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九話 正義――死

「貴殿は何者か」

「それはこっちの台詞であるな。貴様こそ、何者なのだ? 見たところ、魔人のようだが……俺とオルトが魔人の接近に気づけないとは思えぬな」


 ラッセルが警戒を強めて口にすると、蝿の王が愉快に笑う。


「はは。貴殿は魔人の接近が分かるのだな。だが、貴殿はその辺を飛ぶ蝿や、地面の蟻にわざわざ注視するかね?」

「……どういうことだ?」

「簡単な話だ。我は無数の蟲達の集合体。どういう原理で魔人を判別しているか知らないが、蝿や蟻の接近が気にならないと同じ理由さ。貴殿が気づかなかったのは」

「…………」


 ラッセルは思わず唸ってしまう。

 現状、とにかく情報が足りない。その点、蝿の王の方が上手だ。ラッセルの方が不利だ。市街地な上、蝿の王の手にはレシアが囚われている。


「無駄だとは思うが、一応言っておく。その女性を離せ。でないと、貴様は後悔することになる」

「ほう? どのように後悔させると?」

「さあ? 俺がさせるわけではないからな……まあ、とにかくだ。その女性を返してもらうぞ……!」


 ラッセルは剣を引き抜き、真正面から蝿の王に突っ込む!


「馬鹿正直に正面から来るか。愚か。ああ、愚かな男よ」

「馬鹿正直なのはライバルからのお墨付きでな!!」


 ラッセルは蝿の王を間合いに捉えると、剣を振り下ろす。蝿の王は身を翻すと、その背中から二本の刃が生え出る。まるで、カマキリの手にも似たそれで、ラッセルの振り下ろした剣を受け止める。

 金属と金属が衝突し、火花と硬質な音が走る。衝撃波で土埃が舞い上がり、二人は鍔迫り合いとなる。


「くっ……」

「ほう。人間にしては、中々だ。しかし、足りないな。我を相手にするには。非力だ。ああ、非力なものだ」


 蝿の王の言った通り、ラッセルは簡単に押し返される。腕は剣ごと上方に弾かれてしまい、ガラ空きとなった胴体を薙ぐ一閃が、蝿の王から放たれる。


「『アーマメント』っ!?」


 咄嗟に、皮膚を硬化させたラッセル。だが、その上からでもラッセルの肉は易々と断たれる。ラッセルは後方に吹き飛び、荷積みされていた木箱の中に突っ込んだ。


「ふむ。両断するつもりだったのだが、まだ体が繋がっているのか。ただの人間ではないな?」

「ぐ……はあ……はあ……き、貴様こそ、何者……なのだ……?」

「我は蝿の王。魔人を凌駕する『死翔の魔将』だ」

「ましょう……だと?」


 ラッセルは聞き慣れない単語に首を傾げる。

 少なくとも、魔人を凌駕するという点は理解できた。たった、一度の差し合いでラッセルがダメージを受けたのは、オルト以来の衝撃であった。


「大丈夫だ……まだ俺は戦える。とにかく、レシア殿を助けねば……!」

「愚かだ。ああ、愚かだ。人間よ。貴殿は我に、勝てると思っているようだが、それは不可能だ」

「そんなものはやってみなければ分かるまい?」

「いや。いいや。分かるのだよ。貴殿では、力不足だ。ここが市街地でなければ、もう少しいい勝負ができただろう」

「っ……!」


 気づかれていると、ラッセルは苦虫を噛み潰した表情になる。

 ラッセルはテクニックよりもパワーに寄っている。オルトと違って手加減ができるため、振るった剣で街を壊したりしないが――しかし、蝿の王は手加減して勝てる敵ではない。だからといって、市街地でラッセルが力を解放するわけにもいかない。

 それを、蝿の王は知っている。


「残念だ。勇ましき戦士よ。ああ、残念だ。実に。貴殿は、強いのだろう。だが、縛られている。それでは、我に勝てない」

「なっ……」


 チクッ


 ラッセルの首筋に鋭い痛みが走る。

 蝿の王はあの鍔迫り合いの瞬間に、一匹の蟲をラッセルに移していた。

 ラッセルは全身を震えさせ、その場に倒れ込む。


「悪いが、そちらの毒は即効性の毒だ。筋肉が痙攣しながら、数分で死ぬ」

「っ……っ……!」


 筋肉がラッセルの意思に反して痙攣するため、まともに声を発することすらできない。ラッセルは、ただ蝿の王を見上げることしかできない。


「まだそんな目ができるか……本当に強い人間だ。故に、残念でならない。ああ、残念でならない。本当に」

「ら……せる……さん…………」

「――――ッ!」


 レシアは麻痺した口でラッセルの名を呼ぶ。

 ラッセルは徐々に暗転していく視界の中、これだけは聞き逃さなかった。


「さあ、行こう。ああ、行こう。我が聖域。我らが聖域。第300階層へ」


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