十八話 毒死の魔人
俺は先陣を切って、モンスターの群れに突っ込む。
一振りで群れを一層しても、次から次へとモンスターが湧いて出る。遅れて三人も加勢するが、圧倒的な物量のせいで中々前へ進めない……!
「これ第90階層の時より数が多いのではないでしょうか!」
「はっはっはっ! 確かに! これは十万どころではないな!」
二人の言う通りだ。一匹の強さは驚異ではない。問題なのは数といえば数だが――その数とて問題ないといえば問題ない。
ただ、邪魔なだけだ。
俺が再び刀を振るい有象無象を一掃すると、
「キキッ! 雑魚じゃあ時間稼ぎにもならないか。キキッ!」
「ああ?」
モンスターの死骸の上に、蜂と人間を足した姿をした――魔人が現れた。間違いない。この雰囲気は……キュスターと同じ魔人だ。
蜂の大きな目は、無数の人の目玉で出来ており、それぞれが不気味に蠢いる。肌は紫色で、手足は異様に細長い。臀部からはハチの腹部が伸びており、特徴的な警戒色ではなく、紫色だった。
「キキッ! まあ、人間にしてはここまで来れただけでも褒めてやるべきかあ? キキッ!」
魔人はブンブンと背中の羽を鳴らす。
「なんですの……? あなたは……?」
エレシュリーゼが尋ねると、魔人は口元を三日月に歪めた。
「キキッ! 俺様は蝿の王様をお守りする四天王が一人! 『毒死の魔人』! スズメバチ様だ! キキッ!」
「魔人……!」
「…………っ」
「ほう」
エレシュリーゼとモニカが息を呑み、ラッセルが腕を組み、興味深そうにスズメバチを見据える。
スズメバチは不敵に笑う。
「キキッ! 蝿の王様とレシア様の結婚式は邪魔させないぜえ? キキッ!」
「……は、はあ!? 結婚だあ!? ちょ……それどういうことだよ!」
叫ぶと、スズメバチは眉を寄せた。
「キキッ! 知らないのか? レシア様は蝿の王様に見初められ、ご結婚されるのだ!」
わ、わけが分からねえ……。
というか、レシアの野郎。なんでこう毎度毎度、助けに来たら結婚なんて話なってんだよ……!
俺は歯軋りする。
「ったく……! ふざけやがって……!」
俺は刀を構え、臨戦態勢を取る。すると、それをラッセルが止めた。
「落ち着くのだ。オルト」
「な、なんで止めんだよ! ラッセル!」
「……結婚と言っても、まだ一日も空いていないのだ。そんなすぐに準備ができるものでもあるまい。だから、時間稼ぎに奴がいるということだ」
ラッセルの言葉で、少しだけ俺の頭が冷静になる。
その通りだ。だが、結婚さえしてしまえば……レシアを思い通りにできるということでもある。
あのレシアがそう易々と結婚なんてしないだろう。だが、敵方は結婚すればレシアを思い通りにできる算段があることが窺える。
どのみち、悠長にしている時間はない。
「なに、時間稼ぎに来ているというのであれば、真面目に戦う必要はない。貴様は、エレシュリーゼ殿とモニカ殿とと共に、先に行くがいい。ここは俺に任せろ」
ラッセルはそう言って俺の背中を叩くと、何を思ったのか、一瞬だけ空を仰ぎ……。
「ここは俺に任せて先に行け……!」
おい、それ絶対言いたいだけだろ。
俺は苦笑し、刀を鞘に納めて走り出す。俺に続いて、モニカとエレシュリーゼも走り出した。
「キキッ! そう簡単に行かせるとでも――」
無論、俺達を行かせまいとスズメバチが動く。だが、俺達は決して振り向かない。
なぜなら――。
「行かせるとも。なぜなら、この俺がいるからな」
「ひでぶっ!?」
爆発音……。
ラッセルが油断したスズメバチに前蹴りを喰らわしたのだ。
スズメバチは大きく吹き飛び、地面を何度も跳ねながら荒野に聳え立つ岩に激突する。
俺はラッセルの横を通り過ぎる際に、ラッセルに目配せした。
「頼んだぞ! ラッセル!」
「お願いしますわ! ラッセルさん!」
「き、気をつけてね……!」
エレシュリーゼとモニカも、残ったラッセルに激励する。
ラッセルは不敵な笑みを浮かべた。
「はっはっはっ! 合点承知!」
面白かったから、是非ブックマーク、ポイント評価の方、よろしくお願いします。
やる気……出ます!




