◆10◆ ファーストサプライズ
これって一種の脅しだよね? 脅迫だよね?
せ、性格悪いよ氷堂さんっ! 何がしたいのーっ?
そんなに私を勧誘したいなら、もっと別の方法がなかったの? こんな強引なやり方しかなかったの?
意味分かんない!
「そうだ! こねこちゃんにガイちゃん紹介してなかったね。あたしと同じ二年生のガイちゃんだよー」
「志緒、あだ名だけじゃなくてちゃんと紹介してよー。あ、二年の永井だよ。永井のガイだけ取って、ガイちゃんって呼ばれてるんだ。気軽に呼んでね」
「ガイちゃんの名字はナイスガイ、略して永井だよ! 」
「適当なこと言わないの! 本名なのに混乱させちゃうでしょー! 」
「えへへー」
何だかこのロリショタコンビ……じゃなくて志緒先輩とガイ先輩は、お似合いのカップルって感じだなぁ。ボケとツッコミが絶妙すぎる。見た目もかわいい系同市で様になってるし、嫌味のないいちゃいちゃぶりだし。
まぁナイスガイって言葉は、かわいい系の男の子には適用しないと思うんだけど、どうでもいいか。
ガイ先輩のふわふわな天然パーマ、ちょっと羨ましいなぁ。私の癖毛とは違って柔らかそうで触ってみたい……。
それに、実物の「男の娘」って初めて見たけど、お目々とかぱっちり二重で本当に女の子みたい……。ううん、そこらの女の子より全然かわいい。私がジャージ着ててもただのイモだけど、ガイ先輩のジャージ姿は無条件でかわいい。かわいいしか出てこないけど、きっと何着ててもかわいいんだろうなぁ。
一方の志緒先輩は、童顔を気にしているわりにツインテールとかツッコミどころ満載……。髪型が童顔を引き立たせているのを自覚してないのだろうか? してないんだろうなぁ。だからガイ先輩にいじられてるのも分かっていないご様子だし。似合ってるから違和感はないけど、しいて言うなら、その童顔と髪型は制服に違和感を覚えますよ? コスプレですか? とか思ってしまう……。
そして、かわいい系二年生を差し置いて、一人だけ大人びた氷堂さん……。横に流した前髪がさらりと落ちてくる度に、耳にかける仕草が何とも色っぽい。ただの美人系ではないフェロモンを醸し出しているし……。
性格はともかくだけど!
そんな演劇部、見た目で言ったら最高にお花畑な舞台じゃないですか? この中に私が混ざれと?
お花畑にイモ転がってますけど、いいんですか? ……みたいな。
私のような舞台映えしないちんちくりんを入部させて、何を企んでるんだろうか。何で私? 人前に立たせるなら、かわいい子なんてざらにいるじゃない。もっとお芝居のイメージに適した子がいるはずなのに……。
ん? イメージ?
そういえば、先輩たちがさっきから、イメージがどうのこうの言ってたような? 私のイメージって何?
「あのぅ、いまいち私が勧誘された理由が分からないんですけど、イメージってどんなイメージなんだか……」
「あれれ? 菜々ちんから聞いてないんだ? 今度の脚本で人が足りないから、役のイメージに合う子をスカウトしてるんだよー」
にこにこしながら説明を始める志緒先輩と、隣でうんうんと頷くガイ先輩。あっさり答えてくれるんなら、初めからちゃんと聞いておけばよかった……。
まぁ、みなさんが説明もなしに勧誘してきたのも、どうかと思いますけどねー。
今朝、志緒先輩が話しかけてきた時も訂正してたけど、勧誘とスカウトってそんなに違うの? 単に部員が足りなくてお芝居が成り立たないから誘ってるんでしょ。
そもそも、部員三人でお芝居やろうってこと自体が無謀でしょ。
「部員が足りないなら、先輩方と氷堂さんの三人で出来るお芝居に変更したらいいんじゃないですか? 演劇に興味のない人を誘って上演するより、部員だけで作る方がよっぽどクオリティ高いと思いますけど……。私なんて経験もないし、例え見た目がイメージと合ってたとしても、台詞がボー読みだと台無しになっちゃうし」
「部員はうちら三人だけじゃないよ? 今日は来てないけど、全員で六人いるんだ。それと、スカウトした一年生がもう一人いるよ」
「もう一人? 私以外にですか? そんなにいるなら一人二役にするとか、別の一年生を勧誘するとか……」
「こねこちゃん、さっきから言ってるけど、これは勧誘じゃなくてスカウトなの! いーい? 部員が足りなくて誘うのは勧誘。役のイメージにぴったりだなーって誘うのがスカウト! 」
誘うことに変わりないじゃんって思うのは私だけ?
またまた隣でうんうんと頷くガイ先輩が、今度は志緒先輩の続きを語り出す。
「うちらはプロじゃないからさ、音響とか照明とかの裏方も、自分たちでやらなきゃいけないんだよね。どうしても人手が足りなかったら、最悪クラスメイトに頼まなきゃいけないけど、練習の段階から来てもらうのは難しいんだよ。みんな部活やら塾やらがあるからさ。それにね、演劇部に所属してる人が、全員出演希望で入部してるわけじゃないんだよ。裏方がやりたくて入ってる人もいるんだ」
「それは、そういう人もいるかもしれませんが……」
「ここからが本題なんだけどね、今度の脚本は去年卒業した先輩、つまりうちらの二つ上の先輩が書いたものなの。でも、ご覧の通りうちには一つ上の先輩がいないから、二つ上の先輩とうちらの学年だけでは人が足りなくて、結局去年は上演出来なかったんだ。だから、今年こそは絶対上演しますって先輩たちと約束したってわけ」
ガイ先輩、永井先輩だけに話が長い……。そして熱い。
そういえば、ここの部ってゆるゆるだって言ってなかった? この話の流れに緩いオーラを感じないのは、気のせいじゃないよね……。来てない人が四人いることを緩さと言っているんだかよく分かんないけど、少なくともこの状況がゆるゆるではないことだけは確かでしょ。充分に熱血青春してそうな気もする……。
「それでね、こねこちゃんには菜々ちんの相手役をやってもらいたいんだよー」
「相手役? それって……」
それって、もしかして、イメージって、見た目って、この発育のないつるぺたを生かした男の子役…とか言わないよね?
嫌な予感しかしない私の顔色を察したのか、志緒先輩がツインテールをぶんぶん振りながら付け加えてきた。
「違うのっ! あのねあのね、確かに菜々ちんが女の子役で、こねこちゃんにお願いしたいのは男の子役なんだけど……」
「やっぱりですか……」
「だからね、違うのっ! 男の子って言っても、かわいい男の子のイメージなの! かわいいの、かわいいの! 」
そんなに首振ったら髪ほどけそうですよ……。って、まぁそれくらい志緒先輩は必死でフォローだか説得だかをしようとしてるんだろうけど。
かわいい男の子役が必要なら、リアルなお隣の方に演じて頂けばいいのに……。と、自然にガイ先輩に目が行く。
「言っておくけど、ガイちゃんはもう役が決まってるからね。ガイちゃんはガイちゃんにしか出来ない役が付いてるから! ねーっ! 」
「そうなんだよ。それに、うちの彼氏、ヤキモチ妬きさんだから、その……キスシーンとかダメなんだよね……」
「そうそう! ガイちゃんの彼氏さんは怖いし厳しいし、誰も逆らえないからねぇ」
え? 待って待って、色々待って?
ガイ先輩に彼氏? そっちなの? ガイ先輩ってそっちの方なの?
わ、分からなくはないけど……うん、そこらの女の子よりかわいいし、同性でも好きになっちゃう気持ち、分からなくはないけど、そうきましたかー……。
でも待って? 「男の娘」って、みんながみんなゲイとは限らないんだよね? 女装してるだけでゲイじゃない人もいるんだよね? このジャージ姿でさえ、下手な女の子よりかわいいんだから、私服でデートで萌え萌えなの? そんなガイ先輩は、怖くて厳しいマッチョ系彼氏がお好みなの?
マ、マッチョかどうか知らないけど、そうなのね? ガイ先輩には彼氏さんがいるのね……。リアルゲイ、初めて遭遇した……。まさかゲイ先輩がガイだとは……。
ん? 違った。ガイ先輩がゲイ、だった……。
で、で?
「キキキキ……キスシーンって……! そんなの中学生の演劇部でやるんですかっ? そ、そりゃ誰だって嫌じゃないですか! 彼氏さんがいいって言っても、自分が嫌ですよねー? 」
「いやぁ、別に彼氏がオッケーしてくれれば問題ないんだけどねー。女の子とするくらい……」
お、女の子とするくらいっ? そそそそりゃ、男の子からしたら、女の子とキスするくらいどうでもないことなのかもしれないけど……。軽いのね、意外と軽いのねガイ先輩……。
っていうか、バイなの? そういうことなの?
ガイがゲイでバイで……?
男の娘は男の子とはキスしてよくて、でも許可がないと女の子と出来なくて? あ、でも、許可なくても出来なくないけど出来なくて……?
ガイ先輩は女の子とキス出来ないから氷堂さんの相手役が出来なくて、でも、だけど、だから、私に相手役をやってほしいと……?
私なら女の子とキスしてもいいと? 氷堂さんとキスしてもいいと?
しろ、と?
待って待って! まだ思考が現実に追いつけないー!
この部、おかしいよ! 何言ってるの? 何考えてるの?
もう、ファーストサプライズが一気に訪れすぎて、訳分からないーっ!




