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二十五話 VS10万のモンスター

15



 レシア・アルテーゼは、所属している4大勢力の1つ――ノブリス騎士団の騎士達に指示を飛ばす。

 彼女は、騎士団の中でも最上層騎士の称号を与えられた騎士だ。強い階級社会主義である騎士団において、レシアの階級は騎士団長の次に高い位。故に騎士達は、レシアが女であるからと侮る事はない。

 レシアは、一通り指示を出すと疲れたのか、設営されたテント内で溜息を吐く。

 街にある2つの出入り口を封鎖させ、防衛線の準備も急ピッチで進められている。


「あ、お疲れ様です。お水要りますか?」

「……モニカさんですか。いただきます」


 モニカはテントに物資を運んで来た様で、手には木箱が抱えれていた。


「私のお水ですけど……はい、どうぞ」

「ええ、ありがとう」


 木箱を置いたモニカは、テーブルに置いてあったコップに自身の魔法で生成した水を注ぎ、レシアに手渡す。レシアはそれを口にする。


「ん、美味しいですね」

「ありがとうございます」


 モニカははにかんだ。

 

「少し意外です……」

「意外?」

「あの……こんな事言うのも失礼だとは思うんですけど。レシアさんって、とっても高貴なお人なので……私みたいな平民とは馴れ合わないと思っていました」

「こ、高貴ですか……」


 レシアは後ろめたく思い、モニカから視線を外した。

 モニカはそれを不思議に思い、首を傾げた。

 レシアは、咳払いをする。


「こ、こほん……。それより、何故モニカさんがこちらに?」

「あ、志願したんです! こんな大変な時に何もしないのは……ちょっと。だから、できる事をしようと思ったんです」

「そうですか……」


 レシアとしては、モニカがここに居る事を咎めようとはしなかった。レシアは勇者選抜戦の予選で、モニカの実力を見ている。彼女の戦闘力は特別高い訳ではない。特筆するべきは、彼女の回復力だろう。


「モニカさんには後方で負傷した戦闘員の回復をお願いします」

「はい! 分かってます! 任せてください!」


 モニカは水属性魔法との親和性が高い。攻撃力は低いものの、水属性魔法は回復・治癒に優れている。その上、モニカは『エレメンタルアスペクト』を使う事ができる。レベルだけなら、学生レベルではないだろう。

 そういう意味で、レシアはモニカを評価していた。


「あまり無理はしないで下さいね」

「はい、お気遣いありがとうございます。……? それは?」

「え? ああ、これですか?」


 モニカはレシアが懐から出した物が気になり尋ねた。レシアが懐から出した物は、丸い球状の物体。完全な球ではなく、所々凸凹していた。

 見た所、芋に見えなくもないが……まさかレシアが芋などといった平民が食べる物を態々懐に入れていないだろう。だが、このモニカの予想に反して、レシアはしれっとした態度で「芋ですよ」と答えた。


「え……芋ですか?」

「ええ。ただの芋です。正確には、岩食い芋という芋です」

「岩食い?」


 岩食い芋は、その名前の通り土ではなく岩に根を伸ばし成長する下層で、取れる芋だ、栄養価が高く気付けに1つ食べるのが良いとされる。下層の食糧事情を支える数少ない食べ物だ。だが、正直な話……味が悪い。

 そんな下層の芋をモニカが知る訳がなく、小首を傾げた彼女にレシアは苦笑した。


「この芋を……何か大事な事の前に食べるのが習慣なんです。深い意味は無いのですが……。なんとなく、食べたくなるのです」


 レシアは蒸した芋を齧る。やはり、味は良くなかった。しかし、思い出す。幼少の頃、良く食べていた。想い出の味である。


「さあ、それでは仕事に戻りましょう」

「あ、そうですね! 私もまだ、物資を運んでる途中でした! 失礼します!」


 モニカは思い出すと、慌ててテントを飛び出す。残されたレシアは、岩食い芋を平らげると一息吐く。

 この芋を食べると、ついつい昔の事を思い出してしまう。今もう色褪せてしまった大事な記憶。大切な想い出。その中心にいる少年の顔。


「はあ……これじゃあダメね。あたし……」


 レシアは手近な椅子に深く座り込み、天を仰ぐ。


「……さあ、しっかりしなさい。レシアっ。まずは、モンスター達をなんとかしないと……」


 気合を入れ直す為に、レシアは自分の頬を叩く。

 そして、現場に復帰したレシアを中心に防衛線は滞りなく完成。

 エレシュリーゼの方も部隊編成が完了し、4人の勇者を筆頭にモンスターの大群に対する準備は万全。

 それからおよそ数十分後。

 開戦を報せるかの様に、気味の悪い羽音が戦場に響く。


「来ましたわね……」


 勇者であるエレシュリーゼは対モンスター連合軍の先頭に立っていた為、その羽音を誰よりも早く聞いていた。

 続いて、レシアも騎士団の先頭で白馬に乗っていたので、その羽音が聞こえた。

 次第に肉眼で確認できる距離になると、戦場に立っていた者達全員が息を呑んだ。


「あれは……」

「うわお……すっごいね……」

「っ……なんだ、あれは……」


 ダルマメット、セイン、オスコットらは、それぞれ異様な光景に戦慄する。

 彼らの視界には、空と大地を埋め尽くす程の黒い有象無象が見えていた。その全てがモンスター。

 それを理解した者達は、みな当然の如く戦慄し、恐怖する。エレシュリーゼでさえ、あまりの数に驚愕していた。

 唯一の例外は、レシアだった。


「ん……何か居ますね」


 レシアはモンスターの群れの中を注意深く観察していた。その中に、一体……とてつもない大きさのモンスターが、群れの陰に隠れて向かってきていた。

 そのモンスターは次第にその巨躯を露わにする。

 強靭的な獅子、獰猛な爪や牙、鋭い眼光……膨張した筋肉は赤黒い肌の上からでも、細かな動きが分かる程発達している。


『――――■■■■■■ッ!!』


 咆哮――。

 それと同時にモンスターの群れが散り散りになる。群れの中から現れたのは――。


「ま、まさか……! あれは第200階層にいるベヒーモス!?」


 オスコットが叫ぶ。

 セインもダルマメットも、実際見た事があった。だから、オスコットの見間違いではない。

 現在、勇者達は第200階層より上の階層の調査が滞っている。その原因こそ、あの巨大なモンスター……ベヒーモスだった。

 勇者10人がかりでも倒す事ができないとされる、超危険なモンスターである。


「あ、あれは……あれは無理だ! 後退だ! 後た――」

「騒ぎ過ぎです」


 オスコットが後退の指示を飛ばそうと……それを遮る様にレシアが馬から降りて言った。オスコットは怯えた表情で訴える。


「馬鹿! お前はあれと戦った事がないからそんな平然としてられるんだ! あれは……あれは本当の化物なんだよ! もうこの階層は終わりなんだよ!」


 事実、オスコットの言う通りベヒーモスは化物だ。セインやダルマメットも否定しない。エレシュリーゼは、ベヒーモスと交戦していない為、否定も肯定もできなかったが……少なくとも強敵であるのは伺えた。

 レシアはそんな弱腰な勇者達に半顔を向ける。


「……はあ。それでも、勇者ですか? いいでしょう。あのベヒーモスというモンスターは、私一人で相手をします。その間、モンスター達はお願いします」

「なっ……しょ、正気か!?」

「正気ですが?」


 レシアは手に例の槍を出現させ、ベヒーモスに向かおうと歩き出す。エレシュリーゼは幾らでなんでも1人では行かせられないと、彼女も馬から降りる。


「れ、レシアさん! お一人では……」

「エレシュリーゼ様は前線にお残り下さい。指揮を執る者がいなければ、10万のモンスターを退けるのは難しいですから」

「レシアさん!」


 レシアはエレシュリーゼの制止も聞かず、地面を蹴って駆け出す。

 一体、彼女の体のどこからその様な力が出るのかと疑問に思う膂力で、一瞬で加速。そして、モンスターの大群の中心に、単身で乗り込む。

 だが、ベヒーモスの周囲は、むしろモンスターがいない。他のモンスター達も、ベヒーモスを恐れているからだ。


「まあ、予想通りといった所でしょうか……ん」


 レシアの眼前には、既にベヒーモスの巨躯があった。

 ベヒーモスは突然、現れたレシアを見下ろす。

 そして――。


『■■■■■■ッ!!』


 怒りにも似た咆哮を上げながら巨大な前足を振り下ろす。

 遠目からそれを見ていたエレシュリーゼ達は、思わず目を背けるが……次の瞬間、辺り一帯に衝撃波と爆発音が走った。見ると、レシアが細腕で、ベヒーモスの一撃を受け止めていた――!


「全く……せっかちですね。焦らなくても、私があなたの相手です」


 レシアは不敵な笑みを浮かべた。





つい昨日、スマホの画面を割ってしまいました。

本日の朝、早速ショップに行きました所、修理ではなく機種変更を勧められましたので最新機種へ変更致しました。

私は、意気揚々と小説を書きました……そんな時でした。

私が今まで使っていたスマホよりも、最新機種は一回り程大きく、いつもの感覚で、片手で書いていた私は――うっかりスマホを落としてしまいました。


また、画面が割れました。

私は馬鹿です。


あ…………ブックマーク、ポイント評価をして頂けると……元気が……出ます……。

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