一話 七魔将
第二部更新です。
塔の世界エルダーツリー。
全1000階層から成るこの世界の果て――第1000階層。そこには、エルダーツリーを統べる世界の王――またの名を『魔王』がいると言われている。
『魔王』は全ての魔族を統べ、人類の絶対的な敵であるとされる。
その『魔王』がいるらしい第1000階層にて――魔族の最上位存在である魔人の中でも、とりわけ強大な力を持った七人の魔人が雁首を揃えていた。
彼等は特別に『魔将』の名を与えられ、総じて七魔将と呼ばれている。
「近頃、人間共の動きが活発になっている」
重苦しい場で、口火を切ったのは歴戦の戦士を思わせる風貌をした男だった。左目に傷を負った隻眼の男は続ける。
「この半年間で、人間共は第299階層まで登ってきている。この階層にある迷宮を突破されれば、次は――我々魔族の領域。事態は非常に深刻だ」
隻眼の男の言葉に、円卓に集まった六人の魔将が顔を顰める。特に不機嫌なオーラを醸し出したのは、蝿の顔を持った魔将だった。
彼の名は、蝿の王――全身は真っ黒な蟲達で覆い隠され、真の姿を見ることは叶わない。
「…………隻眼よ。我は悲しい。ああ、悲しい」
蝿の王は言った。深淵から響く、羽音の如き声音で。
「第300階層は我が領域。ここまで、多くの同胞が、勇者に殺された。我は悲しい。ああ、悲しい。隻眼よ。ああ、隻眼よ。件の勇者、この我に任されよ」
「蝿の王。ならば、貴様に勇者は任せよう。他の者も異論ないな?」
円卓に座る全員に問いかける。
ほとんどの者は、ただ頷き静観する。ただ一人を除いて、蝿の王が負けるとは微塵も疑っていないからだ。しかし、その一人だけは苦言を呈した。
「蝿じゃあ不安で仕方ねえな」
そう口にしたのは、プラチナブロンドの髪をオールバックにした男だった。一見、人に見える風貌をしているが、鋭く尖った犬歯が垣間見えた。
彼もやはり、人ならざる者という証だ。
「シルトブルル――我では力不足と?」
「脆弱な蝿如きじゃあ、弱っちい人間にも負けちまうかと思ってな?」
「蝿……如き? シルトブルル。ああ、シルトブルル。貴殿もまた、人の血を吸わなければ生きていけない吸血鬼――否、寄生虫ではないかな?」
「……あ? なんつったてめえ……?」
「寄生虫と言ったよ。我は」
吸血鬼――シルトブルルと、蝿の王の間に火花が散る。円卓は一触即発の雰囲気だが、他の魔将は止めるどころか、慣れた風に高みの見物をしている。
どうやら、この二人がこうして衝突するのは日常茶飯事のようだ。
「いい度胸だなあ! 蝿ええ!!」
「やめないか、シルトブルル。場を弁えろ」
「……ちっ」
隻眼の男に窘められたシルトブルルは、乱暴に椅子に座り直した。
シルトブルルが矛を収めると、殺気立っていた蝿の王も大人しくなる。
「とにかく、勇者どもの処理は蝿の王に任せる。まさか、魔将ともあろう者が失敗することはないだろうな?」
「ああ、隻眼よ。貴殿まで我の力を疑うのか。悲しい。ああ、悲しい」
隻眼の男は首を横に振る。
「いいや、まさか。ただ、用心はしろ。相手は人間だが――一人だけ違うものが混じっている」
「…………ええ、もちろん。我に油断は存在しないとも。やるのならば確実に。我は蝿の王。暗殺は得意分野なのでね」
蝿の王は言いながら、自分の体を構成していた蟲達を霧散させる。蟲達が消えると――そこにはなにも残らなかった。
蝿の王は飛んでいく。悍ましき羽音を重ね、下へ。下へ。彼が向かうのは人類生活圏第100階層――件の勇者を殺すために、ただ下へ。下へ。
彼の通った後は、腐敗し、なにも残らなかった。
生者に死を告げる地獄の君主。それこそが、万物に死を与える彼――『死翔の魔将』蝿の王なのだ。
お疲れ様です。
読者の皆様に御報告です。
この度、『物理的に最底辺だけど攫われたヒロインを助ける為に、最強になってみた』は書籍化する事になりました。
『書籍化企画進行なう』でございます。なうです。
これも皆様のお陰です。
それに伴って、第二部の更新頻度を落とします。
そして、その時間を使って加筆修正を行い……書き下ろしなど加え、新しくなった『物理的に……』を皆様にお届けできたらと……おおおおお思います。
これからもよろしくお願いします。
というか、タイトル長過ぎませんか? 誰ですかこれ考えたの……全く……。
面白かったから、是非ブックマーク、ポイント評価の方、よろしくお願いします。
やる気……出ます!




