二話 上層攻略
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場所は第299階層の迷宮最上部。
次の階層へ続く階段の前で俺――オルトは、モンスターと対峙していた。
『ブブブブブッ!』
「っと……」
愛用している刀でモンスターの攻撃を去なす。
今、戦っているモンスターは、一言で言い表すなら巨大な蜂だった。全身が真っ黒な蜂だ。
とても獰猛で、お尻の先から針を飛ばしてくる。エレシュリーゼ曰く、致死性の毒らしい。刺されば、ひとたまりもない。
「まあ、刺さればの話だけどな」
『建御雷』で右前腕を硬化。蜂モンスターが飛ばした大腿よりも太い針を弾く。針は宙で回転しながら地面に突き刺さった。
ふと、周囲に目を配る。
まず目に入ったのはラッセルだった。
「はっはっはっ! この程度か! 数だけでは、俺は倒せんぞ!」
相変わらず鬱陶しい高笑いをしながら、蜂モンスターを斬り伏せる。とにかく数が多く、迷宮の壁にある穴という穴から、無限に湧いて出る。
まさか本当に、無限に湧くということはないだろうが……。と、俺があまりの面倒臭さにため息を吐くと、
「『フレア』!」
横からエレシュリーゼの放った炎が、数十匹ほどの蜂モンスターを焼き払った。
「おお、さすがだな。エレシュリーゼ」
「ありがとうございますわ。それより、数が多すぎますわ。一体の力は大したことありませんけれど」
「早く終わらせるに越したことはねえわな」
「ええ」
エレシュリーゼと会話している間も蜂モンスターは、続々と穴から湧く。とにかく、数が多いのだ。まだ余裕はあるものの、持久戦に持ち込まれると不利なのは明白である。
エレシュリーゼは再び炎を巻いて、蜂モンスターを焼き払う。広域殲滅に長けたエレシュリーゼがいる限り、物量で押される心配はないが――それはエレシュリーゼの魔力が持つ間限定だ。
「さて、どうするかね……ん?」
俺は蜂モンスターを斬り伏せ、打開策を考える。そこで視界の端に、モニカの姿が見えた。
見ると、モニカが蜂モンスターに集られていた。オスなのか、お尻の先に針がなかった。蜂の針は、排卵管が変化したものだ。故に、メスにしか針というのはない――というのを、エレシュリーゼに聞いた。
「なんかあいつ、めちゃくちゃオスに集られてるな……」
「オスの本能的な琴線にでも触れたのでしょうか……」
「ふええええ……考察してないで助けてえええ……!」
涙目になって助けを求めるモニカ。見たところ、モニカが自身の周囲に展開している水の障壁を、蜂モンスター達は破ることができないらしい。
強靭的な顎で水の障壁を噛んでいるが、ビクともしていない。放っておいても問題なさそうだが――と、そこで桃色の閃光が駆けた。
『ブブブブブッ!?』
蜂モンスター達は、一瞬にして葬られ、モニカと周りから消える。
閃光の放たれた方に目を向けると、長く美しい金髪の髪を払い、泰然と立つレシアの姿があった。その手には、神器ブリュンヒルデが握られていない。恐らく、先ほどの閃光がブリュンヒルデなのだろう。
「全く……遊んでいないで戦ってください」
「あれ、なんか機嫌悪いか?」
「あら……わたくしと会話していたから、嫉妬なされたのでしょうか?」
エレシュリーゼが煽って口元を手で隠す。さすが、陰湿な貴族社会で過ごしていただけある。煽り性能が高い。
そして、煽られ耐性のないレシアは、案の定、顔を真っ赤にさせて声を荒げた。
「なっ……ち、違います! そんなわけありません! 誰が嫉妬なんてするものですか!」
「では、どうでもいいと?」
「そんな男のこと、どうだっていいです!」
「じゃあ、わたくしがいただいても?」
「そ、それは……!」
おい、やめろ。
あとが怖いだろ。
そんな内心の抗議も露知らず、エレシュリーゼは再び魔法を周囲に放つ。蜂の焼ける臭いが鼻腔に入り込み、眉を顰める。
「いい加減、決着付けねえと鼻が曲がりそうだ」
「はっはっはっ! ブンブンとうるさい羽音もいい加減、聞き飽きた!」
「有象無象はお任せを。わたくしが焼き払いますわ」
エレシュリーゼは言って、炎で俺とラッセルに集っていた蜂を焼き払う。
「あ、オルトくん! 上!」
「んあ? おっと……」
モニカの注意に頭上を見上げると、大量の針が降ってきた。『建御雷』で全身を硬化させて、針の雨をやり過ごす。
ラッセルも同様に、全身を硬化させて防いでいる。エレシュリーゼとモニカに至っては、『エレメンタルアスペクト』――流動化によって、針が透けていた。
エレシュリーゼの体に無数の穴が出来ているが、炎が広がると同時に、無傷の彼女が現れる。モニカは、体内に入り込んだ針を水と共に押し出していた。
なんともまあ、便利な魔法である。
レシアに目向けると、無傷で立っていた。全身を覆う桃色のオーラが、全ての針を弾いたのだろう。
「何事ですの? 上から大量の針なんて……」
「これ……さっきの蜂さん達よりも小さいけど、毒性が強いみたい」
モニカが地面に落ちている針を手に取ってそう言った。
と、その時だった。頭上の穴から今までの個体よりも、遥かに大きな蜂モンスターが現れた。
とにかく大きい。
「女王蜂といった感じでしょうか……」
俺はレシアの一言に肩を竦めた。
「分かりやすく大きいしな。多分、こいつが親玉ってんだろ?」
「はっはっはっ! そのようだ。モンスター達も、どこかピリピリとしているぞ!」
ラッセルの言う通りだ。
女王蜂が出現したと同時に、蜂モンスター達の雰囲気が変わった。奴らも、これが最後の戦いだと腹をくくったらしい。
俺達を取り囲み、針先を向けている。いつでも俺達を射殺そうという意志を感じる。
「んじゃまあ……決着と行くかあ! 絶剣五輪!」
「はっはっはっ! 俺も行こう! 正義執行!」
「私も続きます……愛の一撃!」
「わたくしもお伴しますわ! 絶剣五輪!」
「えっと……えっと……! わ、私は見守ってます……」
一人を除き――全員の必殺技が発動。
女王蜂を含め、何千という蜂モンスター達を一掃した!
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やる気……出ます!




