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青崎と彼女の関係性をね、書きたいのです

 全身がカッと熱くなって、全身の血が有り得ない速度で巡り出したのを感じた。吸血鬼でいうところの、臨戦態勢なのだろう。本能が身体をそう突き動かす。


 殺気と魔力が一気に噴き出した。それを目の前の……青崎と名乗った女性は、間違いなく感じ取っているはずなのに、一切体勢を変えずに、こちらを見据えている。


 舐められているのか、相当に自信があるのかは知らないけれど、僕はそれを不気味に感じた。それと同時に廻った血が頭にも上ってきて、一気に思考が加速する。


 こちらの正体を知っているといった。そのうえで異分子に交渉などど言い出す荒唐無稽さは理解できないが、やろうとしていることは大体察せられる。


 要するに、こちらを脅そうというのだろう。だが結局のところ、こいつが異分子殲滅隊の人間なら最後は僕を殺そうとするに決まってる。


 殺す、という単語が脳裏でぐるぐる回る。どうせ殺されるならこちらから先に、とは考えるけれど、目の前の女性は確かに人間だ。敵ではあるけれど、昼に見たあの怪物とは違うのだ。


 手が震える。身体は怪物になったけれど、心までそうなる気はさらさらない。でも、だからといって大人しく死んでやる、なんて、そんなの嫌だ。


 ……いや、簡単な問題だ。逃げてしまえばいい。こいつらが追いかけてこれないところまで。そう、たったそれだけのはずなのに。


 すっと頭が冷えた。なんて言うか、自分の中で優先順位が固まったから。僕は手の中に魔力を集中させると、血の剣を顕現させようとして───



「家の中にいるもう一人は、人間だろう?」



 その言葉で、手が止まった。



「だから、なんだよ」



 無意識に普段は抑えていた、外見と差異が出ずらいような言葉選びが、自然と消え去った。それぐらい、今の僕は沸騰寸前だったのだ。


 そんな僕の内面を知ってか知らずか、青崎は飄々とした態度を隠しもせず、部屋の奥に目を向けながら、諭すような口調でこう言った。



「吸血鬼は、非常に凶暴な異分子だ。外見は人に似てはいるが、倫理観も人とはかけ離れているし、知能はあるが、それを潜伏などの方面に使わない」



 青崎はそこで一度言葉を切ると、今度は僕の方に視線を向けた。



「言っている意味が分かるか?君が、一般的に知られている吸血鬼と違うというのは、こちらも分かっているということだ。そのうえお前の行動は、私の部下を殺せる状態にありながら見逃したり、どんな意図があるかは知らないが、こうやって人間と共生していたりもする」


「……なにが言いたいんだよ」


「少なくとも、私は君のことを好意的に受け止めているんだよ。今のところは人間の敵ではない、とね」


「それを、僕に信じろって?」


「まあ、そういうことになるな。勿論、無条件で信じろなどと言わないさ……おっと、立ち話が過ぎたな。ここで長話をするとあまりに不審だろうし、君もここの人間にこの話は聞かれたくないだろう?」



 ……なんだか一方的にいいように会話を進められている気がして気に食わないが、言われたことは図星だ。僕は渋々と頷く。



「場所を変えよう。勿論、移動先はそちらで決めてくれて構わない」



 








 考え付く行先すべてに罠があるように感じてしまって、結局僕が選んだ移動先は、あの最初に目を覚ました廃ビルの屋上だった。あの時は気付きもしなかったが、廃ビルだったらしい。


 何故だか屋上へ通じる階段がない場所だったが、身体能力に任せて最上階の窓から移動した。そうしたら足元から、抗議の声が飛ばされた。


 登れないらしい。異分子殲滅隊なら階段を上るのと大して変わらない労力だと思うのだけれど、青崎は違うらしい。なんというか、呆れながらも手を貸した。


 屋上の方に視界を移す。僅かに焦げた痕跡のある床を横目に、反対側の柵の際まで歩いていくと、青崎には少し距離を取って止まってもらった。


 冷風がビル群の間を駆け巡る音が聞こえる。錆びた金属の匂いに交じるとある匂いにも、冷静になったからか気付いた。頭の中で聞きたいことを纏めると、軽く深呼吸をしてから口を開く。


 

「取り敢えず、聞きたいことが二つある」


「分かった。答えられる範囲なら答えよう」


「一つ目は、このことをどれくらいの人が知ってるのか。二つ目は……ずっと付いてきてる、もう一人について」



 それを聞いた途端、青崎は呆れたと言わんばかりに額に手を当てた。ばれたからにはうんたらかんたらとでも言い始めるのかと思い身構えるが、帰ってきた答えはむしろ正反対のモノだった。



「あー、すまん。二つ目に関してだが、それは完全に私の失態だ。付いてくるなと言いつけたんだがな……刀香」



 覚えのある匂いだったので察しはついていたが、飛び出てきた名前は案の定だった。青崎がその名前を読んだ直後に、階下から軽い身のこなしでその本人は現れた。


 青崎の言い分を信じるには、どうやらこれは刀香の暴走らしい。相変わらず大和撫子な容姿をした彼女は、今日の昼にも見せたような鋭い目つきで僕を睨みつけていた。思わず僕の手にも、力が入る。


 

「お前は無用な警戒を抱かせるから待機しておけと、よく言い聞かせたはずだが?」


「……納得できません、吸血鬼と交渉するなど。それに、こいつは所長に殺気を向けたでしょう!」


「だが実際には何もしなかったし、こうやって話し合いもできているだろう?」



 今にも僕に襲い掛かってきそうな刀香を抑えるように、肩に手をのせる青崎。いかにも猟犬とその主人のような光景だが、けしかけられる側としては笑えない。


 青崎も僕を刺激したくはないのか、きゅっと顔を引き締めて、先ほどまでのどこか緩んだような声音を少し厳しくし、刀香に語り掛けた。



「ともあれ、そろそろ弁えろ刀香。命令違反に飽き足らず、私の邪魔までするつもりか?」


「……所長の安全が第一です。こいつと二人など、絶対に認められません」


「……参ったな。悪いが緋彩、こうなったこいつはテコでも動かん。身勝手だとは思うが、続きは三人で話させてもらっていいだろうか」



 ……正直、嫌と言えば嫌だ。だけれど少なくともここで交渉を打ち切って帰る、というわけにもいかないのも自明の理で、若干の徒労感が浮かぶ青崎の顔を見ながら、平坦な声で返事した。



「二人とも、そこから動かないでいてくれるのなら」

貴方の高評価、ブックマークで助かる命があります。主に筆者とか筆者とか筆者とか。

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