表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/114

お出かけ

マジ不定期で申し訳がナスビです......

「……鈴?」


「ん~?」


「帰ってくるの、早すぎない?」



 そう言った僕の目の前で、返事の主は棒アイスを咥えていた。時刻は昼前ごろ。鈴が帰宅したのは、僕が散歩から帰宅してすぐ後のことだ。


 仕事と言うからには普通、午後五時までは最低あると思っていたし、帰宅にかける時間も加味したらもっと遅くなると思っていた。だからなんというか、拍子抜けというか。


 あまりにも暇すぎて、でも何もしない罪悪感に刺されそうになって、掃除でもしようとはたきを構えたところで「ただいま~」とされたもので、僕は何とも言えない顔をすることになった。


 それはそれとして掃除はしようと思うけど、取り敢えずは、返ってきた瞬間アイスにがっつき始めた鈴の隣に座っていた。ちなみに出社と言っても鈴の会社は規律が緩いらしく、ずっと私服のままだ。


 それをいいことに着替えもせずダラダラしだした鈴に、ジ~っとジト目を向ける。それに気付いているのか気付いていないのか分からないが、本人はなにやら上機嫌にニコニコしている。


 

「今日はお仕事少なかったからね。それに、緋彩の服は早めに買いに行った方が良いでしょ?」


「いや、僕としては別にそんなでも……」


「というか私が着せたい」


「……なるほど」



 さっきから上機嫌な理由はそこか、と一人納得する。でも僕的には周囲に馴染める服を買ってもらえるのはありがたい一方で、女物の服を着るというのにやっぱり抵抗もあるので、なかなか素直に喜びきれない。


 僕がもんもんとそんな悩みに頭を痛めて微妙な表情をしていると、鈴は咥えていた棒アイスを食べ切ったらしく、ぽいっとゴミ箱に棒を放り込んだ。


 そしてこちらに向き直ると、良い笑顔で宣言する。



「よし、じゃあ取り敢えず近場からまわろっか。あと、お昼もお店で済ませようかなあと。緋彩はそれで大丈夫?」


「まあ、ん、大丈夫」


「ちなみに、好きな食べ物とかある?」



 その質問を聞いて、ソファーから持ち上げようとしていた腰が止まった。頭に幾つか候補を浮かべてみるものの、実際にそれを口に出来た記憶ははるか遠くで、味も思い出せないものばかりだ。


 ただ、食べることは結構好きだったはずで、もしかしたら、町を巡っているうちにお店つながりで思い出すかもしれない。そう考えをまとめると、改めて立ち上がった。



「……結構、何でも好き。色々見て回ろ」


「了解。好き嫌いがないのは良い子ね」


「だから、そんなに子供じゃないってば」












「……で、なんていうかその……緋彩って色んな意味で期待を裏切るよね」


「へ? 何の話?」



 そう言いながらも、手は止まらずに手に持った食べ物を口に運び続ける。鈴も同じものを持っているのだけれど、あまり箸は進んでいないようだった。


 もしかして、そんなに好きじゃなかったのだろうか。そう考えると、結構自分勝手に選んじゃったのかなと、少し反省する。



「あの、もしかして───焼きそば、嫌い?」


「嫌いでは決してないんだけれど、むしろ好きな方ではあるんだけど、なんだかなぁ」



 どうやら僕の予想は検討違いだったらしい。となると、他にもは全く思い当たる節がなくて、昼食を決めてから悶々と何かを悩んでいる鈴に首を傾げた。



 現在、僕たちはスーパーのフードコートにのさばっていた。最初はここに寄る予定はなかったのだけれど、僕が料理を作ることもあるし、こういう場所は覗いておきたいと鈴にお願いして寄り道したのだ。


 鈴は一応「朝昼晩私が作ってあげる!」と宣告したのに、僕にも料理をさせることに反感を抱いていたのだけれど、そこは僕が料理を好きだということもあり、暇つぶしも兼ねているのだと言って納得させた。


 それに、今日僕が作った朝食はかなりお気に召されたようで、僕が料理を作ってくれるということ自体には不満は無いらしい。美味しいと言ってくれるのは、こちらとしても嬉しい。


 

「それにしても、わざわざスーパーで買ったものとかじゃなくて、お店でちゃんと食べても良かったのに」


「それはそうなんだけど……焼きそばの気分だったんだから仕方ない」


「焼きそば、そんなに好きなの?」



 聞かれて、うーんと首を傾げる。何と言うか、それこそ一桁年齢の時とかに、やたら食べていたような、そんな気がする。それ以降は多分、滅多に口に出来なかったのだけれど。


 そこまで考えてから、ぱくりと焼きそばを一口食べた。ごくんと飲み込んで、美味しいなと思う。小難しく考えるより、それだけでいいかなと思った。



「好き。うん、大好き」



 そう答えて、また食事の方に集中し始めようと手元に意識を落とした。でも視界の端に写る鈴さんは変わらずこちらを見ていて、少し恥ずかしくなり、顔を上げた。



「あの、鈴は食べないの?ずっと見られてるのもなんか、やなんだけど……」



 問いかけた先、なぜか鳩が豆鉄砲を喰らったような顔で停止している鈴。返事もなく美人な面に見つめられて、おもわず目を逸らす。



「な、何か言ってよ……」


「さっきの、もっかい言って」


「さっきの?ずっと見られてるのもヤダ?」


「その前」



 その前、と言うと───一気に顔が熱くなる。無意識だったから特に、気付いた時の衝撃が強くて、反射的に声が大きくなってしまう。



「ややや、焼きそばの話だから!!!」


「分かってる分かってる。だからもう一回、ね?」


「やだよ!」



 ああもう恥ずかしい!鈴のニマニマした顔をあまり意識しないようにして、僕は残りの焼きそばを口に放り込んだ。

イチャコラさせたら文面進むくん

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
今更だけど重病人で入院してたのになんで料理できるの? 親が嫌いなところもあったし、2桁前は普通に生活してたみたいな文が散見されるからネグレクトされてた?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ