勧誘
感想ぱぱぱっぱぱわーで一気に書き終えた......
左右に視線を張り巡らせる。作るのに時間がかかるのか、そこまでするのを躊躇ったのかは知らないけど、取り敢えず結界を仕込まれている様子はなさそうだ。最も、僕に気付けるようなものなのかどうかは分からないけれど。
刀香も一旦は話し合いの態勢に入ってくれたのか、殺気と刀は収めてくれている。青崎もそれを横目に確認すると、ふうっと溜め息とついて僕に視線を戻した。
「それでは、一つ目の質問に答えよう。君の正体についてだが……知っているのは、ここにいる三人だけだな。君が誰かに暴露していない限りは」
……実際に言われると信じ難いが、そんな気はしていた。だって明らかに行動が常識の範囲外すぎるし、自分の力が吸血鬼としては常軌を逸しているのは自覚しているが、流石に異分子殲滅隊が本気で討伐に来た時切り抜けられるとも思っていない。
今この時、僕と異分子殲滅隊が『話し合い』という形を取れている時点で異常なのだ。テロリストと交渉をしないというのは都市群間の常識だが、異分子とは話が通じないというのは人類レベルの常識だから。
そのことを加味して、やはり疑いの目を消すことは出来ない。これが本当なら、青崎は自分の組織に対して言い逃れの出来ない裏切り行為をしていることになる。
恐らく、そこら辺の疑問については今から話してくれるのだろう。僕は黙って次の言葉を待った。
「都市結界がありながら君の存在が潜在的にも疑われていない理由は、自分自身で分かっているだろう?手法は知らないが、うまくやったようだな」
「あの日鳴っていた異分子警報は、僕がここで殺した吸血鬼の反応だけ。刀香があの時僕にやられたのを知ってるのは刀香本人だけで、それを唯一報告した青崎……さんは、他の誰にもそのことを話していない、ってこと?」
「話が早くて助かる。ついでに、それ以前に警報が鳴って元凶が倒されなかった事例はこの区画では存在しない」
「住所が分かってたのは、刀香が尾行したってことであってる?」
「ああ。外周担当だった刀香を都市防衛に任命して、君を発見次第尾行するように指示した。かなり苦戦したようだったがな」
これについては、全く気が付かなかった。とはいえ今日の刀香の尾行にも冷静になるまで気付けていなかったし、消耗していた昨日は匂いを既に知っていたとはいえ、最後まで気付けていなくてもおかしくない。
今のところ、話は破綻してないかな、と考える。あと、やたら素直になんでもかんでも喋ってくれることへの違和感も。
「なんで、そんなことを?」
僕は本題へ切り込んだ。正直、自分達の組織を裏切るような行為をしてまで、こんなハイリスクな『交渉』を仕掛けられる心当たりは、全く無かったから。
空気がぴりつくような感覚がして、刀香の表情も引き締まる。返答次第では、と言うことなのだろうか。それとも、刀香も交渉の内容については聞いていないのか。
「単刀直入に言おう。緋彩、私の部下になれ」
「「……は?」」
刀香と声がピッタリ重なった。
聞き間違いではなかろうか、とも思ったけれど、同時に大困惑している刀香の反応からしてそれは無いのだろう。それに、ここまで僕の信用を取ろうとしているのにも一応の説明が取れる。
いや確かに、討伐しない理由があるとすればそれぐらい……なのか?それにしたって異分子殲滅隊に異分子が入隊とか、冗談だとしても有り得ない話だ。
嘘……ではないのかもしれない。再三いうが、異分子殲滅隊としては僕は絶対討伐できない厄災などではなく、多少町と隊員に犠牲は出るかもしれないが余裕で討伐できる異分子なのだ。そして、その犠牲を躊躇わない集団と言うことも広く知れ渡っている。
そんな組織がこんな不確定で回りくどい罠を仕掛けるだろうか。また話が本当だとして、隊員にするなど絶対許可するはずがない。普通に考えて、わざわざ自分たちから獅子身中の虫になるようなモノを取り込む行為だから。
結果的に、自分たち以外に僕の正体を話していない、という話も信頼できる。ただ本当に分からないのは、ここまでやって青崎が得るものが、下手をすれば敵に回りかねない僕一人と言う点だ。
しかもこのことがばれたら、最大級の犯罪行為である異分子の意図的な保護、養殖にあたる。誤魔化す手段はあるのかもしれないが、それにしたって爆弾が過ぎるだろう。
「青崎所長!こいつが、どんな存在か分かって言っているんですか!!!」
「ああ。だから、お前に事後報告で済まそうとしたのは悪かったと思っている」
「そういう問題では……」
僕と同じ考えだろう刀香がそう言うが、青崎はどこまでも本気らしい。その独特の威圧感を発揮して、夜に輝く蒼眼で僕を見据えた。
「君の要求を聞こう、緋彩。この条件を飲むのであれば、私の叶えられる範囲であれば叶えてやる」
「……僕がここで二人を殺して、何事もなかったかのように潜伏する可能性は?」
「逃げることのできる程度に腕には自信があるつもりだが……まあそうなったなら仕方ない、と割り切っている。だからこそ、刀香は連れてきたくなかったんだがな」
「所長……!」
達観した表情の、そんな自嘲したような言葉に悲痛な声を上げる刀香。どうやらいろんな意味で、覚悟が出来ていないのは僕のほうだけだったようだ。
その時点で、断わるという選択肢は僕の中から消えた。この交渉は僕に悪いものでは無かったし、むしろ、誰かを殺める必要すらないという、一番良い結果に纏まったとすら言えるから。
……少し考えてみたけれど、どこまで行っても僕の要求は一つだけだ。ぽつり、と言葉をこぼす様にその要求を告げた。
「僕は普通に、人間みたいに、あの家で暮らしたい」
ふと、僕がそう言い切った瞬間から空気が妙な感じになった。なんというか、二人ともぽかん、という擬音が一番似合うような表情だった。
なにか言い間違えでおかしいことをいってしまっただろうかと焦る。あるいは、声が小さかったせいで聞こえなかったのだろうかとも。沈黙が流れて、もう一度言おうかと逡巡していると、先に青崎が口を開いた。
「……それだけか?」
「へ?」
今度は僕がぽかんとすることになった。けど、遅れて何故そう言われたのかを察して、悪いことを言ったわけでもないのに恥ずかしくなってくる。
要するに、寝物語に出てくるような吸血鬼みたいに、僕が生贄なんかを要求すると思っていたのだろう。なのに出てきたことと言えば、条件を飲んだ時点でもうほぼ達成されるようなことを言ったから、拍子抜けしたのだ。
明らかに紅潮してしまっているであろう顔を見られないように、咄嗟に二人から顔を背ける。そこで二人も察したのだろう、ふっ、という吹き出すような声が聞こえた。
それが更に恥ずかしく感じられて、僕は顔を二人に向けないままつい叫んでしまった。
「わ、笑わなくたっていいじゃん!!!!」
「その、悪かったな緋彩、お前は、その、思ったより可愛いやつなんだなと……」
「うるさい!!!!!!」
青崎の言葉に思わず視界を戻した先では、二人が口を抑えて嗚咽を漏らしているところだった。
第二章完結!こっからは多分なろうでよく見るヤツちょい挟んでから、物語の本番に突入していく予定だよ




