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二十六話 正義、参上

『■■■■■――ッ!!!』

「はあっ!」


 ベヒーモスは咆哮し、逆の前足を振り下ろす。レシアはブリュンヒルデの柄で受け止めて見せる。

 巨大な質量を1人で受け止めた。

 幾ら神器を所持しているとは言え、勇者ですら難しい事をやってのけて見せた。


「あ、あの女……何者なんだよ……?」


 オスコット目を疑う光景を前に、呆然と呟く。

 エレシュリーゼも一瞬、呆気に取られたが……直ぐにモンスター達が侵攻している事を思い出し、全体の指揮を執る。

 そうして、モンスターの大群と人類連合の戦争が始まった――。


『■■■■ッ!』

「叫んでばかりで疲れませんか? っと……」


 レシアは人類連合が、モンスターと交戦し始めた事を尻目に確認する。

 その間もベヒーモスが執拗に攻撃を加えてきたが……その全てを、槍で防いでいた。

 レシアの尋常ならざる力の源は、神器――ブリュンヒルデから得ている。ブリュンヒルデを手にしている限り、彼女は無敵とさえ囁かれている。

 ベヒーモスは、単純な攻撃を防がれる為か、パターンを変化させる。巨体を横倒しにし、肩で地面を抉る様な突進を繰り出す。

 地面が揺れ、巨体がレシアに迫る……!


「…………ふっ!」


 レシアは迫り来る巨体に臆する事無く、気合い一閃――槍を下から抉る様に振るう。

 ベヒーモスの巨躯は、下から掬い上げられる様に地を離れ、宙に舞う。とんでもない質量の巨体が、地面に影を落とす。


『■■■■ッ!?』


 ベヒーモスが戸惑った様な鳴き声を上げる。

 レシアは絶対的な隙を逃さず、槍を投げる姿勢で構えた。

 槍は桃色に発光し、莫大なエネルギーを充填……そして、


「……愛の一撃『ストライクフィリア』!』


 レシアは叫び、槍をベヒーモスに向かって投擲。

 槍――ブリュンヒルデは莫大なエネルギーを放出しながら、大気を巻き込み、爆風を撒き散らしながら突き進む。


 ズガンッ!


 雷鳴が如き轟音と共に、槍はベヒーモスを一撃で貫く。ベヒーモスの巨躯に、巨大な風穴が開けられる。


「――――!」


 それを見ていた全ての人間が、驚愕した光景だった。

 特に3人の勇者は、あのベヒーモスを一撃で倒してしまったレシアに、驚きが隠せない。

 しかし、今はモンスターと交戦中であった為、直ぐに我へと帰る。

 ベヒーモスを一撃で粉砕したレシアは、空から降ってきた槍を掴み取り、一息吐く。


「ふう……」


 ベヒーモス……一番、強いモンスターは倒した。しかし、まだモンスター達はいる。

 ベヒーモスが倒された事で、モンスター達もレシアに群がり始める。

 ベヒーモスを倒したレシアを怖れる事無く……だ。


「私、虫は苦手なのですが……」


 空からは気味の悪い羽音を立てながら、昆虫系のモンスターが向かって来ている。地面からは触手やら植物やら様々だ。


「流石に……少々数が多いですね」


 レシアは呟きながら、迎撃しようと槍を構えた。

 と、突然、炎がレシアに集まって来ていたモンスター達を一斉に焼き払った。

 チラッとレシアが一瞥すると、エレシュリーゼが紅蓮に燃える体で、宙を浮いていた。

 エレシュリーゼは苦笑する。


「要らないお世話でしょうか?」

「いえ、助かりました。実は、多くを相手にするのは苦手なのです」


 謙遜でもなんでもなく事実だった。

 レシアは1人を相手にした時、無類の強さを発揮できる。しかし、広域殲滅が出来ない為、今回の様に10万のモンスターが相手となると……分が悪い。

 エレシュリーゼはそれを聞いて微笑んだ。


「それは良かったですわ……。わたくし、燃やすのが得意ですの」


 言いながら、紅蓮に燃える右腕を振るう。すると、その延長線上に炎が撒き散らされ、モンスターが消し炭となる。

 エレシュリーゼはレシアとは対極で、派手で広域殲滅に長けていた。


「有象無象はお任せを……。レシアさんは、ベヒーモスの様なモンスターを」

「はい」


 レシアとエレシュリーゼは互いに背を預け、向かいくるモンスター達と交戦を開始する。

 この2人が先陣を切った事で、人類連合側の士気は高まる。モンスターと人類連合……戦力差はあるが、それでも戦いは均衡が保たれていた。

 暫くして、負傷者が出始めると、後方にいるモニカが慌ただしく奔走する。


「わわっ!? 『ヒール』『ヒール』! ええっと……『ヒール』! 『ヒール』!」


 100人以上の治療を続ける彼女の魔力量は、尋常ではない。

 モニカとは別に、回復魔法を専門としていた治癒士が、モニカの回復魔法の効力と、その魔力の高さに舌を巻く程だった。

 そんな陰の力もあり、前線は崩壊する事無く――むしろ、徐々にだが人類連合が優勢になりつつあった。


「よーし! これなら! ていやあ!」


 『剛拳の勇者』セインは勢い付き、手に装備された手甲でモンスターを殴る。セインは、剛拳の名の通り己の拳を武器とする武闘家だった。

 彼女に殴り飛ばされたモンスターは木っ端微塵に吹き飛ぶ。


「おらあ!」


 その横で、『旋風の勇者』ことオスコットが風魔法でモンスター達を纏めて吹き飛ばす。


「調子良さそうだね〜オスコット!」

「うるさい。口を動かす前に、手を動かせ! 平民!」

「はいはーい」


 セインの飄々とした態度に目くじらを立てたオスコットだが、モンスターが襲って来た為、セインへの小言を後に回す。

 一方、『鉄壁の勇者』ダルマメットは、自身の身の丈よりも大きな盾を持ち、人類連合の負傷者や非戦闘員を守っていた。

 そんな彼だったからこそ、気になった事があった。


「……10万か。少し妙であるな」


 ダルマメットは天地を埋め尽くすモンスターの大群に目を向け、ぽつりと呟く。

 一体、何が妙なのか。

 その疑問……違和感は、ダルマメットだけではなく、先陣切って戦うレシアとエレシュリーゼも感じていた。

 エレシュリーゼは群がるモンスター達を焼き払いつつ、レシアに目配せする。


「レシアさん。少し妙だとは思いませんこと?」

「……そうですね。妙です」


 レシアはモンスターを槍で斬り伏せて、エレシュリーゼの問いに答える。


「10万にしては、我々が優勢過ぎます。このままならば、我々が勝利するのは間違いありませんわね」

「はい……だからこそ、違和感を感じるという事ですね? 恐らく、エレシュリーゼ様も私と同じ考えでしょう……」

「ええ、これは……10万も居ませんわ」


 そう……この場には10万も居ない。

 エレシュリーゼとレシアは、そう確信していた。

 だが、妙なのはそれが分からなかった事だ。

 モンスターの大群が接近すれば、先程の様に警報がなる。それと合わせて、規模などの正確な情報が随時伝達される仕組みとなっている。

 この場に10万のモンスターが居ないという報せが無かった。もしも、ここに10万いないのであれば……全く逆の方向から攻めてくる恐れがある為、戦力をここに集中させている今、大変な事になってしまう。


「嫌な予感がしますわ……」


 丁度、エレシュリーゼがそう零した時だった。

 エレシュリーゼの元にセインが慌てた様子で走って来た。


「た、大変だよ! エレちゃん! 今、報せがあって……南から4万の大群がこっち向かってるって!」

「……っ!」


 エレシュリーゼの嫌な予感が的中してしまった。


「くっ……何故今になって……!」

「分かんないけど……計測器が何らかの影響で反応しなかったみたいで、目視できる距離まで気が付かなかったって! と、とにかくどうしよう!」


 エレシュリーゼは爪を噛む。

 4万……今、戦っているのは北だ。南まで戦力を移動させるのは時間が掛かり過ぎる。何より、今は優勢であってもこちらも戦力が乏しい状況。仮に勇者全員が南へ向かっては、いつまでも前線の維持は難しい。


「私が行くしか……」


 だが、エレシュリーゼ単独では、流石に4万を相手取るのは難しい……と、


「私も行きましょう。ここは、他の勇者の方々にお任せします」


 レシアが冷静に状況を分析し、エレシュリーゼに提案する。エレシュリーゼは少しだけ悩んだが、頷いた。


「合点承知! ここが片付いたらあたし達も直ぐに駆け付けるからね!」


 セインはそう言って、モンスター達を屠りに出る。

 エレシュリーゼは直ぐに南へ移動する為に、レシアを連れて空を飛び、急行する。

 目視できる距離となると、かなり近い事が予想される。果たして、援軍が来るまでに2人で持ち堪えられるか……どうか。

 数分程空を飛び、南の外壁上に降り立った2人は――そこで信じられない光景を目にする。


「こ、これは……!?」

「なっ……」


 エレシュリーゼもレシアも、目を丸くさせた。

 2人の視線の先には、モンスター達の亡骸が転がっていた。中には、先程レシアが相手にしたベヒーモスもいたが、縦に一刀両断されていた。

 エレシュリーゼが報告を受けてから、およそ10分前後の僅かな時間――どうやったら、これだけ死骸の山を積む事が出来るのだろうか。


「一体……何があったというの……?」


 自然とエレシュリーゼの口からそんな言葉が零れる。

 ふと、2人の視界に1人の男が入った。

 プラチナブロンドの髪をした美男子で、モンスター達の亡骸の山上で、剣を立てて泰然と立っている。


「はあ……限界まで待ってはみたが、首謀者らしき者は現れなかったな。しかし、これ以上は流石に我慢の限界だ……。俺の正義に掛けて、街に被害を出す訳には行かないからな!」


 男は天を仰ぎ見ながら、独り言を呟いている。


「というか、オルトめ……。きっかり5万もこっちに逃がしたな! はっはっはっ! …………絶対後で殴る! 覚えてろよ! オルトおおおお!!」


 男――――ラッセルは、怒っていた。




 この度、本作は日間ランキング6位になりました。

 つい先日、スマホを落として画面を割った不運を超える嬉しさに、踊り舞って再びスマホを落とし掛けました。

 このままランキングが上がるにつれて、私がスマホの画面を、割らない事を祈るばかりです。

 お読み下さったみな様、またブックマーク、ポイント評価をして下さったみな様、誠にありがとうございます。

 これからも頑張って更新していきますので、著者共々宜しくお願い致します。


あ、ブックマーク、ポイント評価をして頂けると……やる気が――出ます!



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