試験
遅れました!(valheim楽しいね......)次回は閑話と言っていましたが、構成を考え直した結果無くなりましたので、ここから第三部となります。あと、適当に当て嵌めてた地区名などを考え直したので、そこら辺をこそっと修正しました
会社で頼まれたことをせっせとこなしていると、あっという間に午前の時間は過ぎ去った。
ここのみんなにも居られる時間が限られてしまうことを伝えたのだけれど、僕の主な業務である魔力提供はさして時間のかかることでもないらしく、問題ないよと返された。
実際、本当に時間はかからなかった。午前だけで充分どころか、ものの数分で終わってしまったのだから拍子抜けだ。だから僕のしていたこととしては結局、初日と全く変わらないお茶出しだった。それが一番助かると言われるのが、不思議なのだけれど。
そんなこんなで昼休憩。女所帯の輪に放り込まれて昼食を食べ終わった頃に、ポケットの中から振動が伝わってきた。それとなく周囲の死角で確認すると、タバコの通信機に連絡が来ている。
内容はシンプルで、魔導具を起動させると、時刻と場所の座標の二つがホログラムとして浮かんできた。ここからはそう遠くない場所で、スマホで検索すると、座標までのナビも簡単に割り出せた。
魔導具をポケットにしまいなおすと、ふう、と呼吸を整えて、鈴の袖をちょんちょんと引っ張った。
「連絡来たので、行ってきます」
「……そっか。気を付けてね」
「うん」
顔を他のみんなの方にも向けて退勤する旨を伝えると、少ない荷物を持って、送られてきた座標へと向かった。
「えっと、ここだよね……」
間違いがないように何度か確認したけれど、周囲に建築物は眼前の一つしかなく、ここで合っているのは覆せない事実のようだった。
それは一見、大学のようにも見える敷地と建造物だけれど、人の出入りは少ない。それもそうだろう。なにせ、周囲は全て硬く高い鋼の塀で囲われているのだから。
検問所、といって差し支えない威圧感を放つ正面玄関は、警備員が常に複数人立っていて、全体的に要塞のような印象を抱かせる風貌だった。
そして僕は、こういう建物がどう呼ばれているかを知っていた。だからこそ胃がキリキリしている現状を責められる者など居ないと、確信できる。
不意に、警備員の一人と目が合った。喉から悲鳴をあげそうになって、ぎりぎりで抑える。焦ってあたりを見渡したら、こんなところで突っ立っているのは僕くらいで、ようやく自分が不審人物だということに気づく。
動揺しているうちに、警備の一人が、こちらに向かって来ていた。焦りが強くなって、いっそ逃げようかとまで考え始めた時、正面玄関から一人の女性が出てきて、その警備員の肩を叩いた。
瞬間、明らかに警備たちの空気がキリっとしたものに変わった。少し話し合ったような間が空いたのち、警備員が全員定位置に戻って、女性だけがこちらに来る。
近づいてくる間にそれが誰か分かって、気持ちが不機嫌一色に落ちていくのを感じる。そんな僕を前に、相変わらずの飄々とした態度で、女性は言った。
「やあ、思ったより早かったじゃないか。先に出て待っていなくて、悪かったな」
「……青崎さん。もうちょっと、場所選べなかったんですか」
「ちょっと見ないうちに殊勝な言葉遣いになったじゃないか」
「それは別にどうだっていいでしょ! で、なんのつもりです?」
「まあそうかっかするな。今日の用事はどうしても、ここでしかできない用事なのだよ」
その返答に、背中に冷たい汗が流れる。精々、この前のような会話を幾つかする程度だと楽観していた僕は、まるで受験直前で忘れ物に気づいたような気分だった。
そんな僕の内心に気付いたらしい青崎は、完全に面白がっている笑みを浮かべると、大仰ぶった口ぶりで僕に言った。
「取り敢えず、異分子殲滅隊東京本部へようこそ、緋彩。今日は君に、入隊試験を受けてもらう」
「ここに居る間は、『スカーレット』と名乗れ。それがそのまま、お前の隊員としてのコードネームになる予定だ」
半分放心しているうちにそんなことを告げられた僕は、いまだにピークを保ち続けている胃痛に顔を青くしながら、青崎の背中を追っていた。
どこか近未来的なデザインの廊下は、僕からどんどん現実感を失わせていく。はたから見たら僕は、初めて都会に来た田舎者のように見えるだろう。それくらい、僕は緊張にさいなまれていた。
それに、緊張感が増している理由はそれだけじゃない。今目の前を歩いている、青崎と言う人物に対する周囲の態度が、異常なまでに丁寧だからだ。
まず、青崎に随伴しているだけであれだけ堅そうだった正面入り口のセキュリティーは顔パスだった。そして中に入ってからも、廊下をすれ違う人は誰であれ頭を下げ、端に寄るのだ。
他のことに精一杯で頭に入っていなかったが、確か初めて出会った時に自己紹介として、東京区画の『所長』だとか名乗っていたけれど……もしかすると、組織全体で言っても青崎の上に立つ人物は、数えるほどしかいないのではないだろうか。
今も、明らかに立派な恰好をした人物とすれ違ったけれど、青崎は微動だにせず、相手だけが端によって敬礼していた。そのことに、 途轍もなく居心地が悪くなる。
「……あの、青崎さんって結構偉い人?」
「まあ少なくとも、この施設内に私より偉い人間は居ないだろうな」
人が見えないタイミングを見計らって聞いてみると、当然かの如くそう返された。どうやら想像の十倍くらい、やばい人物だったらしい。この人が本格的に僕を討伐しようと考えたのならば、それだけでこの区画全ての隊員を動かせるくらいには。
「でも、異分子殲滅隊の隊員って全員貴族じゃなかった?それなのに、青崎さんが一番偉いの?」
「……君は、やたら人間に詳しいな。ああ、そうだ。貴族としても、組織としても、私はトップクラスだな」
訝しんだような視線を向けられた。その理由が一瞬分からなかったけれど、すぐに気付く。相手からすると僕は変に強い吸血鬼と言う程度の認識の筈なのだから、平然と人の文化に溶け込めている僕は、酷く不気味に映るのだろう。
それについても、青崎には話してみる価値はあるかもしれない。刀香に元人間だと訴えた時は命乞いの世迷言と断じられたけれど、状況は変わったし、ある程度信じてもらえる可能性はある。
「着いたぞ」
そんなことを考えているうちに、眼前の背中がピタッと止まる。危うくつまずきそうになりながら、慌てて僕も足を止めると、青崎の横から顔を出した。
途端、首根っこを掴まれて前に放り出される。予想外の力に「うえぇ!?」と悲鳴をあげながらなんとか体勢を立て直して顔を上げると、制服と思わしき物を着た、呆れた顔をしている男性が視界に入った。
その後ろには、射撃演習場のシューティングレンジのような施設が広がっている。室内とは思えないような広大な空間に、冷たい空気が満ちていた。
「……所長、今日の入隊試験応募者というのは」
「ああ、そいつで間違いないぞ」
「…………」
男性は呆れ顔を通り越して、とてつもなく冷たい視線を送ってきた。それこそ、この元より冷えた空間がさらに冷えあがりそうなほどの。
思わず僕は涙目になりそうになる。そりゃあ相手の……試験官、だろうか。試験官からしたら馬鹿にされたように感じるのかもしれないけれど、僕だって事前説明すらされずに放り込まれて、理不尽な目に合っている真っ最中なのだ。
「……私が今回の試験官である、竜崎だ。勿論知っていると思うが、今回は青崎様の推薦と言うことで、短縮版の試験となる」
知りませんでした。ごめんなさい。
青崎と言う上司からの命令だからなのか、態度以外には不満を一切漏らさず、淡々と言い進める試験官こと竜崎さん。だから僕もつべこべ言わず、その話を聞くことにした。
しかし次の言葉を聞いた瞬間、僕は一切事前説明をしなかった青崎を本気で恨むことになる。
「なのでこれから行うのは実技だ。今から的を一つ出すので、それを魔術で破壊しろ」
…………へ?
なろうあるある~~~~~




