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轟音

「「「あほか!!!!」」」



 綺麗に三人の声がコーラスする。僕の今の立ち位置からしても、それはあほかと思ってしまう。けれどいたって鈴は真剣なようで、明らかに空気に温度差が出来ていた。



「社長、アンタの為でもあるんだぜ。緋彩には悪いかもしれないが、こればっかりは冗談じゃ済まない」


「お願い。断じて誘拐してきたわけじゃないから、秘密にして欲しいの……」


「そ、それは本当です!」



 いや、冷静に考えれば半分くらい誘拐したようなものだった気がする。でもとにかく、今それを言うほど僕も馬鹿ではない。騙してしまって悪いけど、実害がないのは絶対だから許してほしい。


 すると、話を聞きながら何かしら考え込んでいた千早さんが、ポツリとこういった。



「私は、でも、緋彩には是非ここで働いて欲しい……」


「そうはいっても……いや、そうか……」



 真帆さんが反論をしようとして、千早さんが言おうとしていたことに気づいたのか、止まる。お互いぱっとした顔はしていないが、少し小さい声で、千早さんが理由を口にした。



「魔力持ちの協力があれば、開発の効率は何倍にも上がるし、今までできなかった研究もできる。正直、私はそのメリットを放したくない」



 射貫くような視線でそういわれ、身体が竦む。真帆さんも同じ意見なようで、二人は好奇心を抑えられていない瞳でこちらを見ていた。渚さんは今いち飲み込めないようで、呆れた声で言った。



「メリットってお前……本当に根っこから研究者だよなぁ……」



 困ったように頭を掻く。そして幾度か空中に視線を泳がせて思案したかと思うと、あああああああ!といきなり大きい声で叫んで、立ち上がる。


 ばっと再び視線を僕に戻す。先ほどの二人とは違う、半分睨むような眼光でこちらを見据えると、次に僕の後ろに立っている鈴に視線を移して、不満げに言った。



「社長、責任取れんだろうな……」


「それは勿論!……その、無茶言ってごめん……」



 見るからにしゅんとした姿に、渚さんも気勢を削がれたのか、それ以上は追及しなかった。代わりに、僕に向かって声をかける。背筋をピンと伸ばして、それを聞く。



「一応、そういう話で纏まるそうだ。一度、ちゃんと本人の意思が聞きたい」


「協力できることなら頑張りますし、絶対皆さんの迷惑にならないようにしますから、ここで働かせてください!」



 真剣さが伝わるように、ちゃんと渚さんの目を正面から見据えてそう言った。するとなんだかバツが悪そうに、相手方のほうから視線を逸らされる。


 その理由が分からなくてきょとんとしていると、なぜか鈴からよしよしと優しく頭を撫でられた。いきなりそうされたのも訳が分からず、余計に困惑する。


 周りを見渡しても、みんななんだか気まずそうにしている。訪れた謎の空気感に堪え切れなくなったのか、千早さんが冗談めかしくこう言った。



「その、社長、随分と懐かれてるようで」


「ええ、私も結構驚いてる」


「???」



 それを言うなら鈴が僕に懐いているのでは、と思わざるを得ない状況だったが、なんだかそれで会話は一段落着いた様子だったので、特に追及はしないことにした。














 そんなこんなで今日はどたついたのもあり、僕を念頭に置いたスケジュール調整をしたりしなければならないらしいというのもあり、一旦今日は午後には解散と言うことになった。


 それまで手持ち無沙汰で、真面目にお茶汲みしようと全員の飲み物の好みを聞いて回っていたりしたら、なんだか温かい目で見守られた。変なところがあったのか真面目に考えるも、全く思い当たらず、もやもやする時間を過ごすことになった。


 ちなみに、さっきの暴発したライターは無事だったらしいのだけれど、もう必要のない物らしく、僕の入社祝いだとしてプレゼントされた。使い道は多分ないけれど。


 そんなこんなで、体感でいえば本当にすぐ午後は訪れた。他三人はもう少しやることがあるらしく、僕と鈴さんの二人だけ先に返され、来るときと同じようにビルを出た。


 色々と緊迫した場面があったのもあり、外の空気がいつもより新鮮に感じられた。身体的な疲れは全くないが、ちょっと気疲れしたかもしれない。いつもより瞼が開いていない気がする。



「色々伏せられてはいるなって思ってたけれど、流石にびっくりしたな」



 不意に、横っ面へそんな言葉が飛んできた。優しい声音ではあるけれど、どこか非難的な響きを感じてしまう。鈴も思わず言ってしまったのだろう、すぐ次の言葉が紡がれた。



「あ、変な意図はないのよ?本当に、額面通りの意味で、ビックリしたってだけ」


「じゃあ、謝らない方が良い……?」


「それは勿論。緋彩は、何も悪くないから」



 悪くない、のだろうか。鈴から見えている僕の像は、貴族家を家出したとんでもない子供に見えているはずなんだけれど。僕にとって、それは随分悪い子に見える。


 隣の、頭一個分上にある顔へ視線を向ける。同時に同じことをしたらしい、鈴と目が合った。何となく反応に困っていると、はにかむように笑われた。



「我儘とか、受け付けてるから。緋彩には何でも言ってほしいな」



 心を透かれたような気になって、ぷいっと顔を背ける。鈴はそれなのに嫌そうなそぶりを一切見せず、僕の手を握って、帰路に向け引いた。


 その時。




 突然の破壊音が聞こえた。




 あまりの爆音に、最初は何かが大爆発でも起こしたのかと思った。でも、音の方角に目を向けると、それが勘違いであったことはすぐに分かった。


 ワンテンポ贈れて、赤い警告の光がアラームと共に街を染め上げる。そして、少し離れた場所のビルが、瞬く間に崩壊してくのが見えた。


 そしてそのすぐそばには、見たこともない、家よりも巨大な怪物が暴れまわっていた。超巨大な、二足歩行の狼というのが、自分に備わった知識で一番正しく表現できるだろうか。


 その怪物はビルを一つ完全に崩壊させきると、地震を錯覚させるほどの轟音で、咆哮を上げた。

この話を綺麗に纏めるのは苦労したけれど、なんとか納得出来るところに落ち着かせれた。取り敢えずひとつターニングポイントです。面白かったらブクマと評価宜しくね

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― 新着の感想 ―
[一言] すごく面白くて続きが気になります
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