしれませんね」



 任せっきりで進行していたのに、いきなり中心人物に祭り上げられようとしている。あてにされるほど自信のない僕が、「あの」と言葉を差し込む暇もなく



「であれば、痕跡が薄れないうちに現地へ向かいましょう」


「「「は!」」」



 と瞬時に全員、移動体制に入ってしまった。







 異分子の痕跡ってどうやって追うんだろうかと、脳内の小説の知識を総動員するも虚しく、検討すらつかないままに現場に到着してしまった。


 景色としては、至って平凡な都市の一角で、相変わらず崩壊しかけのビル群に、コンクリート片の山がそこらに点在しているだけだ。


 でも、逆に言えば……。



「ここまで荒れていないということは、侵入者は吸血鬼の可能性が高いですね」


「ほかの異分子だと、やっぱり荒れる?」


「ええ。いくらか見たことはありますが、地面に一目でわかるほど痕跡が残ります。なにせ吸血鬼以外の異分子は、巨大ですから」

 


 それを聞き、僕も身体に力が入る。他のみんなも緊張感をあらわにしていた。そしてついに刀香の話の矛先が変わった。



「つまり、追跡の頼りはスカーレット、貴方になりますね」

ちなみに兵科ですが、刀香は一人で全部やる。

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