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ごめんAPEXしてた。でも書く気はあるよ

 スーパーでのひと悶着の後、僕たちは予定通り服屋に立ち寄っていた。


 あれから、迷子にならないようにと言う小馬鹿にされたような理由で、鈴とはずっと手を繋がれていた。子ども扱いするなと言ってもこの脳みそフラワーフェスティバルには通用しないようで、結局振りほどけないままここまでくる羽目になった。


 周りにはどういう風に映っているのだろうか。案外、姉妹とかに見えたりするのだろうか。少なくとも、好奇の目や微笑ましいものを見るような目は向けられても、変なようには見られていないと思うけど。



「服、かぁ......」



 隣の鈴には聞こえないくらいの小さな声で、そう呟く。服選びのセンスに関しては、鈴の私服を見るからに信用できるのだけれども、問題があるとすれば、僕がそれを着ることだろう。


 似合わない......ことは、ないだろう。自分で言うのもなんだけど、この姿は多分どんな服を着ても様になる。それこそ、今着ている男物の服でも、他者の視線を奪うのに充分な魅力を持っているのだろう。


 だからこそ、だろうか。今以上に自分が『可愛く』なってしまうことに、どうしても抵抗がある。だからといって、今の服装で通せないことは分かっているのだけれども。



「いらっしゃいませ~」



 そんな迷いが悶々と頭を巡っているうちに、遂に目的地に到達してしまう。店員の声に身体がすくんで足が止まったけれど、鈴に手を引かれて、渋々踏み出した。



「それじゃあ緋彩、どんな服がいい?なにかリクエストでもある?」


「あ、あんまり目立たない感じの奴で……」


「落ち着いてるやつかぁ……まあ緋彩はなんでも似合うだろうし、心配はいらないか」



 頭の中で既に幾つか案が出たらしい。鈴は左右を服で囲まれた店内を、迷いなく進んでいく。僕は新品の服の匂いを避けるように、その背中に隠れて追従した。


 鈴の背中で見えないが、幾つかの服を下ろした音がした。チラリと脇から覗いてみると、如何にも女の子らしいワンピースが見えて、とっさに言う。



「ズボンの方が良い」


「え?」


「ズボンが良い……」


「えー、一着くらい可愛いワンピース欲しくない?」


「け、結構です」


「そっかぁ」



 心底悲しそうな顔でワンピースをもとの場所に戻す鈴。それに大げさな反応だと思いつつも、納得してくれたことに安堵し、こっそりほっとする。


 そのまま背中に隠れ続けようと、覗かせていた頭を引っ込めようとしたら、ぬっと伸びてきた鈴の手に首根っこをつままれた。そして隣に引っ張り出される。


 ぎゃーと悲鳴を上げながら、ちょっと呆れたような顔をした鈴に並ぶ。嫌そうなのが顔に出ていたのか、軽く頭を撫でられた。子ども扱いが止まらない。



「自分でも何着か選んでいいのよ?」


「せ、センスないから全部任せる……」


「普通、服選ぶのって女の子は喜ぶんだけどなぁ」



 半分男だからそんなこと言われても困るし……と心の中で言い訳しながら、それとなく目を逸らす。首根っこは離してもらえないらしく、そのまま連行された。


 今度は特に僕が口を出すこともなく、サクサクと選ばれていく。ていうか、身長いつの間に知ったのだろうか。教えた覚えがないのに、サイズ選びに迷いがない。


 それはそれとして完全に任せた手前、もうあまり口は出すまいと思っていたのだけれど、途中でどうしても気になることがあって口をはさんだ。



「あの、多くない……?」


「何が~?」


「いや、服。そんな何着も買わなくたって大丈夫なんだけど……」



 鈴が腕に引っ提げている衣装の数は、既に二桁を超えようとしていた。しかも一着一着にそれなりの値段が書かれた値札がぶら下がっていて、申し訳なさが凄い。


 しかしそう言っている間にも鈴は、商品棚からどんどん服を引き抜いていく。そしてそのうちの何着かを、突然ぽんっと手渡されてた。


 その意図が読めずに、大量の服を両手で抱えて頭上にクエッションマークを浮かべる僕に、鈴は当然のごとく言い放った。



「取り敢えず、ここら辺試着してみよっか」


「……へ?」



 尚も脳が理解を拒絶している僕を、なんとも嬉しそうな表情で追い詰める鈴。


 普通に選ぶだけで済むと思って油断していた僕は、混乱で目がぐるぐるしだすのを感じながら、必死に逃げ道を探して頭を回す。



「こ、ここで着替えるの?」


「このお店、試着スペースちゃんとしてるから大丈夫。緋彩の素材が良いとはいえ、やっぱり実際に着てみないと分からないこともあるし」


「ででででも時間かかりそうだし」


「今日はこのために時間沢山空けてあるからね」


「そ、それじゃ……」


「似合うのは私が保証するから!ささ、行ってらっしゃい」



 そっちの心配じゃない!という心の中の叫びは通じず、遠慮のない背中プッシュによって僕は試着室の中に放り込まれた。そしてカシャッと、背後でカーテンの閉まる音がした。


 呆然と、手に抱えた様々な洋服を眺める。なかなかこう、女性の服を触る機会などないので、肌触りが新鮮だなぁだとかの他人事な感想が浮かんだ。


 ともかくとして、少なくとも一着は着替えなければ鈴の気は収まらないだろうし。何とか心を無にしようとしながら、再度手元の着替えに目を落とした。


 そしてそのデザインを初めてまじまじとみて、ふと思う。そしてその思った意味を理解して、半分悲鳴のような声でぽつりと口に出した。



「鈴……」


「どうしたの?」


「これ……どうやって着るの……?」


「……嘘じゃん」


 

 この上ないくらいの、信じられないといった声が返ってきた。

 

 

てぇてぇ

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