二十四話 死翔の魔将
「これはこれは。無作法なことだ。玄関を壊すとは」
「緊急事態だったからなあ。悪いな」
オルトは額に青筋を立たせ、蝿の王を睨んだ。
「てめえが蝿の王か」
「いかにも。我は蝿の王。そこにいるのは、我が花嫁だ」
「違います」
レシアが即答すると、蝿の王は肩を竦める。
「ともかく、貴殿は邪魔だ。やれ、我が眷属達よ」
「んあ?」
蝿の王の声に従い、屋敷内にいた魔族達が一斉に動き出す。オルトを中心に、四方八方を蟲が囲う。
そんな中、アリアも蝿の王の命に従って構えた。
「アリアさん……戦わなくてはなりませんか」
「レシア様……先ほどの言葉、嬉しかったです。しかし、私はご主人様のメイド……大人しくお捕まりください」
「……残念です」
レシアはその会話を最後に、ブリュンヒルデを構えると、オルトと背中を合わせた。
「オルト。何か策は?」
「んなもんねえよ」
「でしょうね」
「分かってんなら聞くなよな……」
「口を動かす前に、集中してください」
この野郎。
オルトは内心で頬を引きつらせたが、喧嘩をしにきたわけではないのだと自分に言い聞かせて頭を振る。
そう……全てはレシアを蝿の王の手から救い出し、誕生日プレゼントを渡すため……!
レシアの誕生日は明日なのだ。無駄な時間などかけられない。まだ、サプライズパーティーの準備だっておわっていないのだから……!
「さっさと、けり付けさせてもらうぞ! 蝿の王!」
「それは我の台詞だ。人間」
蝿の王の一言を皮切りに、待機していたメイド達が一斉に襲いかかった。
オルトは刀を振るい、レシアは槍を薙ぐ。
下級悪魔達はそれで吹き飛ばされ、下手な上級悪魔達も二人の力の前になす術なく倒される。
暫く、オルトとレシアが一方的に大勢の魔族を屠る。中には上級悪魔もいたが、二人の連携を前には無力であった。
「……ほう。雑兵では相手もならないのか。アリア」
「はい……」
蝿の王はアリアに声をかける。
アリアは身構えていただけで、オルトとは交戦していない。レシアは嫌な予感を感じ、不安げな瞳でアリアに視線を向ける。
「アリア。ああ、アリアよ。我が眷属にして、蝿の王の四天王よ。我が花嫁を捕らえよ。かの男は、我が相手しよう」
「かしこまりました。これより、ご主人様の四天王たるアリアは、レシア様を捕獲致します」
「アリアさん……」
「ちっ……魔人だったか」
レシアが悲しそうに目を伏せ、オルトが舌打ちをする。
「レシア様。ご覚悟を」
「……魔族ではなく、お互い人間なら仲良くできたでしょうか」
「それは無理でしょう……レシア様は、私の脚が気になるのでしょう?」
「い、いえ……そんなことありませんよ?」
「目、泳いでいらっしゃいますよ?」
アリアは苦笑を浮かべ、クモの脚を伸ばす。人の上半身と、虫の下半身。半端者と蔑まれる容姿で生まれた彼女だが、その実力で蝿の王の四天王に抜擢された。
アリアは自分の容姿ではなく、実力を評価してくれた蝿の王に深く感謝をしている。だから、アリアが蝿の王を裏切る選択肢はない。
いくら、アリアがレシアのことを好ましく思っていてもだ。
「大丈夫なのか、レシア」
「ええ、心配しなくともこちらは私に任せてください。蝿の王は……任せました」
「……分かった」
オルトは頷き、蝿の王に目を向ける。蝿の王は不快なのを隠すことなく、
「全く、不愉快極まりない。我が花嫁に近づき、言葉を交わすなど」
「そりゃあ、こっちの台詞だなあ……折角、こっちは色々と準備してたのにぶち壊しやがってからに……! 大体、誰がてめえの花嫁だ!」
「我は彼女を愛している……一目惚れだった。美しい乙女だ。我が花嫁に相応しい……ああ、美しく可憐な乙女だ」
「それは全面的に肯定してやるが、一目惚れ程度のてめえには負けねえよ。こちとら八年間の初恋だ! ぽっと出のてめえに負けるか!」
オルトの言葉に蝿の王が眉根を顰める。
「全く……ああ、全く不愉快だ。彼女を愛するのは、我一人で十分だ。貴殿にはご退場いただこう」
「やれるもんならやってみろ」
こうして蝿の王とオルトの戦いの火蓋が切って落とされた。
よろしくお願いします!
よ……よよよ、よろしくお願いします!
しまーす!




